fc2ブログ

「につつまれて」by 河瀬直美

IMG_7548.jpg

ずっと欲しかった河瀬さんのドキュメンタリーBOXを手に入れました。
自分へのクリスマスプレゼントですが何か?
ということでここ数日は河瀬直美特集。

改めて河瀬さんはドキュメントの人なんだな、と思いました。
このBOXに収められた作品たちへの怨念とも言えるほどの強い意志がすごい。
ものを作ることはこれほどまでに残酷で覚悟が要ることなのだと身の引き締まる思いでした。
特に彼女の原点とも言える「につつまれて(1992)」をついに見れたことがうれしかった。
幼い頃にいなくなった父親を求めて彷徨う姿、そして最後の電話越しの再会。
さらに続編となる「きゃからばぁ(2001)」では、この世にいなくなった父親の断片を自らに刻み込むような気概がすごいです。
彼女の原点はやはり家族の不在から来てるんでしょうね。
でも彼女の育ての親でもあるおばあちゃんを撮った三部作「かたつもり(1994)」、「天、観たけ(1995)」、「陽は傾ぶき(1996)」を観ていると、やはりこの人は全力で愛されて育ったんだと思えますね。
僕も両親共働きで子供の頃は圧倒的にばあちゃんと過ごす時間が長かったせいで、すっかりおばあちゃん子。この世で一番大事なのは親ではなくばあちゃんです。
それでも、このフィルムは実際そのおばあちゃんとのディスコミュニケーションを埋めるべく撮られたもので、途中で言い争うシーンも出てきたりして葛藤が伺えます。
そのおばあちゃんも2012年に97歳という長寿を全うされました。
この人はもうこの世にいないんだと思いながら見てるとやっぱり涙があふれます。
こうして河瀬フィルムの原点は、圧倒的な「ないものねだり」がその制作意欲につながってるんじゃないかと思って、ここまでねだるとないものもやがて見えてくるようになるんだな、と思いました。
この人は全身全霊でないものねだりをしている。
それは自分自身を深く傷つける行為でもあるけれど、得るものも大きかったんじゃないかな。
ものを作るってそれがプラスであろうがマイナスであろうが、極端に振れる力に人は動かされるんだと思う。
河瀬さんの家族を主題とした作品にはその力強さがあります。

一方他人を撮った作品、「杣人物語(1997)」、「万華鏡(1999)」、「追臆のダンス(2002)」では、カメラから滲み出る対象への愛が感じられます。
「杣人物語」では、「萌の朱雀」の舞台ともなった西吉野の山奥で暮らす人々の営みが映し出されて、それぞれの物語を丁寧に綴ります。何の変哲もない田舎の人たちが生きて行く中で紡いできた言葉は、世界のどんな偉人や哲学者よりも深く響きます。人生ってすごい。
「万華鏡」では元教え子のカメラマンが、尾野真千子と三船美佳という2人の全く別の女の子を撮る様を撮るというメタ構造で進みますが、河瀬さんのカメラマンに対する当たりが半端ないです(笑) こんなこと言われたら男でも泣いてまうわっていうぐらい容赦ない。。。表現に中途半端が許せないんですね。さらに三船美佳にも容赦なく言葉をぶつけます。「自分を作るな」。それに対して尾野真千子の自然さはすごいなぁ。「何が足りひんかわかってん。風や、風」と、本当に自然。「カーネーション」での彼女も素晴らしかったけど、やっぱ河瀬さんの前ではここまで自然になれるんですね。またタッグ組んで何か撮ってほしいな。今度ははつらつな彼女がみたいです。
最後の「追臆のダンス」はすごかった。写真評論家の西井一夫からの「あと長くて二ヵ月しか生きられないんだ。俺の最期を撮ってくれないか?頼んだぞ、河瀬」という突然の電話でこのドキュメンタリーの企画はスタートします。冒頭からいきなりお葬式の場面で衝撃でした。これは黒澤明が「 悪い奴ほどよく眠る」で冒頭に結婚式からスタートするのを思い起こさせましたが、こっちはノンフィクションでお葬式ですからね。。。そして西井氏との時間が懇々と流れて行って、最期目を見開いたまま荒い息づかいでカメラを見つめる(あるいはどこも見ていない)眼差しが焼き付けられました。最初からこのドキュメンタリーを彼が見れることはないけど、見れたらどんな辛口を飛ばすのでしょうね。

