U-30@ODPギャラリー

今大阪はデザインが熱いです。
10月に入って、立て続けにデザインイベントが乱立。
先日まで開催されたインテックスの「LIVING & DESIGN」や名村造船所跡地で行われた「DESIGN EAST」。
昨日からパンタロンやgrafが連動してオランダデザインを紹介する展覧会「Hoi!」など。
そして来春には中之島にデザインミュージアム「de_sign_de」がオープンするとのこと。
うーん、アートの方もがんばっていただきたいものです。
そんな中、20代の若手建築家7人を集めた「U-30」展に行ってきました。
20代の建築家。単純に考えてすごい話です。
建築はアートと違って、一人ではどうにもならない大プロジェクトです。
建物を建てるには、まず依頼主がおらなあかんし、大きなお金も必要だし、コネクションだって重要。
そんなことを20代の若さでなし得ることが可能なのか?
そもそも建築学生とかって何をモチベーションにしてるのか謎。
だって、実作を作れないんですよ?
せいぜい模型やCGモデル止まりですよね。
正直僕だったら耐えれないです。
それを考えるとアートって気楽やな、って思います。
そもそも依頼主がいなくてもいいんですもん。
頼まれなくても自分が創りたいものを創りたい時に創ればいいんです。
お金がなくったって、やろうと思えばできる。
でも建築って絶対無理でしょ。ダンボールハウスとか?
そのモチベーションのもって行き方がどう向いてるのか不思議で仕方がない。
そんな不思議な人達のモチベーションを垣間見れるのが今回の展覧会でした。
展覧会の印象としては「誠実さが滲みでた展示」といった印象。
建築というものをどう捉え、自分はそれに対してどうアプローチしていきたいのか、ということを、展示を通してまっすぐに訴えかけてるという感じ。
ただ、悪く言ってしまうと、地味。
「20代」という言葉から連想される「若さ」が全く感じられませんでした。
むしろ老練してる感すら受けました。
なので展覧会としては、ちょっとサービス精神に欠けるな、と正直思いました。
でもまあ、この人達はあくまで建築家であって、アーティストにあらず。
建築家としてもまだまだ歩き出したばかりの人たちにそこまで求めるのは酷というもの。
むしろまっすぐに伝えようとする誠実さは評価に値するでしょう。
少なくとも先日の「建築はどこにあるの?」よか断然いいです。
その点で言えば、最も好印象だったのは大西麻貴の展示。
この人は去年東京現美での展示を見たけど、それは全然よくなかった。
何か美術館ということを意識しすぎて、美術「っぽい」ものを作ってしまった感がありました。
今回は今手がけている「二重螺旋の家」というプロジェクトを紹介する展示。
見せ方もすごくよかったし、コンセプトも明快で、とてもおもしろかったです。
谷中に建つ予定の家で、路地が家に巻きついたような建物。
奇抜なんだけど、全然奇抜に見えないのがすごい。力のある人だと思いました。
あと、藤田雄介さんの作品もよかった。
都市模型が置いてあるんだけど、それは架空の都市で、自分の実際に手がけた家のあり方が周囲の建物にまで伝染していくという様が表現されてます。
また、radで知り合った大室佑介さんの作品は、模型ではなく、実際の作品を展示しています。
具体的には「百年の小屋」という作品で、4つの木製の小屋が展示されています。
その小屋は持ち運びが可能で、実際に様々な場所に設置し、大室さん自身が住まわれたのだとか。
その生活の痕跡がその小屋の中に残されています。
ただ、ちょっとわかりにくい部分が多々あって、ビデオでもあればな、と思いました。
あと展示で損してたのは、増田信吾・大坪克亘と西山広志・奥平桂子の2ユニット。
前者は実際はもっといいはずなのに、伝わってこない歯がゆさがありました。
逆に後者は、一見魅力的なんだけど、その先に目指すものが何なのかが見えてこなかったです。
そして、残念ながら、インスタレーションをやってた米澤隆さんと岡部修三さんは、ちょっと展覧会意識しすぎちゃったよなーという印象。建築家がインスタレーションやるには相当難しいと思う。むしろちゃんと建築を見せた方が絶対いいです。
全体的にはそんな印象。
さて、そんな展覧会ですが、先週の土曜日と昨日行われたシンポジウムが相当豪華。
先週は五十嵐淳、藤本壮介、平沼孝啓、三分一博志、塩塚隆生の5人+五十嵐太郎。
そして昨日はなんと伊東豊雄さんです!!
