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「神話なき世界の芸術家」by 多木浩二

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最近は、鑑賞よりも、読書に重きを置いてたりします。すっかりインドアw
これまで好き勝手ここで色々書いてきましたが、やはりもっと言葉が必要だな、とつくづく思い始めました。なので改めてお勉強中です。
そして、ブログ名もいつの間にやら「'A'」に。「中毒」さよならです。

最近読んだ中では多木浩二さんの「神話なき世界の芸術家」がおもしろかった。
こちらは藤枝晃雄さんの「ジャクソン・ポロック」と兄弟的なバーネット・ニューマン論。
この本は絶版で、現在プレミア高騰中。。。なんだけどなぜか定価以下で買えた。ラッキー!
多木さんの文章ってこの手の本にしては珍しく、異常なほど読みやすい。
実際この本も読み始めて数時間で一気に読めてしまって自分でもびっくり。
まあ、ひっかかりが少ないってのも正直あるけれど、ニューマンをよりよく知る入門書みたいな一冊。
1933年にニューヨーク市長選に出てたなんて知らなかった!
ニューマンは特に色々言葉を残した作家なので、この本に収録されてる彼の言葉はためになります。
「おそらくわれわれはものがそれ自体として眺められるような絵画のあたらしい状態に達しつつあります。」
「私は、人は一枚の絵画を描き、一点の彫刻を作るために生涯を費やすものである、と考えているのです。」
等の発言や、スケールの話はとてもよくわかりますね。
また、ニューマンの絵画における、ユダヤとの関係はよく語られることではありますが、この本ではそこからいかに突き放すかがひとつの命題になっています。
2010年のニューマン展でも、イブ=アラン・ボアがユダヤと重ねて講演していたようだけれど、僕もニューマン作品と具体的な宗教を結びつけるのは抵抗があります。
確かに彼の作品は宗教性を帯びてるところがあるけれど、僕の中でいい作品というのは、絶対的な何か(それをあえて言葉にするなら宗教性になるのだけれど)があるのだと思います。
僕がカプーアやロスコが好きなのもそういうところにあります。
この本のタイトルにもなっていますが、それは、その作品自体がある神話を形成しているから。
この本読んで改めて色々考えられたし、またニューマンの作品見たくなりました。
最後のニューマンの彫刻と建築の話はほぼ蛇足な印象。というか彼はやっぱり彫刻の才能はなかったと思います。それもあってほとんど流し読みでした。
もう少し彼の絵画の垂直性に関して触れてほしかったな、と個人的に思いました。
それにしてもこの戦後まもなくアメリカで誕生した抽象表現主義というのは、本当に色んな言葉が生まれるフィールドとして、とてもおもしろい運動ですね。僕の中で絵画史はここまでという印象。
ニューマンとポロック、そしてロスコと、本当に偉大すぎます。
ロスコに関する本がいまいち見つからないので、今後色々あたってみたいです。
というか、一番好きなのがロスコなので、何かあったら教えてください!


で、お次はポロック関連です。ポロック展以前以降集中して色々読みました。
・ユリイカ 1993年2月号 増頁特集 ポロック
加治屋健司「誤作動する武器――クレメント・グリーンバーグ、文化冷戦、グローバリゼーション」
グリーンバーグ批評選集
批評空間 モダニズムのハード・コア―現代​美術批評の地平
これらに加えて「ART TRACE PRESS 01」や藤枝晃雄氏の「ジャクソン・ポロック」を読むとよりポロックをより一層理解できます。但し後者は絶版。。。ついこないだまで普通に売ってたんだけど。藤枝さんの文章は正直わかりづらいけれど、ポロック入門書としては良本。
というか、今に始まったことではありませんが、美術系の重要な書物のほとんどが絶版なのは深刻な問題です。「モダニズムのハード・コア」なんて、美術やってる人間は絶対通るべき本なのにも関わらず今では手に入りません。。。自分も図書館で借りて必死にコピーしました泣
あとはこの系譜でいうと、ハロルド・ローゼンバーグの「新しいものの伝統」やロザリンド・クラウスの「オリジナリティと反復」も絶版。
ぜひ諸々再版してほしいところですが絶望的でしょうね。。。

