小さいながらもたしかなこと 日本の新進作家vol.15 @ 東京都写真美術館

写美へ。(TOP MUSEUMなんて死んでも言わない)
いつも写美は並行して2つ3つ展示をやってますが、今回は珍しくどれも気になる展示。
まずは3Fの「建築x写真 ここのみに在る光」。
ダゲレオタイプに始まり、アジェ、石元泰博の「桂」、宮本隆司の「九龍城砦」、細江英公の「ガウディの宇宙」、柴田敏雄、 二川幸夫、奈良原一高、、、と、これでもかという著名建築写真のオンパレード。これはすごい。ベストアルバム的な内容で酔いしれました。そうそうベッヒャー夫妻まであったんだった。これに杉本博司があれば完璧だったけどそこまで言うまいという素晴らしい内容でした。
お目当ては2Fの「小さいながらもたしかなこと」。
この企画は2002年から毎年日本の新進作家を紹介する企画。
今回の担当学芸員の伊藤貴弘さんは1986年生まれとお若い方。
選ばれた5人に共通して言えるのは、写真の物質感だと思います。
特に前述の3Fの展示を見た後だとその差異が特に際立ちます。
ただプリントした写真を展示するのではなくて、今やこれだけインスタだので画像が氾濫してる中で、敢えて作品として提示する意味を意識して作られてるな、という印象。
ファインアートとして写真を撮る現在の作家は特にそのことを意識していないと本当にまずいと思う。
今回この5人は見事にそれを意識されていて見ていてとても気持ちが良かった。
少し脱線ですが、最近ティルマンスがオペラの美術を担当しました。こちら。
こういう舞台美術って大体がインスタレーション作家や彫刻家など、もともと空間を扱う作家が手がけることが多いですが、彼は写真というメディアを使ってこれまでも空間を作ってきたからこそ成せる技なんでしょうね。
さらに脱線というかこの流れで地下のマイケル・ケンナの写真は本当に悪例だと思う。
見ていて全然時代についていってないというか、これならインスタでよくない?ってなりました。
ひたすら並べられるただただ美しい白黒写真に辟易してしまった。。。絵葉書でした。
というわけで戻って2F。
もう一つ面白いのは、5人の中にヘテロ男性がいないこと。
別にジェンダーで気にしてみる必要はないんだけれど、特に出品してる男性2人はゲイで、あとは女性。
これって笠原美智子さんの影響なのかな、と勘ぐってみたりしそうになるんだけど、その笠原さんが1968年展やアジアに目覚めたら展に女性の出品があまりにも少ないと仰ってたこととは真逆の事態が起こっていて、これも時代なのかな、と思うとちょっと面白かったり。
で、内容ですが、全体を通して素晴らしかったと思います。
特に森栄喜さんとミヤギフトシさんにはやられました。
森さんは血のつながりや家族をテーマに作品を作られていますが、今ちょうど新宿3丁目にあるKEN NAKAHASHIでも展示をされていて、その「Letter to My Son」という新作が素晴らしいんですよ。
美術館では寒冷紗みたいな布に投影されてますが、写真の本質をついてる気がする。
というのも、一人の青年を撮ってる映像なんですが、一つのシーンにつき長くとも5秒も満たないようなシークエンスが続くんだけど、その眼差しみたいなものがぐんぐん流れ込んできて泣きそうになる。
写真って基本的に近しい人を撮るものだと思うんだけど、写真に撮る対象に向ける眼差しって基本的に愛おしさみたいなものが含まれていて、写真は瞬間を切り取るものではなくて、その愛おしさの時間みたいなものが詰め込まれてるものだと思う。
撮るよ撮るよー、もうちょっと右、ハイ、チーズっていう流れも写真に入ってると思うんです。
その感覚が見事に映像になってて、会ったこともない青年が愛おしくなってしまう。
家族を演じた「Family Regained」シリーズも愛おしいんだけど、「Letter to My Son」はさらに愛おしさの濃度が濃い。それはタイトルにもあるようにまるで自分の息子に宛てた手紙のように、本当に大事な出来事なんだな、と思います。
そしてミヤギさん。
展示がかっこよすぎる。なんなんですかあれ。
暗闇の中に浮かぶ薄暗い男たちの肖像写真。
さらに奥へ行くと写真と同じ配置で浮かぶ写真を撮ってる時の映像。
この作品は、対象となる男性の部屋に行って、夜、暗い中で窓から入る光だけで撮るというもの。
暗い中で撮るので、シャッター時間を長めに取らないと撮れなくて、その間対象は動いてはいけない。
その沈黙が鑑賞空間に染み込んでいて、物凄く心地がいい。
沈黙を共有するってすごい親密な時間だと思う。
ミヤギさんの作品は前から好きですが、改めてすごい作家だと思いました。
写美の展示は3つとも来年の1月27日まで。
今月見た他の展示一覧。
松江泰治「gazetteer」@ TARO NASU
絵と、 vol.4 千葉正也 @ gallery αM
細江英公「芸術家たちの肖像」@ Galerie LIBRAIRIE6
民藝 MINGEI -Another Kind of Art @ 21_21 DESIGN SIGHT
桑山忠明 @ Taka Ishii Gallery
小野祐次 Vice Versa ‒ Les Tableaux 逆も真なり−絵画頌 @ Shugo Arts
冨井大裕「線を借りる」@ void+
終わりのむこうへ : 廃墟の美術史 @ 松濤美術館
なんとなく写真多め。
松江さんの細密な写真にも驚愕したけど、何と言っても細江英公。
大変失礼なんだけど、まだご存命だって知らなかった。。。
オールスターの肖像がこれでもかってぐらい写ってて笑った。
恵比寿にあるギャラリーで、写美ついでに寄ったんだけど、こちらもまた知らなくて、シュルレアリズムを中心に結構マニアックな本も売ってたり中々面白いので恵比寿来たらまた寄りたい。
冨井さんの作品もまた面白くて、服のパターンを使って彫刻を作るという方法の可視化も面白いし、展示方法も展示代にアンバランスに載ってて、多分アンソニー・カロを意識してるんだろうなぁと読めるのもいい。
廃墟展は期待ハズレ。。。廃墟っていうか遺跡。。。
ギャラリーじゃないけど、六本木のギャラリー群を見る前に立ち寄った、青山ブックセンター六本木の跡地にできた「文喫」が面白かった。
「本と出会うための本屋。」を謳っていて、入場料が1500円かかるんだけど、コーヒーとお茶は飲み放題で、滞在制限時間もなくて、売ってる本を自由に閲覧できることができる本屋、というか施設。
本屋で本が売れなくなった時代の新たな形だと思いました。
つまり、買ってもらったらラッキーだけど、その前に手堅く入場料で稼ごうと。
そこにカレーやらケーキなんかもあるのでついでに飲食でもお金落としてもらおうと。
客としても、ここで実際に本をとって中身を見られるので、正直ここで見てネットでポチるのもあり。
特に洋書はネットだと半額近い値段で買えるのでそうならざるを得ないと思う。
ネットだと実際には見られないので、相互補完的な利用ができるなら1500円は高くないかと。
キャッチフレーズに全く嘘がないのが気持ちいいと思います。
僕もブックカフェ的なものをやろうとしてるので、中々参考になりました。
すでに人気で入場規制までかかってるみたいなので、その辺のオペレーションをうまくしないと問題だろうけど、六本木に用事があるなら寄ってみて損はない場所だと思います。




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