予定があったんですが、午前中に切り上げて行ってきましたー。
シンポジウムの構成は、伊東さんの講演が1時間、展覧会出品者のプレゼンが1時間、伊東さんと出品者のディスカッション1時間の計3時間でした。
まずは伊東さんの講演。
内容は自分の20代・30代の頃の話と、これからの若い人たちへのメッセージ。
20代は菊竹事務所でコキ使われまくって大変だったという話。
人生で最も働いた時期だそうで、これで自分の20代は失われたと笑
独立し、仕事がなくて悶々とこれからの建築を考えていた頃の話など。
そして、来年竣工の「伊東豊雄ミュージアム」の話では、これからの建築教育のあり方を述べられました。
自分の建築を続けるのと同時に、これからは後継の育成を図りたいと。
そこで、東京とそのミュージアムで「伊東塾」を開き、主に東京では建築学生と、ミュージアムでは小学生たちとのワークショップを通じて、自分の建築観や、ものを作る悦びを伝えていきたい。
そもそも学生自体が、冒頭でも述べたように、建築そのものを建てる機会がないですもんね。
その機会を自分が小さなものでもいいから与えてやることができるならと立ち上がったわけです。
もの自体をつくらずにコンピューター上だけで作業してると、どうしても頭でっかちになっちゃいますしね。
建築は特に空間が要なので、自分の五感でその空間を感じ取る必要があります。
そしてそもそも子供の時期に建築に触れる機会を作るのも大きな狙いです。
考えたら確かに学校の授業に図画工作はあっても建築はないですもんね。
これらの「伊東塾」構想のきっかけは「くまもとアートポリス」の委員長を務めたことや、福岡のぐりんぐりんで学生たちとフォリーを作るワークショップだったようです。
くまもとでは藤本壮介という逸材にバンガローを建てさせる機会を作れたし、福岡では、今回出品してる大西麻貴さんも参加していて、学生が如何に実際の要求をどう解決していくかを議論できたのが刺激になったよう。
実際の建築を建てるには、様々な法規や安全性が問われてくるもので、100%思い通りにいくことはまずありません。その中で自分がどう解決し、また、それらの弊害を乗り越えることで、当初計画していたものよりももっと良いものが作れることがあるということ。そういうことって実戦じゃないとわからないですもんね。
また、人の意見を聞くことがどれだけ重要かということ。
「座高円寺」の際に、当初は四角い鉄の箱だったのが、公聴会の際におばさんが「こんな鉄の冷たい箱はいや」と言われたことが影響して、今のテント小屋のような形になった話などを披露しました。
最後に自分の目指す「強い」建築の話をして、若い人々へのメッセージを伝えました。それが以下の5つ。
・誰のために建築を作るのかを考えよ
・フラストレーションやコンプレックスを大切にせよ
・素直に心を開け、そして気持ちを表情で示せ
・独りよがりにないか確認せよ
・世界は広い。海外で働こう
この中で妹島さんを例に出して話してるのが興味深かったです。
妹島さんは、事務所にいる頃から、論理的にものごとを説明するのが苦手な人だったけれど、好きか嫌いかだけは、誰よりもはっきりしていて、だからといって独りよがりにならず、独立した当初は、自分の建物について様々な人に意見を聴きに回ってたそうです。さすがに伊東さんのとこまでは来なかったそうですが笑
そうした態度が今の妹島和世を作っているんだと思いました。
今の人は、感情を押し殺すのが得意になってしまっていて、嫌と思っても表情に出さないのが危険だと。
それに関して今回、伊東さんがこの展覧会に向けて「洗練の先にあるものは何か -若い人々へのメッセージ-」という文章を寄せてらっしゃって、冒頭の文章にこの世代の印象を述べてらっしゃいます。
建築家を志す若い人々と接すると、大方はとてもスマート、かつクールである。口角沫を飛ばすような議論にお目にかかることはまずない。いくらこちらが攻撃をしかけても、軽く受け流されてしまう。若い割りにはやけに大人、というか成熟している印象を受ける。これは複雑な社会のなかで幼い頃から他者を傷つけたり、他人とトラブルを起こすことを回避する術を身につけて育ったからであろう。
これは、僕らの世代に関してある程度言い得てる文章だと思います。
昔学生の頃、先生が僕らに対してこう言いました。
「若さとは従順であることではない。抗うことや」
でも、僕らの世代にこれが当てはまるのかは疑問でした。
散々抗ってきた前の世代の末路を見てしまっているし、インターネットの普及により、今の世代の人々はより信じやすい体質になっているようです。
上の世代の人たちの若い頃には、まだ未来に希望がありました。
でも今、それがあると言い切ることができるでしょうか?
