now here, nowhere@京都芸術センター
鑑賞から時間が経てば経つほど気になる展覧会。
今京都芸術センターでやってる「now here,nowhere」展。
'w'の位置を換えるだけで違う言葉になる言葉遊びなタイトル。
正直タイトルだけ見た時点では期待なんてとてもじゃないけどできなかった。
しかも「now here」っていうのはポストモダン以降にしきりに作家らの間で言われるようになった「いまここ」という考え。いつでもどこでも均質にしていったモダニズムに対する反発として、いわゆるサイトスペシフィックと言われる作品に見られるような、時間や空間に制限されるような制作方法。
正直もう聞き飽きたような考え。それが「いまここ」。
なんで今更?と思いつつ見に行ったら、実は「nowhere」の方が肝だったという。
まずギャラリー北に入ると前田明子さんの「顔のない女」シリーズと題された写真作品が入って左の壁から正面の壁に向かって並べられている。左の壁にはハイヒールを履いた女性の足元の写真。正面には後姿であったり、暗くて顔のわからない女性の写真が三点。
続いて右の壁には水木塁さんの「Ripe of color #Narcussus」という写真シリーズ。色鮮やかな写真なんだけど、それは何が写されてるのかわからない。説明を読むと、水仙を撮った写真プリントを、漂白剤につけ、色が印画紙を離れた瞬間を再び写真に収めているらしい。
そして、最後は馬場晋作さんのステンレスに油彩で細かく描かれた作品。実際何が描かれてるのかは具体的にわからないが、女性の下着のようにも見えてどこかエロティシズムを感じる。
続いて南に行くと、藤井俊治さんの色鮮やかな油彩の人物画。どうやらサーモグラフィで映った像を描いているようで、鮮やかな色彩と裏腹にどこか冷たい印象が漂う。
そして仲居真理さんのタイルに幾何学がプリントされた集合体の作品。実際幾何学の正体は、壁と床が織り成す角であって、日常生活の中のものでしかないのだけれど、これだけ集まって見せられると非現実のもののように見えるから不思議。
そして最後は刈谷昌江さんのペインティング。写真では何度か見たことがあったけれど、実際見たのは初めて。映画館や鳥、カーテン越しの木など、どこかシュールレアリズム的な絵画でとても不思議な雰囲気。
と、ここまで見てあることに気づく。
それは、これらの作品に共通するある種の違和感。
刈谷さんの作品にそれは顕著なんだけれど、どれも物語性をもっていそうに見えて、実はそれらの作品から伝えられる情報は限りなく少ないということ。
なんだか、いつまでたっても演目の始まらない劇場にずっと座ってるような。
それはかの有名なジョン・ケージの「4分33秒」のような、無言のセンセーション。
そして、これらの作品の放つ鮮やかな色彩が余計に胸をかき乱す。
どこまでも青い空を見上げた時の不安な感じというか。
そういう気味の悪さがこの展覧会に漂っていて、鑑賞終了後も長くこの胸のざわめきが収まらず今に至っている。こういう展覧会って中々珍しい。いい展覧会だと思う。
ただ、やはりタイトルで相当損をしているような気がする。3月22日まで。詳細。
森太三「Rain」@neutron
今までもギャラリーwks.や名古屋のアーツチャレンジ等で、何度か見させてもらってきた森さんの展覧会がneutronで行われるというので行ってきた。
いつも根気のいる作業を繰り返すことで作品にしていく森さんの作品。
以前は紙媒体を使ってらしたが、最近は紙粘土を使った作品が多い。
特に、床一面を手で捏ねた紙粘土で満たしたwks.の展示は忘れられない。
今回はアーツチャレンジのような、色とりどりの紙粘土を丸めたものを大量に使った作品を発表。
正直アーツチャレンジの時は規模が中途半端で満たされなかったのだけど、今回はギャラリー空間の8割ほどを覆い尽くす大量の粘土の粒。それらひとつひとつの色が大きなうねりを描いて、ものすごい迫力。また、カフェとギャラリーを隔てるガラス壁も有効で、それに映った像がまたこの作品を広げている。
森さんの作品への期待ど真ん中の展示で大満足でした。3月15日まで。
来月にはまたパンタロンでの展示が待ってるらしい。楽しみすぎる・・・。
パラモデル「パラモデリック・グラフィティ」@なにわ橋駅
昨年開通したばかりの京阪中ノ島線。
その駅のひとつ「なにわ橋」駅にアトリエB1というアート空間がオープンしました。
そこでのオープニングを飾るのがパラモデルの二人。
