蔡國強展@広島市現代美術館

「芸術は爆発だ!」
とは、岡本太郎の言葉ですが、この言葉を字義通りやっちゃってるのがこの作家。
今年のラストを締めくくる広島現美の蔡國強展です。
今回ももちろん18切符ですが何か?
往復12時間。滞在時間2時間。狂ってますね。帰りはさすがに頭痛くなりました。
いやー、今年は広島今回も合わせて4回も行きました。当たり年でしたね。
やっぱ昨年暮れからチーフキュレーターになった神谷幸江さんの力でしょうか。
キュレーターが変われば美術館も変わる。如実に反映されてます。
今回の展覧会もこの神谷さんが担当されてます。
この展覧会は3年に1度世界の恒久平和に貢献したアーティストに贈られる「ヒロシマ賞」受賞記念に応える展覧会。今回で7回目になります。過去にも三宅一生やダニエル・リベスキンドなど、アートの分野外からも受賞者が出てます。
僕はこの賞が日本で最も価値のある賞のような気がします。
ヒロシマという未曾有の地から贈られるこの世界にも例がない賞は、その特殊な選考基準から、3年に1度というのもいいバランスやと思いますし。毎年毎年そんな世界平和に貢献するような表現者が出るわけないですもんね。
受賞者の顔ぶれも納得のいくものです。第4回のクシュトフ・ウディチコはその中でも最も適合する作家だと思います。受賞記念展に際して行われた、原爆ドームに被爆者をインタビューした映像(手の部分のみ)を投射して、原爆ドームを過去の証言者にしたてあげたあの作品は、今その映像を見ても泣きそうになります。
彼のすごいところは、在日の被爆者の方々にもちゃんと証言をとってるところ。広島は確かに人類史始まって以来の悲劇の場所ではありますが、実は加害者の側面も持ち合わせてるってことをちゃんと言ってのけてるんですよね、この作品。外から見たリベラルな視点が、当事者には決して出来ないような表現を生み出しています。
このヒロシマ賞の凄いところはそういう、ナイーブなところに踏み込む作家の意図もちゃんと反映させてしまうところ。ただただ「平和最高!」なんて言ってる表現者には決して受賞できない賞です。
今回の蔡國強もただただ平和を謳ってるわけではない人。
むしろ彼の作品には破壊的要素が大きく反映されていて、むしろ平和からほど遠い作家のようにも見えます。
しかし破壊行為を創造行為にしてしまう彼の業はやはりこの賞にふさわしいのでしょう。
今回もこの展覧会に際して、彼は昼間の原爆ドーム近くで「黒い花火」をあげました。
その不穏な影は、広島市民にとって決して心地よいものではなかったと思います。
それを受け入れるこの広島という土壌の懐の深さは驚異と言えましょう。
1994年に行われた彼の爆破イベント「地球にもブラックホールがある」は、彼の広島との関係を築く最初の、そして彼にとっても重要な作品の1つです。
ヘリウム入り風船で螺旋状に浮かんだ導火線に火をつけて爆発させる作品なんですが、その螺旋の最後には地面に開いた穴に吸い込まれて行くんです。これは原爆という大きな炎を地面に還すというプロジェクトで、これを機に彼は本格的に火薬を使った作品を手がけて行く様になります。
本展にもこの映像が流されていて、凄まじい音と光で圧巻です。
他にも彼の過去の爆発作品は、本当テロを思わせるような光景ばかり。
台湾で行われたやつなんて、導火線が館内にまで及んでてどうなってんでしょ。
思わず全部見てしまいました。
スペインのバレンシアで行われた「黒い花火」は、青い空に黒い墨汁がぼたぼたと落ちるようでとても美しかった。エディンバラでやった同作品は曇り空だったのであんまりでしたね。
こうしてこの人の作品の規模は半端ないです。
国家プロジェクトに携わることも多々あって、こないだの北京オリンピックの開会式の花火はこの人が手がけました。CG疑惑もありましたが、あのビッグフットは本当に上がったそうです。会場でもその映像が流されてて、この作家の凄さがわかる展示ですね。
にしても、この人、造形センスがよろしくない。
最初の展示室の鰐と壁画彫刻の作品はかなり萎えました。
なんだあの安っポイ作りは・・・。遊園地のと変わりないです。
ドイツグッゲンハイムで見た時もオオカミのちゃちさにげんなりでしたが。
あと、今回の目玉の45mの爆発絵画も、本当いや。
あのちゃちい山水画なんとかなんないのか。。。
その前には60tの水量を讃える池が設置されてて、金のかかり方は半端ない。
実際水に映った反射はとても美しかったけど内容がなー。
あと、いわきに打ち上げられた舟の作品はすごい。 砂に埋もれた朽ちた舟に花が咲いてて、最初造花かと思ったけどよくみたら本物。
これ毎日水あげてんのかしら。
メンテナンスが大変そうですが、単純にあのスペクタクルは気持ちいい。
今の中国アートブームの前から国際的な活躍をしていた孤高の作家。
昨年もNYグッゲンハイムで個展をして、同美術館最高動員数だったそうで、その人気はまだまだうなぎ上り状態。オークションでも数億の値がついたり、この中国ブームがさらに追い風のようです。
そんな彼の新作展がこんな大規模で見られるのは中々ない機会なので、是非見といて損はないと思います。1月12日まで広島市現代美術館にて。もちろん巡回なし。
おすすめは、NYのマンハッタンを背景に作家自ら写りこんで、爆発を起こしている写真シリーズ「きのこ雲の世紀」。ちゃんとワールドトレードセンターも写ってて、今思うとなんて暗示的な作品なんだろうと思えます。
あー、黒い花火も観に行けばよかったなー。
ちなみに今回のコレクション展もおもしろい。
タイトルがなんと言っても、
「他のお客様の迷惑となりますので、展示室ではお静かにご鑑賞ください」
現代美術における「騒がしさ」に焦点を当てた展示。
本当に音の騒がしい作品から、視覚的に騒がしいものまで様々な作品が紹介されてます。
東京現美にある田中敦子のベルを鳴らすやつなんかあったらもっと面白かったんだろうなぁ。
でも、何かのメタファーのように、要所要所で田中功起の映像が置かれてるのがとてもキュレーターのセンスを感じた。田中さんは今一番気になる作家なので、また今後語ることがあると思います。
タイトルがウィットに富んでるし、美術館のお約束事みたいなものを美術館自ら皮肉って行く態度はおもしろいですね。広島現美は前の「マネートーク」といい、コレクション展もしっかり面白いのが素晴らしいですね。
広島現美はスタンプカードでスタンプ7つたまると展覧会無料になるんやけど、前回でしっかりたまったので、今回の展示は無料で見れちゃいました。こういうの何気にうれしい。
同時期に開催予定だったChim↑Pomの展覧会の中止(詳細)なんかもありましたが、来年もまた色々楽しめる展覧会期待してます!遠いからそんな行きたくはないんだけど、なんて言っちゃいけません。
- 関連記事