さて、まずはユリイカ。
古本屋で400円で売ってたので何気なく買いましたが、ものすごく内容が濃くてびっくり!
まあ、ユリイカ自体、毎回濃度の濃い雑誌なので当然と言えば当然なんですが。
「ART TRACE PRESS 01」に載せきれてない分をこっちで補完できる感じ。(年代的に逆だが)
ポロックの有名なインタビューや、リー・クラズナー等の貴重な証言も収録。
おもしろかったのはやはり多木浩二さんと藤枝晃雄さんの超豪華対談!!
この辺の対談は上に挙げてる加治屋健司さんの論文を読むととてもよく理解できます。
CIAなどきな臭い内容ですが、当時の時代背景を知った上で読むとまたひと味違います。
あと丹生谷貴志さんの論文「スピノザ的『神』が散らす塗料のゆくえ」はおもしろかった。
スピノザの「人間などおらず、ただすべては風景の中にある」という言葉から、それをそのまま体現しているようなセザンヌの絵画を引き、フランスを中心とするヨーロッパ世界がその「人間のいない世界」を見いだしてきたのに対し、アメリカはその逆、すなわち「人間のいない世界」から自分たちを見いだすことから始めたという導入は初っぱなからドキドキしました。
また元京都近美の学芸員尾崎信一郎さんの「解体と継承」は、グリーンバーグからフリード、クラウスへと続く批評の道を非常にわかりやすく説いていてすごく役に立ちました。

続いて「グリーンバーグ批評選集」と「モダニズムのハード・コア」。
どちらも以前読んでましたが、改めてポロック展見てから読むと色々おもしろかった。
前者に関しては、モダニズム芸術を語る上での金字塔的論文「アヴァンギャルドとキッチュ」「さらに新しいラオコオンに向かって」「モダニズムの起源」「モダニズムの絵画」が日本語で収録されてるのは改めて貴重。出版2005年と最近だけれど、それまでどうしててんやろ。。。これも絶版にならないことを祈ります。
ということで、いまさら自分が挙げつらうまでもないんだけれど、ちょっと疑問なのは「モダニズムのハード・コア」でT・J・クラークが批判しているように、彼がプッシュするポロックやニューマン、ロスコのような所謂抽象表現主義の画家たちに大きく影響を与えたシュルレアリズムや、ダダのことにほとんど触れず、代わりにマチスやマネなどを挙げるのはどういうことなんだろう?確かにマチスやマネは、絵画におけるモダニズムに大きく影響を与えたのはもちろんその通りなんだけれど、内容からしてみれば、シュルレアリズムやダダの影響というのはものすごく重要なはずなんだけれど。
特にデュシャンの言及なんて、ほっとんど皆無に近い状態。
1917年の「泉」以降、いやもう少し遡って1910年の「階段を降りる裸婦」はアメリカにものすごい衝撃をもたらしたと聞いているのだけれど、その辺のことはまったく触れられていない。
これは、フリードの論文にも同じことが言える。不思議で仕方がない。。。
ちなみに「モダニズムのハード・コア」にも収録されてる「芸術と客体性」はものすごくおもしろい論文ですね、改めて。T・J・クラークとのやりとりも含め、フリードの書き方は痛快。クラウスの文章は読んでてこんがらがることが多いのだけど、フリードのはうなずきながら読むことが多いなぁ。
それでもアンソニー・カロをあそこまで褒めちぎるのはかなり疑問ですが。。。


最後に表象05「ネゴシエーションとしてのアート」。これは学会誌ですが非常におもしろい内容。
なんといっても、クレア・ビショップの「敵対と関係性の美学」の邦訳がそのまま収録されてるのは素晴らしいです。でも、その前にこの論文の元となった、ニコラ・ブリオーの「関係性の美学」が未だに翻訳されてないのはどういうことなんでしょう。。。
90年代以降のアートを考える上でこれもある意味金字塔的な論文。
誰かフランス語から直接日本語に訳せる人に訳してもらいたいですね。
それでもこのビショップの論文で色々要約してくれているので、ブリオーの論文の全貌をかいま見ることは可能。
その上でブリオーの前著の矛盾をがんがん暴いていく姿勢は読んでて非常におもしろかった。
つまり、ブリオーのリレーショナル・アートに関する視点があまりに楽観的という指摘。
例えばブリオーの挙げる、リクリット・ティラヴァーニャの画廊でカレーを振る舞うパフォーマンスは、前提に画廊で行うというフィルターを通すことで、「鑑賞者」を選別しているという指摘。
これに対して、ビショップはサンティエゴ・シエラの作品を挙げ、これらのフィルターから漏れでた人たちとどう関係していくかを説く。
こうやって具体例を挙げていくことで、批判を強調していく様は痛快。
ますます「関係性の美学」読みたくなりました。。。
あと、ハル・フォスターの論文も収録されてたけど、これに関しては非常に読みにくい、、、というか民俗学の知識なくしてこれちゃんと読めるのだろうか?
そもそも彼の著作って、結構邦訳されてて、しかもそれらが絶版にならずに売られ続けたりするんだけれど、他の著者とどう違うんやろ。素朴な疑問です。
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