実際この電車自体まだ乗ったことないのだけど、ひとまずこのアート空間を堪能してきた。
おもちゃのプラレールを使って無限の空間を作り出すパラモデル。これまでも何度か彼らの作品見てきましたが、僕が見た中で最大級の広さの作品でした。
どこまでも有機的につながるプラレールの青い線路。
合間合間に動物のおもちゃや発泡スチロールでできた山などが現れ、それらが床、壁、天井と縦横無尽に広がるまさにパラモデルワールド炸裂。
いやー、とても気持ちよかった。
駅の中ってのも彼らの作品にマッチしすぎてて楽しかった。3月29日まで。

加賀城健「-Positive Taboo-」@YOD Gallery
最近こちらのオーナーさんとメールのやりとり等でお世話になってて、今回の展示がすごいものになった!とおっしゃってたので期待して行ってきました。
加賀城さんは染色の作家さんで、いわゆる「染色」というイメージを払拭するような、現代美術寄りの作品を手がけてこられた方だそう。何度か過去に見たことがあるはずなんだけど、記憶が曖昧で今回改めて記憶を更新させてもらいました。
展示室には脱色による作品と、染色による2タイプの作品が展示されていて、それらが折り重なるような動的な展示。ホワイトキューブの展示に見られるお行儀のよい静かな展示とは違って、上下に展示されてたり、非常に動的。さすがオーナーさんが太鼓判を押しただけある。
脱色の作品は、様々なプロセスが踏まれていて、ひび割れたようなパターンがかっこよかった。言われなければ版画と見紛ってたかもしれない。
染色のはデカルコマニーの要領で左右対称。といっても、染めの具合でまったくの対象になってないのが小憎い。
僕は個人的にこっちの染めの作品がお気に入り。
なんといっても色彩がすごい。
ここまで大胆に色彩を展開されるのはよほどのセンスがないと無理です。
ちょうど、以前ここでも書いた、作家の杉山さんもいらっしゃって、お話したのだけど、彼も色彩感覚が冴えててうらやましい限り。
にしても、もっと染色の知識があれば楽しかったんやろうなぁと思った。21日まで。
森末由美子「無重力で右回り」@ギャラリーほそかわ
前回の京芸卒展での作品がよかったので期待して行ったのだけど、作品が商品のような展示のされ方でがっかり。もっと風景を作るような展示を期待してたのだけど。
もちろん作品は相変わらずおもしろいな、と思うのだけど、この展示ではアートフェアで見るのとかわりない。展示と言うか陳列。
前述のYODとは違ってギャラリー自体が商売のことしか考えてないんじゃないか?と思わざるを得ない。HPもずさんやし、作家がかわいそう。
椿昇「GOLD WHITE BLACK」@京都国立近代美術館
なんか、改めて気持ち悪い人やな、って思った。
ビジュアルの強い作品に対して、コンセプトが難解、というよりもはや独りよがりで、観客と共有する気がないんちゃうか?と思わざるをえない。
近美にしてはかなり力の入った展覧会だと言えるけれどそれだけ。
学生が手伝ってることを「学徒動員」とかいう言葉選びのセンスもどうかと思う。
斉藤博展@アートライフみつはし
最後にすばらしい展覧会のお話。
先日40年という教授人生に幕を閉じた我が恩師斉藤先生の個展。
40年ですよ、40年。まだこんなに生きたことねぇ。
もうご高齢にもかかわらず、精力的に作品作りを続けてらっしゃる。
今回の個展は、アトリエで発表するとか何も考えずに無心に展開してた作品のお披露目会。その制作期間はなんと4年!す、すごい・・・。
最初アトリエからでないかもしれないとおっしゃってたけど、無事出て展示も出来ててなによりでした。なんせ外に出すことも計算外だったんで、直接パネルを壁に釘で打ちつけてたりしてたもんで、出すのが大変だったそうな。
その作品がホントにすごかった。真剣に泣きそうになった。
そこにこめられたエネルギーってのがやはりこちらにも伝わってくるんですね。
作品作ってると、たまに作ることと発表することがごっちゃになって、いつの間にか発表するために作品つくってるような時があるんですよね。
でもそれってやっぱ本末転倒で、作りたい!っていう意識が先にこなけりゃ、作品に魂はこもらないもんです。その点で今回の斉藤さんの作品は魂がとめどなく篭っていて、すごい迫力。
小品も数点出てて、これまたすごい力を発している。
あー、追いつけねぇ。でも追いつきたい。
本当に尊敬できる先生です。15日までなので、機会がある方は是非!
