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「玄牝」 by 河瀬直美

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東京に行ってきました。。。確か今年で7回目。
INAXの田中の搬出です。もういっそ全しょ(強制終了)
しかも再来週も行く。10月以降一気に5回も行っている。。。
こんなに立て続けに行くと観る展覧会もほとんどないのが困る。
と言いつつ2つ観ました。その2つに関しては今度の上京報告と合わせて。

さて、どうするか。
そこで映画でもどうやろうと、見たい映画を調べてたらなんとまさにその日に河瀬さんが渋谷のユーロスペースで舞台挨拶をするという情報をキャッチ!
田中の搬出も無事(?)終わって駆けつけました。

河瀬さんの新作映画「玄牝」。
先月この映画はスペインのサンセバスチャン国際映画祭で日本映画で12年ぶりの国際批評家連盟賞を受賞しました。すごすぎる。
「玄牝」。「げんぴん」と読みます。
いつも思うけど、タイトルがいつも凄い。「殯の森」とか。
どこからこんな言葉見つけてきはるんやろ。
「谷神は死せず。是を玄牝と謂う。」という老子の言葉から。
意味は「大河の源流にある谷の神は、とめどなく生命を産み出して尽きることはない。これを玄牝ー神聖なる母性ーと呼ぶ」ということ。
繰り返される生命の生産。

今回のモチーフは、愛知県にある吉村医院という病院。
病院といっても自然分娩専門の日本でも有数な場所。
全国からこの病院をたよってたくさんの妊婦さんが訪れる。
出産は病気ではない。だから「病」院では産みたくない。
そう思われる妊婦さんって実際多くいらっしゃると思う。
昔写真家藤原新也の言葉にこんなのがあった。
「あの人骨を見たとき、病院では死にたくないと思った。
なぜなら、死は病ではないのですから。」
生まれることも死ぬことも病気ではない。
当たり前のことなんだけど、なんだか忘れがちなこと。
それでもたくさんの妊婦さんが病院で産む。
家で産むにも今時助産婦さんをさがすのも一苦労。
大事な生命のこと。素人でやるのはリスクが高すぎる。
やはりケアがしっかりしている病院で産むことを選ばざるをえない。
そこで予定日と合わないからといって陣痛促進剤を打たれたり、産道がうまく開かずに帝王切開をせざるをえなかったり、結構散々な目に合ってる妊婦さんは全国に多い。
実際うちのおかんも色々ひどい目にあって、自分一人で子供を生むのをやめた。
自分は生まれた時点で足が脱臼していたらしくて、生まれた直後にぶっといおしめをさせられて保育器に入ることになってしまった。おかんが我が子を初めてその手に抱いたのは産んでから数週間後だったとか。
これは病院のせいではないんだけど、多分お医者さんがよく言う「安静に」という言葉のせいなんじゃないかとこの映画見ていて思った。
吉村先生によると、ちゃんと生活していれば難産なんてありえないという。
安静にするなんて、どんどん妊婦を不安にさせるだけ。
体が健やかであれば心も健やかになりすっきり子供も生まれる。
ということで、この吉村医院では生まれる直前までとにかく動けという。
現代の医者が言う「安静」とは全く逆の方針。
実際そこでの妊婦さんは薪割りやスクワット一日300回など、産後ムキムキになってるんちゃう?ってぐらい凄まじい運動をしている。
その運動の仕方がおもしろいのはちゃんと機能がくっついていること。
薪割りはもちろん料理するときとかに火を起こすのに使うし、スクワットも、壁を上下に雑巾がけすることによって得られる運動。おかげで壁ピカピカ過ぎ笑
僕も運動だけを目的とする運動ってできないんやけど、何か目的があればいくらでも出来る。
そうやって自然に動かす術を身につけさせているように思う。
あとやっぱり予定日なんてどうだっていいんだって。
あくまで予定は予定。それを医者の都合で勝手に決め込んで早産させてしまう。
子供はちゃんと出てくる時を知っている。それを待ってあげるのが母のつとめ。
吉村先生の考えで凄まじいのは、死産もちゃんと受け止めなさいということ。
生まれるのも自然だし、死ぬのも自然。それは神様が決めること。
中には胎児の心臓が止まっているにも関わらず流産を待つ人もいらっしゃった。
心臓が止まっている時点でかき出すことも可能。
でもそれだと「もし生きていたら」なんて考えてしまう。
自然に出てくるのを待ってちゃんと死なせてあげなければならない。
これは相当つらい事だと思う。想像に絶する。
それでも映画の中のお母さんはその道を選んでいた。
見ていて相当つらかった。