そんな感じで、本当に勉強になりました。これ、自分の制作に行き詰まった時にまた見たいです。
そして、どんどん彼女のものづくりが「ないものねだり」から「あるものさがし」に変化していってるのもわかります。
それは彼女がずっと欠落感を感じていた「家族」というものを手に入れたのがやっぱり大きいのでしょうね。
後に続く「垂乳女」と「玄牝」ではストレートに誕生を映しとっています。
この2つも是非DVDになってほしいですね。

そしてタイムリーなことに見終えてすぐに宇多田ヒカルのミュージッククリップ「桜流し」も到着。
これもすごい映像ですよね。。。初めて見た時は泣いてしまいましたよ。
宇多田さんの歌も内面をえぐり出すような傷みを伴う表現なので河瀬さんとの相性はいいんでしょうね。
また作品楽しみにしてます!自分もがんばらねば。

<関連記事>
「朱花の月」 by 河瀬直美
「玄牝」 by 河瀬直美
「火垂」 by 河瀬直美
「確かなこと」:河瀬直美



関連記事

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

コメントの投稿

非公開コメント

カレンダー
11 | 2023/12 | 01
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
最新記事
カテゴリ
検索フォーム
月別アーカイブ
プロフィール

もりかわみのる

森川穣
現代美術作家。
森川穣 website
A'holicオーナー
A'holic website
instagram

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

管理者用
カウンター
To See List
・2023.12.02-2024.02.04
「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容 瀧口修造、阿部展也、大辻清司、牛腸茂雄 @ 渋谷区立松濤美術館

・2023.11.24-2024.03.31
「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」 @ 麻布台ヒルズギャラリー

・2023.12.09-2024.02.25
キース・ヘリング展 アートをストリートへ @ 森アーツセンターギャラリー

・2023.12.01-2024.01.28
梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ @ ワタリウム美術館

・2023.11.09-2024.03.31
第14回上海ビエンナーレ @ 上海当代芸術博物館

・2023.12.17-2024.01.27
味/処 @ 神奈川県民ホールギャラリー

・2024.01.11-03.10
フランク・ロイド・ライト世界を結ぶ建築 @ パナソニック汐留美術館

・2023.12.16-2024.02.18
久門剛史「Dear Future Person, 」 @ @KCUA

・2024.01.12-02.25
牡丹靖佳展 月にのぼり、地にもぐる @ 市立伊丹ミュージアム

・2024.02.06-04.07
中平卓馬 火―氾濫 @ 東京国立近代美術館

・2024.01.18-03.24
能作文徳+常山未央展:都市菌(としきのこ)――複数種の網目としての建築 @ ギャラリー間

・2024.02.23-04.14
生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真 @ 東京ステーションギャラリー

・2024.02.14-05.27
「マティス 自由なフォルム」@ 国立新美術館

・2024.03.06-06.03
遠距離現在 Universal / Remote @ 国立新美術館

・2024.03.09-06.30
カール・アンドレ 彫刻と詩、その間 @ DIC川村記念美術館

・2024.03.12-05.12
ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ @ 国立西洋美術館

・2024.03.15-06.09
横浜トリエンナーレ2023 @ 横浜美術館ほか

・2024.03.30-07.07
ブランクーシ 本質を象る @ アーティゾン美術館

・2024.04.06-07.07
ホー・ツーニェン エージェントのA @ 東京都現代美術館

・2024.04.24-09.01
シアスター・ゲイツ展 @ 森美術館

・2024.04.27-08.29
デ・キリコ展 @ 東京都美術館

・2024.05.23-08.04
魚谷繁礼展 @ ギャラリー間

・2024.09.04-11.24
大西麻貴+百田有希 / o+h展 @ ギャラリー間

・2024.09.14-12.01
塩田千春 つながる私(アイ) @ 大阪中之島美術館

・2024.09.25-2025.01.19
ルイーズ・ブルジョワ展 @ 森美術館

・2024.11.02-2025.02.09
ジャム・セッション 石橋財団コレクション×毛利悠子 ―ピュシスについて @ アーティゾン美術館

・2024.11.23-2025.01.26
「再開館記念―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」展(仮称) @ 三菱一号館美術館

・2025.09.13-11.30
あいち2025 @愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか

QRコード
QR