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Crush @ Para Site

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前回の香港から約1年半。
この間にリー・キットが運営していたthings that can happenや百呎公園はなくなり、新たにメガギャラリーが軒並み入るH Queen's(後述)ができたり、前述の大館ができたりして、さらに来年にはアジア最大と言われる美術施設M+がオープンしようとしています。
急速に変化を続ける街ですが、1996年から20年以上変わらず独自の企画を通しているインディペンデントの施設があります。
それが今回紹介するPara Siteです。こちら
前回行ったAsia Art Archiveと並ぶ香港アートシーンの至宝だと思います。
前回は時間がなくて行けなかったので今回ようやく来訪。
それにしてもビルが。。。香港お得意の竹の足場に覆われています。不安。しかも22階。エレベーター途中で止まるんじゃないかと案じながらたどり着きました。。。

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中では「Crush」という展覧会がやっており、フリーにしては凝った冊子も製作されてました。
テキストには「愛の闇と頼りない愛」がテーマになっていて、20人弱の作家が参加するグループ展。
中にはリー・キットもいましたが、他は知らない作家。ほとんど中国の作家でした。
正直展示は散漫で、あまりよく飲み込めなかったのですが、今回欲しかった資料があったので、スタッフの方に聞いたら快く探してくださっていただくことができました。めちゃくちゃ親切で感動しました。
それは2013年にPara Siteが企画した「GREAT CRECENT」という展覧会の冊子でした。

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この展示は、日本と韓国と台湾の3国の1960年代のアートシーンを辿るというもの。
実はこれ、その後2015年に森美術館がMAMリサーチの第一回として資料を加えて再展示しているんです。こちら
僕はその時スイスにいたので、展示自体は見ていないのですが、最近カフェのお客さんが、その展示が今年になって本になったよと教えてくれて、先日森美術館に行った際に買い求めました。

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それにしても展示から3年も経って書籍化するってすごいですね。
今MAMリサーチはこの第1回と昨年開催された第5回のみが書籍化されています。
後の2、3、4回は書籍化されるかまだ検討中とのことです。
ちなみに今やってる6回は、ダムタイプの古橋悌二が始めた京都でのクィアパーティー「ダイアモンズ・アー・フォーエバー」を取り上げていて、これまた興味深い内容なので是非書籍化して欲しいところです。こちら

閑話休題。
で、この「グレート・クレセント」。読んだらとっても面白い内容でした。
特に最後の黒ダライ児さんやPara Siteのディレクターコスミン・コスティナスを迎えたディスカッションの記録は素晴らしい。聴きに行きたかった。。。

まずコスティナス氏がなぜここに自身の場所「香港」を含めなかったかの理由に以下を挙げています。

「中華人民共和国成立後の1960年代にあってもなお、一貫した香港の地域アイデンティティーの形成には至らず、それは当時の年における文化的な生活にも色濃く反映されていました。日本、韓国、台湾という他の3つの地域では、国民文化や国民のための場所がつくられていたにも関わらず、香港では公共空間やフォーラム、または文化と言った意識の形成のプロセスが1960年代に始まったものの、60年代の終わりまでに完結したとは言えない状況だったのです。」

「中国本土から香港にきたアーティストや文化人の多くは、次第に香港去るか、香港を一時的な滞在場所としか見ていませんでした。当時の香港には一つの場所としての一体感もなく、人々はそこに帰属する感覚を持ち得なかったのだと思います。興味深いことに、この当時の状況は今の香港の状況と同じであり、アートの分野においてもこの地域のどこと比べても帰属感は希薄なのではないかと思います。」


またこの「グレート・クレセント」をPara Siteと共に企画したのが元MoMAのキュレーターで、現M+チーフキュレーターのドリュン・チョンというのも興味深いです。なぜなら彼はMoMAで「TOKYO 1955-1970」を企画した人でもあるからです。
あの展覧会は、今の世界的な戦後日本美術ブームの先駆けになった展覧会だと思います。
僕自身もポップアップカフェの第二回の展示にこの展覧会カタログを真っ先にあげました。こちら
その時の来館者アンケートに「なんだかすごくダークな展覧会!」という意見が多かったそうです。
今の村上や奈良のイメージで日本美術を観に来た観覧者にとってはもっともな意見かもしれませんね。

そしてチョン氏の発言で興味深かったのが三国間の距離感の問題です。

「今では香港、日本、韓国、台湾、そして中国本土でさえも、さほどの苦労もなく簡単に行き来できるようになりました。しかし、これらの地域を行き来するのは、私が若い頃ですら難しかったことを覚えています。韓国と日本を行き来するのは簡単ではなかったし、韓国と中国に至っては1990年まではほぼ不可能でした。それほど昔の話ではないんです。この地域はいまよりもっと亀裂が入った状態だったのに、私たちはすでにそう行った歴史を丸ごと忘れているのです。1960年代や70年代に遡るまでもなく、80年代や90年代初頭のことさえも忘れてしまっている。そして、美術界や美術史がグローバル化し、アーティストやキュレーターに限らず、ただのアート好きの人もアートを見に行くためなら簡単に何処へでも行くことができる今の時代、すべての物事をフラットにしすぎているように感じるんです。ですから、これらの地域がかつては非常に希薄な関係にあり、それほど簡単に繋がることができなかったということを、この展覧会で示したかったのです。」

