「につつまれて」by 河瀬直美

ずっと欲しかった河瀬さんのドキュメンタリーBOXを手に入れました。
自分へのクリスマスプレゼントですが何か?
ということでここ数日は河瀬直美特集。
改めて河瀬さんはドキュメントの人なんだな、と思いました。
このBOXに収められた作品たちへの怨念とも言えるほどの強い意志がすごい。
ものを作ることはこれほどまでに残酷で覚悟が要ることなのだと身の引き締まる思いでした。
特に彼女の原点とも言える「につつまれて(1992)」をついに見れたことがうれしかった。
幼い頃にいなくなった父親を求めて彷徨う姿、そして最後の電話越しの再会。
さらに続編となる「きゃからばぁ(2001)」では、この世にいなくなった父親の断片を自らに刻み込むような気概がすごいです。
彼女の原点はやはり家族の不在から来てるんでしょうね。
でも彼女の育ての親でもあるおばあちゃんを撮った三部作「かたつもり(1994)」、「天、観たけ(1995)」、「陽は傾ぶき(1996)」を観ていると、やはりこの人は全力で愛されて育ったんだと思えますね。
僕も両親共働きで子供の頃は圧倒的にばあちゃんと過ごす時間が長かったせいで、すっかりおばあちゃん子。この世で一番大事なのは親ではなくばあちゃんです。
それでも、このフィルムは実際そのおばあちゃんとのディスコミュニケーションを埋めるべく撮られたもので、途中で言い争うシーンも出てきたりして葛藤が伺えます。
そのおばあちゃんも2012年に97歳という長寿を全うされました。
この人はもうこの世にいないんだと思いながら見てるとやっぱり涙があふれます。
こうして河瀬フィルムの原点は、圧倒的な「ないものねだり」がその制作意欲につながってるんじゃないかと思って、ここまでねだるとないものもやがて見えてくるようになるんだな、と思いました。
この人は全身全霊でないものねだりをしている。
それは自分自身を深く傷つける行為でもあるけれど、得るものも大きかったんじゃないかな。
ものを作るってそれがプラスであろうがマイナスであろうが、極端に振れる力に人は動かされるんだと思う。
河瀬さんの家族を主題とした作品にはその力強さがあります。
一方他人を撮った作品、「杣人物語(1997)」、「万華鏡(1999)」、「追臆のダンス(2002)」では、カメラから滲み出る対象への愛が感じられます。
「杣人物語」では、「萌の朱雀」の舞台ともなった西吉野の山奥で暮らす人々の営みが映し出されて、それぞれの物語を丁寧に綴ります。何の変哲もない田舎の人たちが生きて行く中で紡いできた言葉は、世界のどんな偉人や哲学者よりも深く響きます。人生ってすごい。
「万華鏡」では元教え子のカメラマンが、尾野真千子と三船美佳という2人の全く別の女の子を撮る様を撮るというメタ構造で進みますが、河瀬さんのカメラマンに対する当たりが半端ないです(笑) こんなこと言われたら男でも泣いてまうわっていうぐらい容赦ない。。。表現に中途半端が許せないんですね。さらに三船美佳にも容赦なく言葉をぶつけます。「自分を作るな」。それに対して尾野真千子の自然さはすごいなぁ。「何が足りひんかわかってん。風や、風」と、本当に自然。「カーネーション」での彼女も素晴らしかったけど、やっぱ河瀬さんの前ではここまで自然になれるんですね。またタッグ組んで何か撮ってほしいな。今度ははつらつな彼女がみたいです。
最後の「追臆のダンス」はすごかった。写真評論家の西井一夫からの「あと長くて二ヵ月しか生きられないんだ。俺の最期を撮ってくれないか?頼んだぞ、河瀬」という突然の電話でこのドキュメンタリーの企画はスタートします。冒頭からいきなりお葬式の場面で衝撃でした。これは黒澤明が「 悪い奴ほどよく眠る」で冒頭に結婚式からスタートするのを思い起こさせましたが、こっちはノンフィクションでお葬式ですからね。。。そして西井氏との時間が懇々と流れて行って、最期目を見開いたまま荒い息づかいでカメラを見つめる(あるいはどこも見ていない)眼差しが焼き付けられました。最初からこのドキュメンタリーを彼が見れることはないけど、見れたらどんな辛口を飛ばすのでしょうね。
そんな感じで、本当に勉強になりました。これ、自分の制作に行き詰まった時にまた見たいです。
そして、どんどん彼女のものづくりが「ないものねだり」から「あるものさがし」に変化していってるのもわかります。
それは彼女がずっと欠落感を感じていた「家族」というものを手に入れたのがやっぱり大きいのでしょうね。
後に続く「垂乳女」と「玄牝」ではストレートに誕生を映しとっています。
この2つも是非DVDになってほしいですね。
そしてタイムリーなことに見終えてすぐに宇多田ヒカルのミュージッククリップ「桜流し」も到着。
これもすごい映像ですよね。。。初めて見た時は泣いてしまいましたよ。
宇多田さんの歌も内面をえぐり出すような傷みを伴う表現なので河瀬さんとの相性はいいんでしょうね。
また作品楽しみにしてます!自分もがんばらねば。
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