希望がある時に悪態をつくのは簡単です。
でもそれがない時。これ以上悪態なんか付いたって仕方が無いじゃないですか。
それを如何に肯定できるかが、やっぱり要になってくるような気がします。
草食系なんて言葉が現れて久しいですが、それらが大きな力になることを僕は信じています。
話は少しそれましたが、第2部出品者のプレゼン。
建築の人のプレゼンってそういえば生で初めて見た。
そして、プレゼン能力の差が歴然としていた。
大西さんのプレゼンがダントツでうまかった。
簡潔だし、感情的だし、聞いてて楽しかったです。
それに比べて他の方々のプレゼンはお世辞にも聞いてて心地いいもんでもなかった。
ただ文章を読んでるだけの人もいるし、まとまってない人もいるし。
まあ、経験がものを言うもんだと思うけど、プレゼン命と言っても過言ではない建築の世界でこれは通用するのか?
大西さんはその点、学生時代にコンペを勝ち続けてきた貫禄のようなものがあってすごかった。
せっかくおもしろい作品作っててもそれを伝えられなきゃ勿体無いっす。
過去作でおもしろかったのは、展示で損をしていると書いた増田信吾・大坪克亘と西山広志・奥平桂子の2ユニット。
前者の作品は、いくつか人を対象にしていない建築があって、それってすごいと思った。
北海道の岬に建つ「たたずむ壁」は海鳥と植物の為の「建築」。
今回出品してる「ものかげの日向」なんて、物置ですからね。
伊東さんはそれに対して勿体無いとおっしゃってたけど僕は好きです。
一方後者の淀川河川敷の芦を踏み慣らすだけで形成される「舞台」は美しかったし、それをなんのてらいもなく「建築」と言ってのける感覚に驚いた。
この2ユニットは、これからどう建築をしていくのかすごく興味深かったです。
最後のディスカッションは、ディスカッションというより合評だった笑
結構辛口に伊東さんが突っ込んでるのに、のらりと交わすあの感覚。寄稿文通りですね。
この合評の中で、伊東さんが「pre architecture(建築の前の建築)」という言葉を使ってました。
最近の若い人達に多い傾向で、建築のピュアな概念だけを切り取ったような「作品」を作る人が増えた。
これはこれでおもしろい傾向だけれど、実際の建築は「構造」「形」「ルール」が密接に絡みあって、そんなピュアなものばかりを作っていては、海外では絶対に作れない。日本より様々なことがスムーズに動かないし、施工もずさんな場合が多い。そんな中で戦っていくには、もっとタフに現実を見続けなければならないと。
それはその通りだと思います。
しかし実際に石上純也なんかみたいに、ニュータイプな建築家が出てきて、あの人もう実際の建物建てる必要がないんじゃないの?ってぐらいに展覧会の依頼が殺到している。
これってどうバランスを取るのか難しいですよね。
あと大西さんはやっぱり絶賛されていて、藤本壮介よりも上だとまで言ってた笑
藤本さんに関して、伊東さんは日本で信頼できる3本の指に数えられる建築家の一人だとまで評価してるのだけど、彼の建築は、建築というよりそのpre architectureだと。
確かに藤本さんの建築を実際に見ると、どう見ても1/1モデル。
模型で見たときの感動の方が実際の建物を見た時の感動より大きいのは問題ですよね。
そういう現実の建築のノイズをどう取り込んでいくかが建築の醍醐味だという話。
とてもおもしろかったです。
そんなこんなの3時間強。がんばって観にいけてよかった!
この展覧会は明日の11日まで。
U-30 official website>>http://www.aaf.khaa.jp/u30/
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「パブリック・スペースプロジェクト 大西麻貴+百田有希」
ついでに、藤本さんの手がけたユニクロ心斎橋。人多すぎて入れん。。。


あと、さらについでに安藤忠雄の世界最小建築、神戸コロッケ。コンクリじゃない!


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