窓展:窓をめぐるアートと建築の旅 @ 東京国立近代美術館







東京国立近代美術館で開催中の「窓展」に行ってきました。
もう窓というテーマを聞いた時点で興奮します。
昔「風景」をテーマに展覧会を作ったことがあって、そこにも「窓」は重要な要素だったし、僕は絵画をやってたので、窓は切っても切り離せないし、僕のインスタレーション作品にも窓は大きな要素を占めてる。
「窓」は本当に豊穣な世界を持ったキーワードなんです。
さらに担当学芸員が蔵屋美香さん。
そして五十嵐太郎らの窓研究所とのタッグ。
もはや面白くない要素がない!
とかなりハードル上げて行ったんですが、そのハードルをさらに超える素晴らしい展示でした!
まず美術館中庭には藤本壮介の代表作House Nのモックアップ。
実物は見たことないですが、中に入ると窓枠と窓枠が重なり合って、空を幾何学に切り取る様は爽快。
中は入れ子構造になってるので、どこを切り取っても違う幾何学が登場する。
この日は快晴の秋晴れだったので、余計青い空とのコントラストが素晴らしかった。
会場に入るとまず飛び込んでくるのが、有名なバスター・キートンの名場面。
キートンの後ろの家のファサードが剥がれて倒れてくるんだけど、キートンは窓の部分にいたので無事っていう。
これはスティーブ・マックィーンも作品でやってたし、福山雅治もCMでやってましたね。
様々なジャンルから参照してくるキュレーションめっちゃ好きなんですよね。
しかも冒頭からですから、個人的にめっちゃテンション上がった。
最初のテキストにも、ちゃんとアルベルティの「絵画論」における「開かれた窓」が引用されてて完璧。
見知らぬ他人を窓から撮った横溝に、窓から外を覗く人々を撮った郷津雅夫の写真が並んで、もう一部屋目から完璧!
次の部屋には窓を巡る歴史年表と、建築家のドローイング。
この部屋は、こういう大きなテーマを掲げる展覧会において重要。
というのも、窓に関する作品もあれもこれもと集め出したらキリがないから。
なんであれがなかったんだろう、というのも一気に解決。
持ってこれない「最後の晩餐」なんかも、年表に織り込んじゃえばちゃんとおさえてることになるし。
これは中々賢い方法だと思いました。
窓の発展と、ああ、確かにこの作品も!っていう確認にもなって面白かった。
そして建築家たちのドローイングがすごい。コルビュジエのロンシャンのドローイングとか!
次からは近代の名作たちがこれでもかと登場して目眩がします。
なんといってもマティス。
彼の描く窓は本当にユニーク。
部屋の中と外の区別が曖昧で、窓を描いた画中画なんじゃないの?という錯覚も。
これはマティス自身が意識していたようで、解説に詳しく書いてました。
曰く
「私の感情にとって、空間は水平線から私のアトリエの室内に至るまで一体をなしていますし、通り過ぎる船は私の周囲のなじみの品物と同じ空間のなかを生きている。壁にしつらえられた窓は、2つの異なる世界を作り出しているわけではないのです。」
彼の絵の中では、外も中も全くの等価。
冒頭アルベルティが、絵画論で絵画を窓に捉えたのは、絶対的な「外」を描くための装置として触れていたのとは相反する態度です。
マティスの隣にティルマンスの写真があるのも面白い。
ここからさらに抽象画へ。
アルバースにロスコ。ロスコがやっぱり最高すぎる。
もはや窓は、外を眺めるものではなく、内面を見つめるためのメタファーになります。
そして極め付けがデュシャンの「フレッシュ・ウィドウ」。
最近デュシャンに関する本を改めて読んでたので、具に見られて棚ぼたでした。
リキテンスタインのキャンバスの裏を描いた作品も初めて見たけど面白かった。
この後展覧会は、個展形式で流れていくのも面白かった。
奈良原一高の修道院や刑務所の窓を捉えた写真や、日中韓(小沢剛、チェン・シャオション、ギムホンソック)のユニット西京人の国境を皮肉ったインスタレーション、ユゼフ・ロバコフスキの変わりゆくポーランドを22年間にも渡ってただただ窓から眺め続けた映像、ローマン・シグネールの窓を使った破天荒なアクション等々。
どれも「窓」というテーマ一つでここまでのことができるのか!と舌を巻くばかり。
途中、コンピューターのウインドウのセクションがあったけど、ここはもう少し広げられたように思う。
そして最後の方に来て、THE PLAYや山中信夫を持ってくるのはエモい。
彼らの作品は、マスト中のマストなのです。
そしてフィニッシュがリヒターっていう、出来すぎた展覧会。。。
本当に素晴らしかった。
敢えて難を言うなら、最初にキートン持ってきたんだから、もう少し美術や建築外からも窓に纏わる表現持ってきてほしかったなーと。
ヒッチコックの「裏窓」なんてまさにだし、あと日本画とかも。
個人的には久隅守景の「夕顔棚納涼図屏風」なんか最高だと思う。
日本の建築には元々窓という概念はなかったんだけど、この絵には窓を感じるんですよね。
まあ、この絵は東博のコレクションだけど、近美のコレクションにも絶対なんかあるはず。
本当に言い出したらキリがないんだけど、それだけ横にも縦にも延びるテーマなので、シリーズ化とかしたら面白いなぁ、などの妄想してみたり。
東京近美での展示は来年2/2まで。こちら。
その後来年夏には丸亀へ。
ところでこの展示鑑賞後に真っ先に向かった先は、この美術館にある「眺めのいい部屋」でした。
これぞこの窓展を強化するであろう要素なので、展覧会出口に案内出すべきかと。
ここからは皇居が真正面に見られるんですよ。
いつもは素通りするけど、改めて堪能しました。

あと、東京近美はコレクションも素晴らしいんですよね。
鏑木清方の新収蔵作品展も良かった。メインじゃないけど1年12ヶ月の作品は泣きそうになった。
あと驚いたのが、戦後のセクションで、当時の子供達の絵が展示されてたこと。
こんなものまで収蔵してるのか!と。
本当に素晴らしい美術館だな、と改めて。

最近お店で「現代美術ってどう見たらいいんですか?」という最早普遍的な質問を受けるんだけど、もうね、答えは決まってて「勉強してください」としか言いようがないんです。
なんか美術って感覚的なものと思われがちだけど、特に近現代美術に於いてはほぼ学問に近い。
算数の知識がないと数学が解けないように、それなりの背景や歴史を知ってないと楽しめません。
ということで、今回の「窓展」は勉強してみたい人とってはうってつけかと。
あと近美のコレクションで補完もできて、こんな親切な場所はないかも。
あと最近僕が読んだ2冊は、とても平易な文章ながらめちゃくちゃ勉強になるのでおすすめ。
平芳幸浩著「マルセル・デュシャンとは何か」
森村泰昌著「自画像のゆくえ」
ちょっとでも近現代美術わかりたいって方はぜひ読んでみてくださいー。
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