サイモン・スターリング「仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)」@広島市現代美術館

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2005年のターナー賞受賞者サイモン・スターリングの日本初個展!
まさかこの作家の個展が日本で開かれるなんて…。
というのも、この作家、中々一筋縄では歯が立たない厄介な作家だからです。
ターナー賞受賞時もかなりの物議を醸しました。
作品、というよりも、そのリサーチが彼の真骨頂。
的が決まればあとは執拗なまで食らいついていく。
リサーチにリサーチを重ね、それをヴィジュアルに落としこんでいく姿勢がすごいです。
そのリサーチっぷりは徹底していて、この個展でも遺憾なく発揮されてました。

まず一階では過去の代表作を展示。
「雑草の島」(2003)では、スコットランドの国立公園の湖に浮かべる島の提案。ここにはセイヨウシャクナゲが植えられていて、これは18世紀にこの地に持ち込まれ、その後野生化し、元あった生態系を破壊するほどに繁殖してしまった外来種。その「悪者」であるセイヨウシャクナゲを主役にする作品。
展示室には独特の生っぽい香りが漂ってました。ビジュアルとしても美しい作品。

続く「カーボン(ヒロシマ)」(2011)では自転車にチェーンソーが付いていて、そのモーターを動力に動くシロモノ。もちろん外せばチェーンソーとして機能します。スターリングの作品では移動がテーマになる作品がいくつかある。中でも自転車を使った作品といえば、砂漠を走破できるように、水やらを積み込んだ作品なんかもあったなぁ。

「オートザイロパイロサイクロボロス」(2006)は、舟の材料を燃料にしながら進む舟をスライドで見せてて、実際舟は進んでいくがどんどん燃やせば燃やすほど沈んでいって、最後には湖の底へ…。自分のしっぽを食べる空想の蛇「ウロボス」の無限性をテーマにした作品。スライドとテーマが滅茶苦茶美しい。前にパリでも見たけど、その時はわりと明るいところで投影していて、今回はしっかり暗室を作って、ちょっと下の方で投影してたのがより効果的でした。

そして地階では、今回のメインで完全なる新作「仮面劇のためのプロジェクト(ヒロシマ)」(2011)
ただの旧作を並べた紹介展ではなく、ちゃんと新作展としてスターリングを持ってくるあたりキュレーターの神谷さんの力量が示されている。すごい。
この新作は、この広島市現代美術館が所蔵しているヘンリー・ムーアの「アトム・ピース」という作品からスタートしていて、実はこの作品は、広島と全く相反する場所にもう一つの兄弟作品が存在することが判明する。
それはノーベル物理学賞もとった、イタリア人の科学者エンリコ・フェルミが核分裂の実験に成功したシカゴの研究所にある「ニュークリア・エナジー」という作品。
つまりそこは、広島に落とされた核爆弾リトル・ボーイの誕生の場所でもある。
ヘンリー・ムーアというと、先ず浮かぶのが、慈愛に満ちた母のような柔らかい人体彫刻。
そこからなんとなくムーアと言う人はその作品のように温かい人物なんだろうな、と人々は想像する。
しかし、彼にはもうひとつの顔があり、それは、とても政治的な一面だった。
彼を取り巻く人々はとても複雑な「顔」を持つ人ばかり。
彼の作品が世界中に広まるのを助けたアンソニー・ブラント卿。彼はロンドンのコートルード美術研究所の所長であり、有名な美術史家であったが、後に彼はソビエトのスパイということが発覚する。
また、ムーアの作品を多数所有するコレクターであるジョセフ・ハーシュホンは、その財源は核を作るためのウランによるもので、言わば、核戦争が彼の財産を無限に広げていたのである。
その複雑なる関係を、仮面劇として見せる今回のプロジェクト。
能の「烏帽子折」の話と被せつつ、ジェームス・ボンドやカーネル・サンダースまで登場し、奇々怪々なストーリーが、9つの面と、その面作りのドキュメント映像で繰り広げる。
映像は、見事な手さばきで面を創り上げる能面打ちのテクニックに魅了される。
実際の仮面劇を繰り広げるのではなく、黙々とモノが創り上げられていく過程を映しだしたのは、おもしろい選択。スターリングの作品は、いつもどこか醒めているというか、客観的な要素が多分にあって、今回もこの選択はすごく「らしいな」と思いました。
それにしても能面打ちの作業場が普通のマンションの一室でびっくり。これはサイモンもインタビューで語ってましたが、なんだかちょっと切ない。
あと、核やら冷戦やらの話の途中で、阪神優勝の際、バースに似ているからという理由で道頓堀に落とされたカーネル・サンダースの下りがやたらおもしろかった笑
こんなリサーチまでしちゃうのか!てか結局カーネルはどういう関係があったのかよくわからない。

最後の部屋にはその問題となった「アトム・ピース」が展示されていて、さらにスターリングがヘンリー・ムーアに着目するようになった、トロントのプロジェクトなんかも紹介されてた。
思い出せば、フランスのMAC/VALでもムーアの作品を取り上げていて、ここまでの壮大なインスタレーションに結実しているのはやはり執念としか言いようがない。
また、なぜヘンリー・ムーアなのか、という問いに彼はイギリス彫刻史における、最初の巨匠だからと答えていて、今の作家がちゃんと自国の美術史をつなげようとしてることに感動した。
やはりイギリス美術史というと、彫刻の歴史といっても過言ではないです。
もちろんターナーやフロイド、ベーコンなどの絵画もありますが、彫刻の厚みに比べるとまだ薄いです。
そしてその祖はなんといってもこのヘンリー・ムーア。
彼からアンソニー・カロやリチャード・ロング、トニー・クラッグ、アントニー・ゴームリー、アニッシュ・カプーア、そしてデミアン・ハースト、レイチェル・ホワイトリードへと脈々と受け継がれてる。
日本美術史を辿ると、ひたすら断絶を繰り返してる印象があって、こういうバトンリレーのような歴史のつなぎ方をそろそろ学ぶべきだと思いました。

かなり難解な展覧会でしたが、国内で彼の作品がこれだけのボリュームで見られるのはまたとない機会。
是非広島行くべきです。4月10日まで。
そして、野外に設置されたムーアのもうひとつの作品「アーチ」もお見逃しなく。
さて、来年度はどんな展示が控えてるのでしょう…発表が怖い。
とりあえず宇部の制作前後でちょうどヒロシマ賞のオノヨーコ展があるので寄ろうかな。
伊東豊雄ミュージアムもこの夏にはできるみたいやし。
そして今回でスタンプカードがたまったから次回は無料!イエイ!
今回常設がなかったのが痛かったな…いつもここの常設はいいので残念。次は3月17日から。
今回は広島の滞在時間最短の2時間でした…スターリング以外なにも見てない…。

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ジャンル : 学問・文化・芸術

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