Anish Kapoor @ Royal Academy of Arts

2004年。金沢21世紀美術館。
彼の作品に初めて出会う。
その黒い無限の穴に魂を奪われる。
2005年。テートモダン。
彼自身に出会う。
初めて行ったロンドン。初めてのテートモダン。フリーダ・カーロ展。
カーロに興味があったわけじゃないけど、とりあえず見ておこうとチケット買ったはいいものの、人気過ぎて時間指定チケット。時間まで1時間ほどあったので、テートのビデオブースで2002年のタービンホールを飾った伝説の展示のビデオがあったので見る。
見終えて時間になったので展覧会に行ったらついさっきまでブラウン管の中にいた人が普通に息子さんと一緒にカーロを見てた!!
まさかと思いつつしばらくストーキングしたが、どう見てもそう。
ここで声をかけなきゃ一生後悔する。
渾身の勇気を振り絞って声をかける。
Are you Anish Kapoor?
彼は答える。
Yes.
思わずOH MY GOD!!と叫びそうになるがなんとかこらえて握手してもらう。
もうカーロなんて見れたもんじゃなく、途中で会場を後にする。
その日僕はその右手を洗えなかった。
2006年。Lisson Gallery。
そこに展示されてた「Past,Present,Future」は完全に神の領域。
もうあの場の空気は一生忘れられないと思う。
そして僕の友人を完全に変えてしまった。
それ以降彼はファインアートにドはまりしてしまう。
Anish Kapoor @ Lisson Gallery
2007年。Haus der Kunst。
その友人と行こうと言いつつ、僕は帰国を目前にしてた為断念する。
そしてこれが一生の後悔になることを空港の雑誌の中で知る。
その前にフランスのナントで発表されてた新作「Svayambh」。
写真が雑誌に載ってて「夢であってくれ!」と何度も思った。
そしてその後巡回したミュンヘンのHaus der Kunstで行われた展覧会タイトル。
「Svayambh」。
終わった・・・。わては阿呆や。。。。
日本に帰れる!という希望が強過ぎて何も見えてなかったのです。
そして友人はミュンヘンまで行って神の御姿を目にすることになる。
「神を超えたのは神でした」
これがその展覧会を観た友人の言葉。
ああああああああああああああ
そして2009年。その時はやってきたっ!!!
ということで今回の渡欧目的の99%を占める展覧会です。
ある日たまたまamazonでカプーアの本を検索してると秋に新しい本が出ることがわかって出版元を見てみると「Royal Academy of Arts」となってて、ん?と思って、今度は「anish kapoor royal academy」でググったら大変なことが発覚。
なんとこの秋カプーアの大規模な個展がローヤルアカデミーで!!
その瞬間から僕の頭の中では「行く」という選択肢しか見当たりませんでした。
当初母と2人でのんびりイタリアに旅行しようという計画があったのですが、
イタリアはスリもぼったくりも多いし石畳ばかりでやさしくないよ?
それよかロンドンなら英語も通じるしさ!
などと説得して無理矢理ロンドンに変更。
こうしてカプーア展の為の旅が実行に移されたのです。
あの2年前の後悔を取り戻すんや!!!
アカデミーに着くと、まず出迎えてくれるのが高さ30mにもなる巨大な新作。
鏡面の球が重なり合って天高く昇っていく。
1つ1つに古い建物が映し出される。んー美しい。
期待が高まる中はやる気持ちを抑えてチケット購入。いざ・・・。
まず結論から言うと、
「ロンドンまで来てよかった!!!」
と心から思える、筆舌に尽くし難い程の素晴らしい展覧会でした。
この展覧会を見れなかった友人に心から「ご愁傷様」を送りたい。
ミュンヘンで見れなかったあの後悔はすっかり取り払われました。
この展覧会を振り返るのに3つのキーワードを挙げてみました。
「色」、「彫刻」、「動き」です。
まぁ、拙い文書ですが、僕なりにカプーア論をまとめてみます。
まず「色」。
最初の部屋ではカプーアの最初期の作品1000 Namesが展示されてます。
様々な形のオブジェに色鮮やかなピグメントが振りかけられた作品。
彼の作品を語る上で欠かせないのがこの「色」。
特に現代の彫刻家でここまでラディカルに色を使ってる作家は珍しいと思う。
色というのは、もろにその人のセンスを象徴してしまう要素。
大学時代教授が言ってた
「絵描き殺すにゃ刃物はいらぬ。色をけなせばそれでいい」
って言葉を思い出します。
(元は「大工殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればよい」)
つまり、構図やらなんやらは訓練とかである程度なんとかなるもんだけれど、色ばっかりは天性のものなので、それをけなされたら絵描き人生が終わってしまうというわけ。
この場合は絵描きだけど、すべての表現者に当てはまる言葉。
また色はあまりに意味を含み過ぎているということもある為使うのを憚る作家が多い。
赤を見れば温かさを、青を見れば冷たさをといった固定概念が働いて、作品の純粋性が損なわれるのではないかという危険を常に孕んでいる。
故に具体的な色より黒や白、もしくはグレイ、はたまた透明といった色が今の主流だ。
そんな中カプーアは積極的に色を取り込む。
そして彼の使う色はすべての意味から解き放たれているように見える。
2005年にバービカンセンターで行われた「COLOUR AFTER KLEIN」という展覧会を思い出す。
青という色を究極まで高めたイヴ・クライン以降の現代表現の「色」を問う素晴らしい展覧会で、ボイスにブルジョワ、ウォーホールにフレイヴィン、カルにタレル、そしてカプーアと錚々たるメンバーが集められた。
カプーアはこの1000 Namesを出品していて、赤や青、黄色とすごくポップな色を扱っているにも関わらず静謐さまで感じさせる不思議な彫刻。
あの時のことを思い出し、さらに奥に進むと、黄色い壁が現れる。
よく見ると真中はゆったりと凹んでいる。
マットな黄色がその神々しさを讃えている。
この作品のタイトルは「YELLOW」。
続いて「彫刻」。
そもそも現代美術に絵画だの彫刻だののボーダーなんて存在してんの?