今京都芸術センターでやってる「now here,nowhere」展。
'w'の位置を換えるだけで違う言葉になる言葉遊びなタイトル。
正直タイトルだけ見た時点では期待なんてとてもじゃないけどできなかった。
しかも「now here」っていうのはポストモダン以降にしきりに作家らの間で言われるようになった「いまここ」という考え。いつでもどこでも均質にしていったモダニズムに対する反発として、いわゆるサイトスペシフィックと言われる作品に見られるような、時間や空間に制限されるような制作方法。
正直もう聞き飽きたような考え。それが「いまここ」。
なんで今更?と思いつつ見に行ったら、実は「nowhere」の方が肝だったという。
まずギャラリー北に入ると前田明子さんの「顔のない女」シリーズと題された写真作品が入って左の壁から正面の壁に向かって並べられている。左の壁にはハイヒールを履いた女性の足元の写真。正面には後姿であったり、暗くて顔のわからない女性の写真が三点。
続いて右の壁には水木塁さんの「Ripe of color #Narcussus」という写真シリーズ。色鮮やかな写真なんだけど、それは何が写されてるのかわからない。説明を読むと、水仙を撮った写真プリントを、漂白剤につけ、色が印画紙を離れた瞬間を再び写真に収めているらしい。
そして、最後は馬場晋作さんのステンレスに油彩で細かく描かれた作品。実際何が描かれてるのかは具体的にわからないが、女性の下着のようにも見えてどこかエロティシズムを感じる。
続いて南に行くと、藤井俊治さんの色鮮やかな油彩の人物画。どうやらサーモグラフィで映った像を描いているようで、鮮やかな色彩と裏腹にどこか冷たい印象が漂う。
そして仲居真理さんのタイルに幾何学がプリントされた集合体の作品。実際幾何学の正体は、壁と床が織り成す角であって、日常生活の中のものでしかないのだけれど、これだけ集まって見せられると非現実のもののように見えるから不思議。
そして最後は刈谷昌江さんのペインティング。写真では何度か見たことがあったけれど、実際見たのは初めて。映画館や鳥、カーテン越しの木など、どこかシュールレアリズム的な絵画でとても不思議な雰囲気。
と、ここまで見てあることに気づく。
それは、これらの作品に共通するある種の違和感。
刈谷さんの作品にそれは顕著なんだけれど、どれも物語性をもっていそうに見えて、実はそれらの作品から伝えられる情報は限りなく少ないということ。
なんだか、いつまでたっても演目の始まらない劇場にずっと座ってるような。
それはかの有名なジョン・ケージの「4分33秒」のような、無言のセンセーション。
そして、これらの作品の放つ鮮やかな色彩が余計に胸をかき乱す。
どこまでも青い空を見上げた時の不安な感じというか。
そういう気味の悪さがこの展覧会に漂っていて、鑑賞終了後も長くこの胸のざわめきが収まらず今に至っている。こういう展覧会って中々珍しい。いい展覧会だと思う。
ただ、やはりタイトルで相当損をしているような気がする。3月22日まで。詳細。
森太三「Rain」@neutron
今までもギャラリーwks.や名古屋のアーツチャレンジ等で、何度か見させてもらってきた森さんの展覧会がneutronで行われるというので行ってきた。
いつも根気のいる作業を繰り返すことで作品にしていく森さんの作品。
以前は紙媒体を使ってらしたが、最近は紙粘土を使った作品が多い。
特に、床一面を手で捏ねた紙粘土で満たしたwks.の展示は忘れられない。
今回はアーツチャレンジのような、色とりどりの紙粘土を丸めたものを大量に使った作品を発表。
正直アーツチャレンジの時は規模が中途半端で満たされなかったのだけど、今回はギャラリー空間の8割ほどを覆い尽くす大量の粘土の粒。それらひとつひとつの色が大きなうねりを描いて、ものすごい迫力。また、カフェとギャラリーを隔てるガラス壁も有効で、それに映った像がまたこの作品を広げている。
森さんの作品への期待ど真ん中の展示で大満足でした。3月15日まで。
来月にはまたパンタロンでの展示が待ってるらしい。楽しみすぎる・・・。
パラモデル「パラモデリック・グラフィティ」@なにわ橋駅
昨年開通したばかりの京阪中ノ島線。
その駅のひとつ「なにわ橋」駅にアトリエB1というアート空間がオープンしました。
そこでのオープニングを飾るのがパラモデルの二人。
実際この電車自体まだ乗ったことないのだけど、ひとまずこのアート空間を堪能してきた。
