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「ハッピーアワー」by 濱口竜介



2ヶ月ぶりの更新です。すっかり明けちゃいましたがおめでとうございます。
久々に何か言葉に残しておきたい作品に出会えたのでご紹介。
濱口竜介監督の「ハッピーアワー」です。

主演の4人が全員素人なことや、そんな彼女たちがロカルノ映画祭で主演女優賞を受賞したことを映画館の予告を観て知っていて気になってはいたのですが、なんせ上映時間が5時間17分という恐ろしい長さだったのでどうしようかと思いつつ、人に勧められて映画館に足を運びました。
結果的にそんな時間の長さなど全く気にならない、どころかもっと観ていたい、映画のタイトルの通りその時間は自分にとって確実に「ハッピーアワー」となりました。映画の内容は純粋に「ハッピーアワー」と言えるものではないのですが、、、。

映画は3部構成になっていて、映画館ではそれぞれ入替性になっています。
僕はさすがに5時間17分も一気に観られる自信がなかったので、まず1部だけ観て、別の日に2部3部を観ました。
結果的にこの分けて観るというのが、新鮮な映画体験になってよかったと思います。
というのも、1部を観て映画館を出た直後から、映画の続きの存在を感じながら日々の生活を過ごすことができたからです。
映画というのは映画館で一本見終わったら、そのまま余韻としてしか残りませんが、この映画は確実に僕の現実の生活に介入してきました。
せっかくだったら2部と3部も日を空けて観ればよかったと思っています。

映画の内容は、30代になって仲良くなった女4人の物語です。
彼女たちはどこにでもいる普通の女性たちです。
でもこの映画を観ていて思うのは、その「普通」って一体何なの?ということです。
当然のことですが、あらゆる人たち一人一人に物語があって、浅さも深さも軽さも重さも何もない彼ら自身の物語を嫌が応にも抱えて日々生きている。
その当たり前のことをこの映画は改めて突きつけてきます。
彼女たちは各々日々の問題を抱えながら生きています。
純のように離婚裁判に挑んでボロボロになっている人もいるし、何の波風もなさそうな専業主婦の桜子さえ子供や夫のことで相当なストレスを抱えていて、それらの問題はどれもこれも等価であるということ。
そんな人々を演技経験のない4人が演じていることにとても意義があると思います。
演技自体は本当にぎこちないんだけど、そのぎこちなさがこの4人が本当に存在しているかのようなリアリティがありありと伝わってくる。しかも舞台は神戸で、実際神戸はよく行く街だし、ロケに使われてるカフェも行ったことがあるところだったし、アートセンターも知ってるし、神戸のあの風景は子供の頃から知ってる。
今も神戸を歩いているとあの4人に会えるんじゃないかとすら思えてきます。
ちなみに昨年末に観た橋口監督の「恋人たち」も素人が主人公になっていますが、あの映画の場合「妻を通り魔に殺された男」という、そう多くないケースを演じているので、演技自体は確かに真に迫っているものがありましたが、あまりリアリティを感じられずに入り込みきれなくて残念でした。

僕の友人で映画はハッピーエンドじゃないと嫌という人がいます。
彼曰く現実はとても悲しいから映画の中ぐらいはハッピーエンドであってほしいとのこと笑
僕はハッピーエンドは嫌というわけではないけれど、やはり映画には現実以上に現実が反映さえていてほしいと思います。
映画には現実を映す鏡になってほしい。
映画だからこそ俯瞰して観られるし、そのことを現実にフィードバックできるような気をさせてくれる映画にこそ僕は魅力を感じます。
フィクションだからってフィクションであることに甘えた映画があまりに多い。
CGを駆使して幻想ばかり見せるハリウッドの映画が嫌いです。
そんな意味でこの「ハッピーアワー」はほぼ100点満点に近い映画でした。こんな感覚久々です。
この映画には、普通だったらカットするシーンがたくさん出てきます。
特に1部に出てくるワークショップのシーンは顕著でしょう。
ワークショップを最初から最後までほぼノーカットで映画の中で見せるなんてただ事ではありません。
しかしそれを最初から最後まで目の前のスクリーンで観ていると、まるで自分も参加してるような感覚になってきて、どんどん映画と客席の垣根が曖昧になってきました。 映画の中の彼女たちの1分が映画を観ている自分と同じ1分なんだと思うとなんだかとても幸せな時間だったように思えます。
さらに2部3部と進むにつれて、あのワークショップがこの物語にとってどれだけ大事なものであったのかが染み渡るようにわかってきて、そりゃ5時間17分にもなるわと納得せざるをえません。

あと観ていて痛感するのは男って駄目だなぁということ。
特に芙美の夫婦関係を見ていると身をつまされます。
波風を立てないために表面的な会話を重ね続けた結果、大転覆を起こしてしまう。
「いくつもチャンスはあった。あなたはすべて見逃した。」という芙美の台詞はとても重かった。
男は女の機微を絶望的に読み取れません。
桜子夫婦のケースも然り。男として見ていてつらいものがあります。逆に男は絶対見ておくべき映画かも笑
女性がこの映画見たらわかるわかるってなるのかな。
そういう意味で脚本が絶妙でしたね。5時間17分見ていて飽きさせないのはこの女性の微妙な気持ちをくどすぎるぐらい丁寧に描いたこの脚本の力は大きかったでしょうね。
あと音楽も素晴らしかった。音楽が邪魔になる映画は多いけど、本当に絶妙なバランスで鳴っていて気持ちよかった。
全体的にとても品のある映画だったと思います。

最後に気になった点は、カメラの撮り方が安定してなかったことかな。
有馬温泉の温泉のシーンではいきなり小津映画のように、全員がカメラ目線で台詞をしゃべらせたり、急にドラマチックな撮り方になったり、もっと安定した撮り方にした方がこの映画にはよかったのではないかと思います。
この長い映画に緩急をつけて観客を引き込もうという魂胆ならちょっと失敗かも。
それだけこの映画にはそれそのものだけで見せる力があったと思います。

ということで、色々書きましたが、これ書いてる今でもこの映画のことが頭に離れないし、時間がたてばまた見方が変わってきそうな、玉虫色の映画だと思います。
こんな映画なかなか出会えないので意を決して観に行って本当によかったです。
東京ではもう終わっちゃいましたが、大阪と名古屋では今週いっぱいやってるので時間ある方は是非。
DVD出たら買っちゃうと思うけど、やっぱ映画館で観るのが没頭できていいなと思います。
以上久々更新でした。
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