って問があるかもしれないけれど、僕はあると思ってます。
確かに絵も描けば彫刻も作るし写真も撮るし映像もやっちゃう、なんてマルチな作家は数いるけれど、そうした作家より、自分の仕事を専門的に追求しているマエストロ的な作家の方に魅力を感じるし、そうあるべきだと思う。
ちなみに僕は主にインスタレーションをやっているのだけれど、本人的には絵画を作ってる意識でのぞんでいます。インスタレーションというのは、ある種の風景画だと思っていて、スクリーン的な視点が強く、むしろ僕には画布に描く方がオブジェ性が強過ぎて描くことをやめてしまったのです。(フォンタナがかつて画布を切り裂くことで、絵画がオブジェだということを暴いたのはあまりに有名ですね)
話はすこしずれましたが、カプーアは明らかに彫刻家として彫刻概念を追求している作家の1人だと思う。
次の部屋ではミラーの作品が展示室の空間を歪めたり引き延ばしたりしていて、これまでの彫刻概念を崩すようにそのオブジェ性が排除されています。
彫刻というのは、オブジェとしてそこにどっしりと存在していなければならない。
というより、そうあらざるをえないというのが事実。
しかしこれらの彫刻は存在しているんだけど、輪郭がとても曖昧。
思わず近づいてみるものの、見えるのは自分の姿とその後ろの風景のみ。
作品を見ているんだけど、一体何を鑑賞してるのかわからなくなってくる。
この「鏡の間」はとても不思議な空間。
さらにその奥には鉄の塊が部屋全体を埋めている。
鏡とは反対にその存在感に圧倒させられる。
裏に回ると今度は小さな穴が開いていて、外観の輪郭とは関係のない永遠の闇を内包しているかのよう。
これは昨年ベルリンのグッゲンハイムで発表された「MEMORY」という作品と類似していて、その作品も、穴だけのパートとその構造物を見せるパートで分かれていました。(実物見てないけどね)
さらに奥にも、今度は蛇のとぐろのようにうねった彫刻が現れて、そのとぐろは樹脂で出来ていることがまるでわかるようになっている。
しかしその大きな口は深紅の光沢のかかった色で覆われ、そこにも永遠の穴が現れる。
この2つの作品の特徴は、作品の構造をさらしているというところにある。
つまり作品の舞台裏まで見せちゃってるみたいな状態なんである。
美術館で作品を見るというのは夢を見ている状態に近いと思う。
それらをものとは見ず、ある種のイリュージョンを見せてもらいに行くのだ。
しかしこれらの作品を見るといきなりその夢から叩き起こされたような感覚に陥る。
でも穴の部分を見ると再び夢に戻って、また夢から醒めて、みたいな繰り返し。
そして今回さらにその上から冷や水を浴びせるような作品が登場する。
「Greyman Cries, Sharman Dies, Billowing Smoke, Beauty Evoked」
タイトルも謎だけど、展示も十分に謎です。
チューブで押し出したようなセメントを積出させたオブジェが会場を埋め尽くしていて、展示というにはあまりにお粗末な、木のパネルの上で、あたかも今制作中ですといった雰囲気を醸し出していて、一瞬美術館にいるのか作家のスタジオにいるのか混乱してしまう。
作品も完成されてるのか未完成なのかよくわからない状態で、まったくもって謎。
これらの作品を通して、美術作品や、美術館、美術そのもののもつイリュージョンにゆさぶりをかけているようにも見えて、すごくラディカルな展示です。
にしてもイギリスは優れた彫刻家が多い。
ヘンリー・ムーアを筆頭にアンソニー・カロ、リチャード・ロング、トニー・クラッグ、現代では昨日も記事にしたアントニー・ゴームリー、レイチェル・ホワイトリード、マーク・クイン、デミアン・ハースト、、、ストーン・ヘンジから続く彫刻の系譜があるのかしら。
最後に「動き」です。
この要素は、近年になってカプーア作品に表れ始めたもので、この展覧会の2つの目玉作品に顕著に表れています。
1つはこの春ウイーンで発表されたばかりの新作「Shooting into the Corner」。
これはなんと大砲に赤いワックスをつめて壁のコーナーにめがけて撃つというとんでもない作品で、ローヤルアカデミーでは25分に1度発射されてました。
その音の凄まじさたるやなくて、赤いワックスが衝突して砕ける様は圧巻。
天井とかにも飛び散ってたけど、この後どう処理するんかしら・・・。
これを許しちゃうこのローヤルアカデミーがすごい。
ちなみにその撃ち手の彼がすごい端正な顔立ちで超クール。
ひたすら無表情で弾を込めて撃ち、終わったら裏で本を読んでいます笑
