「ハーブ&ドロシー」by佐々木芽生

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ついに先日関西で封切られた「ハーブ&ドロシー」を観てきました。
うーん、期待通り、素晴らしい映画。
というより、やはりこのモチーフとなるハーブとドロシーが素敵過ぎる。
彼らはNYを代表するコレクター。
コレクターというと大金持ちのイメージですが、彼らは違います。
夫のハーブは郵便局員、妻のドロシーは図書館司書という平均的な所得の中から膨大なアートを集めている。
生活費はドロシーの所得で賄い、ハーブの所得はすべてアートへつぎ込む。
40年間同じ1LDKのアパートに住み、細々としかし実に贅沢に暮らしています。
彼らの家は蒐集してきた作品で溢れていて、通り抜けるのも一苦労な状態。
そんな彼らにワシントン国立美術館から作品寄贈の依頼を受ける。
これまで他の美術館からも同様のオファーがあったが、様々な理由で断り続けてきた夫妻。
しかし「所蔵作品は永遠に売らない」「常設展は無料」というこの美術館になら、とオファーを快諾。
と、ここまではいいものの、実際家から出したらなんとトラック5台分にも及ぶ量!!
作品総数実に5000点近く・・・!!!
どうやってこんな1LDKのアパートに収まっていたんだ・・・。
さすがの美術館も容量オーバーで1000点のみワシントンが所蔵し、あとはアメリカ50州の50の美術館に50点ずつ分配するということに。(それでも3500点ですが・・・。)
その美術館たちが5年以内に50x50プロジェクトと題して「ヴォーゲルコレクション展」を開催。
佐々木監督はこの続編として50x50プロジェクトを追っているそうです。楽しみ。
というか、この映画を日本人が撮ってたのがびっくり。
佐々木さんは元々日本のテレビ局で番組制作に携わってた方で2002年に渡米し、この作品が初監督作品。
映画作りも初めてで、現代美術もよくわからない、さらに外国。
よくもこれだけのものを撮れたと思います。
資金繰りの苦労などたくさんあったようですが、全米でのヒット、さらに日本での公開まで漕ぎ着けたそのエネルギーに脱帽。
それもやはりこの夫妻の魅力があってのことなんでしょうね。

彼らのコレクションはこの何十年のアメリカ美術史を網羅している。
ソル・ルウィットやチャック・クロース、クリスト&ジャンヌ=クロードまで!
家に入ることと、無理なく買えることという条件さえ整えばガンガン買っていきます。
時には作家のアトリエまで訪ねていって、直に買ってたりして。
作家の作品の変遷をちゃんと追った上でどの作品が重要かを的確に判断します。
彼らのすごいのは、作品だけで事足らず、床に落ちてるスケッチとかまで買ってっちゃうこと。
現金で支払、そのままそれを持って地下鉄やタクシーで帰っていく。
中にはルウィットの指示書で風呂場にドロシーが描いたドローイングなんてものもあります。
見た目に乏しいコンセプチュアル・アートやミニマル・アートを蒐集していたのがすごい。
家に飾るだけの目的なら、もっと華やかな物が欲しくなるような気がするけど。
実際リチャード・タトルの紐の切れ端みたいなものまでコレクションしてる・・・。
「コレクション」のテーマをしっかりと決めているところが素晴らしい。
好きなものだけ買っていたら、ここまでのコレクションになってなかったと思います。
実際ハーブも「理解出来ないけど買ってしまうんだ」と言ってましたね。
「美人は3日で飽きる」というやつでしょうか・・・。
小山登美夫さんの本だったかで、作品を買うなら少し嫌だなとか理解出来ないと思うものを買った方がいいとか書いてあった気がする。
確かに日常にそれがあることで、少しずつ分かりあえてくるのかもしれません。
ドロシー曰く「一緒に暮らせば分かります。初めは好きになれなくても次第に愛着がわくんです」とのこと。
しかし、嫌いと思ってるものにお金を出すことって中々できることじゃありません・・・。
それもこれも彼らの審美眼なしには難しいでしょう。
いいと思ったら即購入。驚くほど迷いがありません。
映画の中で、彼らのペット好きな一面も見えて、誰かが「コレクターには動物好きが多い」というホンマかいな的発言がありましたが、実際ペットを見る目と作品を見る目が似ている。
慈愛というべき愛情に満ちた目。
というかネコとか作品引っ掻かないんかしら・・・。

とまあ、彼らのすごい点を挙げていくと本当にキリがありません。
作品への愛が映画からほとばしってました。
5000点近くもあるのに、一点一点ちゃんと覚えていて説明してくれる。
今や数点売ればもっと豪華な生活ができるのに、生涯で一作も売ったことがない。
こんな人達が本当に存在するのか、と夢物語でも見ている気分。
コレクターには色んなタイプの人がいますが、志を持ったコレクターに作品を買ってもらうことほど作家にとって幸せなことはありません。
こういうコレクターが世界にたくさんいてくれたらいいな、と思います。
彼らとすごく被るなぁと思うのが田中恒子さん。
関西のアート関係者で知らない人はもはやいないでしょう。
彼女も熱狂的なコレクターで、様々なオープニングでおみかけします。
そして昨年和歌山の美術館に作品を寄贈されました。
まさに日本の「ハーブ&ドロシー」!
田中恒子コレクション展@和歌山県立近代美術館

あとこの映画を見ていて、2人がNYにこだわって住んでるのも印象的でした。
こんな生活なので、旅行に行くこともない2人。
ほとんどNYを出ることはありません。
それでもやはりそこは世界の中心で、自分たちが行かなくても世界から集まってくる街。
アートもここに住んでいれば、世界の動向がすぐわかるというわけ。
その意味でもクリストとジャンヌのThe Gateは2人への最高のプレゼントになったのかも。
映画の中でまだ生きてるジャンヌの証言も印象的でしたね。

明日のとくダネではこの映画の特集が組まれてるそうです。
是非チェックしましょう。
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ジャンル : 学問・文化・芸術

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