おもちゃのプラレールを使って無限の空間を作り出すパラモデル。これまでも何度か彼らの作品見てきましたが、僕が見た中で最大級の広さの作品でした。
どこまでも有機的につながるプラレールの青い線路。
合間合間に動物のおもちゃや発泡スチロールでできた山などが現れ、それらが床、壁、天井と縦横無尽に広がるまさにパラモデルワールド炸裂。
いやー、とても気持ちよかった。
駅の中ってのも彼らの作品にマッチしすぎてて楽しかった。3月29日まで。

加賀城健「-Positive Taboo-」@YOD Gallery
最近こちらのオーナーさんとメールのやりとり等でお世話になってて、今回の展示がすごいものになった!とおっしゃってたので期待して行ってきました。
加賀城さんは染色の作家さんで、いわゆる「染色」というイメージを払拭するような、現代美術寄りの作品を手がけてこられた方だそう。何度か過去に見たことがあるはずなんだけど、記憶が曖昧で今回改めて記憶を更新させてもらいました。
展示室には脱色による作品と、染色による2タイプの作品が展示されていて、それらが折り重なるような動的な展示。ホワイトキューブの展示に見られるお行儀のよい静かな展示とは違って、上下に展示されてたり、非常に動的。さすがオーナーさんが太鼓判を押しただけある。
脱色の作品は、様々なプロセスが踏まれていて、ひび割れたようなパターンがかっこよかった。言われなければ版画と見紛ってたかもしれない。
染色のはデカルコマニーの要領で左右対称。といっても、染めの具合でまったくの対象になってないのが小憎い。
僕は個人的にこっちの染めの作品がお気に入り。
なんといっても色彩がすごい。
ここまで大胆に色彩を展開されるのはよほどのセンスがないと無理です。
ちょうど、以前ここでも書いた、作家の杉山さんもいらっしゃって、お話したのだけど、彼も色彩感覚が冴えててうらやましい限り。
にしても、もっと染色の知識があれば楽しかったんやろうなぁと思った。21日まで。
森末由美子「無重力で右回り」@ギャラリーほそかわ
前回の京芸卒展での作品がよかったので期待して行ったのだけど、作品が商品のような展示のされ方でがっかり。もっと風景を作るような展示を期待してたのだけど。
もちろん作品は相変わらずおもしろいな、と思うのだけど、この展示ではアートフェアで見るのとかわりない。展示と言うか陳列。
前述のYODとは違ってギャラリー自体が商売のことしか考えてないんじゃないか?と思わざるを得ない。HPもずさんやし、作家がかわいそう。
椿昇「GOLD WHITE BLACK」@京都国立近代美術館
なんか、改めて気持ち悪い人やな、って思った。
ビジュアルの強い作品に対して、コンセプトが難解、というよりもはや独りよがりで、観客と共有する気がないんちゃうか?と思わざるをえない。
近美にしてはかなり力の入った展覧会だと言えるけれどそれだけ。
学生が手伝ってることを「学徒動員」とかいう言葉選びのセンスもどうかと思う。
斉藤博展@アートライフみつはし
最後にすばらしい展覧会のお話。
先日40年という教授人生に幕を閉じた我が恩師斉藤先生の個展。
40年ですよ、40年。まだこんなに生きたことねぇ。
もうご高齢にもかかわらず、精力的に作品作りを続けてらっしゃる。
今回の個展は、アトリエで発表するとか何も考えずに無心に展開してた作品のお披露目会。その制作期間はなんと4年!す、すごい・・・。
最初アトリエからでないかもしれないとおっしゃってたけど、無事出て展示も出来ててなによりでした。なんせ外に出すことも計算外だったんで、直接パネルを壁に釘で打ちつけてたりしてたもんで、出すのが大変だったそうな。
その作品がホントにすごかった。真剣に泣きそうになった。
そこにこめられたエネルギーってのがやはりこちらにも伝わってくるんですね。
作品作ってると、たまに作ることと発表することがごっちゃになって、いつの間にか発表するために作品つくってるような時があるんですよね。
でもそれってやっぱ本末転倒で、作りたい!っていう意識が先にこなけりゃ、作品に魂はこもらないもんです。その点で今回の斉藤さんの作品は魂がとめどなく篭っていて、すごい迫力。
小品も数点出てて、これまたすごい力を発している。
あー、追いつけねぇ。でも追いつきたい。
本当に尊敬できる先生です。15日までなので、機会がある方は是非!

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