「サタンタンゴ」 by タル・ベーラ
上映時間=7時間18分
フィルムの長さ=4万フィート(約12km)
フィルムの重さ=104kg
数字で見ただけでもこの映画の異常さが伝わる。
1994年に公開され、一躍巨匠に祭り上げられたタル・ベーラの伝説的作品。
ハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースローの小説を元に、タンゴのステップ<6歩前に、6歩後ろへ>に呼応して全12章によって織りなされるストーリーライン。
前半6章と後半6章に分けられ、それぞれ同じ話が視点を変えて繰り広げられます。
そして最後はなんと円環を閉じる見事なラストが。
この度300時間以上をかけて4Kデジタル・リマスター版が完成し日本初お披露目となりました。
というわけで、ものすごく楽しみにしていたこの上映。
もはやこの長さは家で鑑賞するのはほぼ不可能。
映画館という映画を観るための装置に入り浸らないと観られません。
とはいえ7時間18分。。。
ものすごい覚悟を決めて行ってきました。
友人は来日トークにも行ってたので、映画館に12時入り、出たのが21時半という。。。
常軌を逸していますが、なんと連日予約で完売してるんですよ。
日本も捨てたもんじゃないな、って思いますね。
さて、上映。
もうね、始まる時の緊張感が半端なかった笑
もう、出発したら戻れない。。。という緊張感が場内を包みます。
この感じ何かに似てるな、と思ったのですが、長距離の飛行機に乗った時の感覚に近いかも。
実際ハワイぐらいは行ける時間ですものね。。。
とはいえ、ここからはめくるめくタル・ベーラワールドへの旅が待ってます。
のっけの牛のシーンからやられた。
「ニーチェの馬」の馬もそうだったけど、これほど動物たちをドラマチックに撮れる監督っていないんじゃないかしら。
この映画には牛・馬・豚・犬・猫・蠅・蜘蛛といろんな動物出てきますが、どれもしっかり演技指導されてるんじゃないかってぐらい完璧な動きをするんですよね。
この映画で話題に上るのが何と言っても猫のシーンですが。。。
猫好きにはもう拷問のようなシーンでした。
正直このシーン見てる間はこの映画マジクソだなと思ってしまいました。。。
本当に壮絶。
その後ちゃんとタル・ベーラが飼ってると聞いて安心しましたが。
あと蠅や蜘蛛もすごい。虫にまで演技指導ができるのか!
馬が街を駆け抜けるシーンも圧巻。
街を貸し切って撮ったんだろうか?
自然現象とか物の動きとかも綿密すぎて衝撃。
上の予告編の冒頭の風が吹き付ける映像も圧巻。
映像中雨が降りしきってるんだけど、豪雨じゃなくて小糠雨みたいな感じで、すごく嫌な雨なんです。
以前アレクセイ・ゲルマンの「神々のたそがれ」でも小糠雨が降りしきる世界を描いてましたが、僕はその不快感に初めて映画館を途中で出るという経験をしたんですが、タル・ベーラのそれは心地いい不快感というか、あんまり嫌にならないんですよね。なんでだろ。
それにしても誰も傘をささないのが気になった。陽水的世界。
長回しでよくもここまで綿密な画が撮れるな、と。
タル・ベーラの映画って徹底的に無駄な人物が排除されてるのも特徴。
今回もエキストラ的な人物は全くいなくて、この世界はどうなってるんだろうと思う。
街中にも人っ子一人いないし。
こういう「世界の終わり」を撮らせると本当にすごいですね。
こんな監督ほかに思いつかない。
それだけに前作「ニーチェの馬」で引退してしまったのは残念でならない。
正直、「サタンタンゴ」は素晴らしかったけど、やっぱりその後の「ヴェルクマイスター・ハーモニー」や「ニーチェの馬」に比べると無駄な部分が多い印象。
どんどん研ぎ澄ませていって「ニーチェの馬」に至ったと思うと、まあ引退も仕方ないとは思います。
とはいえ新作のない中、しかもこれだけ長尺の伝説的作品を観られる機会はもうそうそうないと思うので時間ある人は是非観にいったほうがいいと思う。
観終わった後の達成感も半端ないです!
公式HP http://www.bitters.co.jp/satantango/
インタビュー https://www.fashionsnap.com/article/2019-09-17/tarr-bela-interview/