展覧会観に行った人の中でもあの撃ち手は何者!?という話題がちらほら。。。
そして、僕が2年間恋い焦がれてついに出逢うことができました。
「Svayambh」。
サンスクリッド語で「自己形成」という意味をもつこの言葉。
なんと40tもの赤いワックスの塊が展示室を通り抜けていきます。
そして、その通り抜けた通りの形になって、ずんずんと進んでいくのです。
スピードはとても遅く、ちゃんと見ないと動いてるってわからないです。
でも確実に動いていて、4部屋を貫通していきます。
もう出逢えた瞬間は涙でうるうるしてしまって大変でした。
こんなに美しい作品があったでしょうか。。。。
特にローヤルアカデミーの建物は普通の美術館と違って、古い装飾的な建物なので、余計にこの作品の形がおもしろいです。(確かミュンヘンの時は長方形だったと思う)
思わずそのゆっくりの動きを最後まで見届けるべく、ローヤルアカデミーに2時間近く滞在してしまいました。でも実際多くの人が飽きもせずその光景を眺めていて、皆でこの世のものとは思えないものを眺めていました。
この「動き」という要素は、作品に取り入れるにはあまりにキワドい要素で、大抵の場合作品が安っぽく見えたりダサく見えたりします。
作品に動きを取り入れた最初の彫刻家はアレクサンダー・カルダーと言われていますが、彼の彫刻の場合は風という自然の力を使ったものだからまだ見れるんですが、ジャン・ティンゲリーやレベッカ・ホーンなど、器械で動くものはもう見てられない作品の方が多いです。
そんな中、カプーアは、もう神業ですね。間違いない。
そもそも、3年前に僕がリッソンで見た「Past,Present,Future」も枠が動くことで球体に削られていく赤いワックスだったわけだけど、それだけでも十分な破壊力やったのに、あれはこの「Svayambh」のマケットだったのかと思うともう底なしすぎて尊敬通り越して恐いです。
カプーアのすごいところは、その代表作を着実に更新していってるところ。
代表作っていうと、大体が過去の作品になってしまう作家が多い中、カプーアの場合、新作を発表する度にそれが代表作になってしまう。
「カプーアの代表作って何?」
って聞かれたら間違いなく
「Svayambh」
って答えちゃいますね。発音でけへんけど(死)
昨日書いたゴームリーの記事に関してもそうやけど、大御所になってもまだまだ前に進んでいく作家を見てると心から感動してしまいます。
どうしてもセンスや感性ってのは若い頃の方が鋭いもんやと思うし、その頃にポンといいものが生まれることってあるもんやと思うけど、その頃の感性を未だに絶えず磨き続けて走り続けている彼らの姿は美しいし励みになります。
今回この2人の作品を見れて、いい刺激になりました。
僕も今得た刺激をしっかり受け止めて磨き続けたいと思います。
ちなみにローヤルアカデミー近くのHauser&Wirthでは同じインド出身のスプード・グプタの展示をしてましたが、差は歴然でした。底が見え見え。「美術の為の美術」とかもう見たくもありません。
あー、しかし次にロンドン行く目標失ってしまった。
そもそも2年前に帰国した際に
「次にロンドン行くのはカプーアの大規模な展覧会がある時」
と決めてたので、こんなにも早く叶ってしまうとは。。。
テートの増床とかも気になるけど、もうカプーア展を超える展覧会はないでしょう。
これで去年のベーコン展が今年やってくれてたらもう死んでもよかったのだけれど。
まだまだ死ねません。
ところでこのカプーア展。
この秋ロンドンの大目玉みたいで、街中どこいってもこの広告を目にします。
地下鉄、バス、電話ボックス。
果ては映画のCMになってたそうです。それがコチラ↓
映ってる撃ち手は噂のクールガイじゃないです。悪しからず。
追記1
ミュンヘンで「Svayambh」が発表された時、中にはドイツの歴史と繋げてアウシュビッツを連想した人もいたそうです。あの分岐する列車とリンクしたんですね。この赤色も血なまぐささを感じるといえますしね。
塩田さんも靴の作品をポーランドで発表した時にアウシュビッツという言葉が出たそうな。
この辺りで発表するとこういう反応が必ず返って来るのが特徴的。
追記2
14日からリッソンでカプーア展が始まりました。
3年前のように大変なことになってたらどうしようと恐々ギャラリーのサイト覗きましたが、様々な形のカラーリフレクションの作品みたいでちょっと安心。でもまあ美しいんやけどね。あー、日本で発表してほしいなー。
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