「マルメロの陽光」by ビクトル・エリセ



午前は読書、午後は制作、夜は映画鑑賞という老後のような生活をしています。
映画は、探せば色々落ちてて、デヴィッド・リンチやアッバス・キアロスタミの作品を観ました。
中でもキアロスタミの「クローズアップ」は衝撃。
実際に起きた事件を改めて映画というフィクションに収め直して、現実と映画の境を曖昧にしてしまうという手法でかなり面白かった。
で、今回紹介する「マルメロの陽光」の場合は、方法論としてはその逆というか、現実を映画のように撮ってしまうことで、映画と現実の境をぼかすという手法です。
この映画は、一昨年東京でも展覧会が開催されたアントニオ・ロペスを追ったドキュメンタリー映画なんですが、この撮り方が本当にすごい。
あまりの映画っぽさに最初ドキュメンタリーって気づかなくて、ロペスも誰かが演じてるのだと思い込んでたんですが、途中から、それにしても絵うますぎやろ!ってなって気づきました笑
この映画っぽいって一体何なんだろうと。
単純に映像が美しいってのはやはりあります。
ドキュメンタリー映画って独特のラフさがあるんだけれど、この映画はとことん固定カメラで撮られているし、画面の中でのものの収まり方が完璧なんですよね。
ロペスの制作と彼のアトリエの入ってるビルの改装工事が同時に撮られていて、その構成もあまりに出来すぎてるし、なんといっても人々のカメラの意識のしなささがすごい。ここまでカメラを無視して毎日の営みを続行できるもんなのかというぐらい自然。
エリセがどこまで演出してるのかがすごく気になります。

内容も非常に興味深くて、緻密画で知られるロペスがどんな風に作品を制作しているかが丸裸にされていて、水平線と垂直線を現実のモチーフにも描いてるのはやはりこの画家ならでは。
マルメロが成長すると木がたわんで、たわむ度に線を描きなおす。
見えない時間と重力が画家によって可視化されていきます。
最後は結局描き終えられませんが、彼のモチーフに対する執念は見事。
彼のひとつひとつの所作がすごく美しいです。
そして、マルメロに落ちる光を描き出そうとする画家の姿がとても印象的。
今自分の作っている作品のテーマが「画家が見ていた光」なので、個人的にこの映画はとても大きな示唆を与えてもらえました。
特に野外で何かを集中していると、風の動きや光の移動にとても敏感になります。
あの感覚って写真では写し取れないし、彫刻では彫れない。
やはり画家が時間をかけて描くことで見いだせる感覚だと思います。
その感覚がこの映画に溢れていてとても新鮮でした。

エリセは本当に寡作な作家で、この作品を最後に長編は制作していません。
というか、長編といったら、デビュー作の「ミツバチのささやき」(1973)と「エル・スーレ」(1982)とこの「マルメロの陽光」(1992)の3作だけ。どれも10年スパンです。
「ミツバチのささやき」は、本当に素晴らしい映画で、「フランケンシュタイン」という別の映画に、さらにかぶせるようにして撮ってる構成がすごい。
そして何と言ってもこちらは闇の描写が素晴らしい。
闇すぎて、昔テレビで見た時、画面に部屋が反射しすぎて全然集中して見れなかった記憶があります。
いつか映画館で観てみたい作品の一つです。

またエリセの作品で、「Lifeline」という短編があって、こちらは白黒で撮られているので、彼の撮る光の美しさがよりわかります。
長編でまた新たな作品観てみたいです。
というか、これらの監督の映画が日本のDVDで生産中止になってるのはいかがなものかと。
「マルメロの陽光」なんて今amazonで見たら25000円って。。。
Blue-rayも出てないし、なんとかしてほしいです。。。

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