この三国の距離感って、今の感覚ではLCCもあったり文化交流も盛んだったりしてとっても近い国のイメージを互いに持ってますが、ちょっと前、90年までは行き来するのも困難な国同士だったということ。
僕は実は6歳の時、ソウルオリンピック直後ぐらいに家族旅行で韓国を訪れているんですが、今思えばあの時期に韓国行った経験って中々貴重だったのではと思います。幼かったものの、今でも当時の韓国の感じって強烈に覚えてるんですよね。
やはり90年代前半まではこの三国間は「巨大な三日月」だったのかもしれません。
そして僕は今や「アートを見に行くためなら簡単に何処へでも行く」人です笑

さて、こうした接続困難な地域同士「にもかかわらず」、互いの「影響」が見え隠れするのが不思議です。
例えばこの60年代というのは、美術館やアートギャラリーではなく、街中でのパフォーマンスが3国ともで行われています。
日本で言えばもちろんハイ・レッドセンターが有名ですが、韓国でもジョン・ガンジャなどが率先して野外でのパフォーマンスを実行しています。
ちなみに、これらの作品が偶然にも現在東京国立近代美術館で開催中の「アジアにめざめたら」展にいくつか出品されていて、本で読んだ内容がそのまま展示になってる!と勝手に感動しました。
特にゼロ次元の「因幡の白兎」が観れたのは良かった。今となっては稚拙な映像ですが。。。
また、この「グレート・クレセント」に出てる、黄華成(Huang Huacheng)の1966年に海天ギャラリーで開催された個展「大台北画派秋期展覧会」(すごいタイトル)は面白いですね。今のリー・キットに繋がるような。。。
日本の戦後美術の情報は知っていても、韓国台湾となると意外に知らなくて面白いです。

最後に黒ダさんの発言が面白いので抜粋。

「私が東アジアから見出したかったことというのは、さっきから行ってる共鳴でもなく、または影響でもなく、共感です。共感によるネットワーク、そういうようなものを、私は見出したいと思っているんです。(中略)先ずは共鳴と共感の違いをきちんと言う必要がありますね。共鳴というのは要するに、影響関係からはっきり独立した概念として言っています。つまり、お互い知らない所で、同じようなことをやっていたということです。(中略)ただ、私が行っている共感というのは、やはり接触がないといけない。その接触というのは直接の接触でなくても、メディアとか、別に雑誌でも写真でもいいし、ニュースでもいいですけど、そういうものを通して他の地域の人がやっていること、遠くの地域の人がやっていることや人に対して、何か非常に強い共感をする。共感の要は、その人を支持したいと思って、一種同盟というか同士の関係みたいなものを持つようなことであって、私はそういう関係ができればいいなと思っているのです。」


長々と引用だらけになってしまいましたが、この香港の小さなスペースが、これだけ大きな議論のできる展示をしていたというのが本当にすごいことだと思います。
ソフィスティケートされた大きなギャラリーよりこういうオルタナティブの方が断然魅力的。
M+ができたって、ずっと残り続けて欲しいです。

ということで無理矢理メガギャラリーの話。
前回ガゴーシアンは行きましたが、その後H Queen'sという建物が街の真ん中に建ちました。こちら
ここにはDavid ZwirnerやPace Gallery、Hauser & Wirthといった泣く子も黙るメガギャラリーが詰め込まれています。
エレベーターで一つ一つ降りて行くわけですが、正直全く面白くなかった。。。
なんかホワイトキューブって疲れませんか?それを何個も一気に見るのって気が滅入ります。。。
僕自身がこういうアートマーケットに興味がなくなってるのもあるけど。
なので、特に語ることもありません。
大館はこのビルの山手にありますが、ここも一回行ったらいいかな。。。
ヘルツォーグ&ド・ムーロンの建物では現代美術の企画もやってたり、中には加藤泉やローレンス・ウィナーの公共作品もあったりするんだけど。
とは言えM+できたらまた来ます。香港自体はとっても魅力的な街。
ニューヨークやロンドン、東京もそうだけど、やっぱり街自体にエネルギーがあって元気がもらえる。
できたら毎年訪れたい場所です。


にしても街中の竹の足場、川俣正の作品みたいだ。。。

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あと、Para Siteの近くにインスタ映えで有名になってしまったアパートがあります。
あまりに観光客が来るので写真禁止になったと聞いてましたが、行ったらたくさんの観光客が写真撮りまくってました。。。ということで私も便乗して撮りました。映えます。

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