映画の中には3人のお産のシーンが収められている。
そのどれもが神聖で、思い切り泣いてしまった。
涙が止めどなくあふれる。なんなんやろ。
お兄ちゃんお姉ちゃんとなる子供たちも母親のお産に付き添う。
恐くないのかな?と思うが、しっかり母の手をつないだり汗を拭いてあげたりしている。
そして生まれた瞬間に流れた涙。
「涙って悲しいだけじゃなくて嬉しい時にも出るんだね」
その少年は後日そう言ってたそうな。
生命ってすごい。
お母さんたちは出産中に「気持ちいい」と言ってた。気持ちいい?
やはり出産=激痛というイメージがある。
実際そうなのかもしれない。男の自分には想像もつかない。
それでも彼女たちは口をそろえて「気持ちいい」と言っていた。
やはりそれまでの運動が産道を広げやすくしていたのか。
それでも気持ちいいって何なんやろ。
中には生々しい喘ぎ声を上げていた人もいた。まるでセックスのような。
本当に未知の領域。
自然分娩では羊水でドロドロの状態で母親に抱かせる。
僕のイメージではお湯で洗ってへその緒を切ってから抱かせるイメージがあるんやけど。
そして皆そんな我が子に言う。
「会いたかったよ。生まれてきてくれてありがとう。」
皆そう言われて生まれてきたのかな?
その時の記憶が人々の中に残っていたなら、世界平和なんてもっと簡単に訪れるんじゃないのか。
その「ありがとう」の一言でいいから残っていて欲しかった。
それぐらい大きな「ありがとう」だった。

また、最後に吉村先生が河瀬さんに「ありがとう」というシーンがある。
彼自身は娘さんとうまくいってなくて、その様子もカメラに収められている。
カメラの前だから話せる親子の会話ってあるのかもしれない。
自然分娩の権威として、神様のように崇められている吉村正氏。
しかし河瀬さんは彼を人としてちゃんと撮りたかったという。
皆各々問題を抱えながら生きているし、悩まない人間なんていない。
たとえ神様と言われている人でもやっぱり人なんだ。
そういうことをちゃんとカメラで捕らえていた。
だから河瀬さんの映画は魅力があるのだと思う。
彼女はほとんど空気のようになってその場でカメラを回し続ける。
それだけのコミュニケーションをしてきた賜物だと思うし、彼女の姿勢がそうさせるのだろう。
ドキュメンタリーは、殆どの場合どちらかの立場に立って、監督の意志を反映させたものが多い。
河瀬さんのドキュメンタリーは実際今回はじめて見たけれど、全くYESもNOも言わない。
もちろん彼女も一児の母として、吉村先生のやり方に魅力を感じてカメラを回し始めたのだとは思うけれど、YESだけで進むならあの親子の会話は撮る必要はなかったと思う。
神様を神様として見せることの方が容易な道だから。
それでも河瀬さんは神様をちゃんと同じ地平に立たせて撮っている。
中庸の美しさというのを河瀬さんの映画から感じることができる。
そしてその姿勢が吉村正をして「ありがとう」と言わしめたのかもしれない。
神様とか天才とか呼ばれることの辛さだってきっとあるんだと思う。
そのシーンはこの映画の中でとても印象に残るシーンだ。

この映画には「ありがとう」が溢れている。
生半可な「ありがとう」ではない。
そこには生命が乗っかっている。強い言葉だ。
僕もやはり河瀬さんに「ありがとう」と言いたい。

ちなみに大阪での公開は来年だそう。遅い!
公開されたらもう一度観に行きたい。
それにしても東京はやはり羨ましい。
映画や舞台好きな人はやっぱり東京に棲むべきだと思う。
そして実際それらを愛する人が棲む街だと思う。
今回の上映にも映画館は満席だった。
皆河瀬さんの映画を愛する人達。そんな空気で包まれていた。
次の上京でも映画を観る。初ゴダール!楽しみです。

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