大西伸明 「LOVERS LOVERS」@発電所美術館

ここでも何度か紹介している大西伸明氏の個展が、なんとあの発電所美術館で行われるというので、わざわざ富山は入善まで行ってきた!発電所美術館についてはコチラ。
大西さんは、樹脂で人工物から自然物、あらゆるものを模造し、着彩を施すことで、本物そっくり、というか本物そのままを作ってしまうアーティスト。
どんどんその作品の鋭さが増していて、展示があるたびにドキドキする。
展示室に入ると、まず飛び込んでくるのが木の作品。
天井近くまで高くそびえ立つ幹と、それを取り巻く様に床に並べられた枝。
木と木の切れ目なんて、年輪まで表現されてて、偽物と言われなければ気づかない。
他には、今回の「LOVERS LOVERS」を表すように、2対の作品が並べられていた石、鹿の角、スクラップになった車。
そのどれもがため息が出るくらい本物そっくり。
特に車はどうしたらこんなことになるんだ?ってくらいすごい精度。
しかし見れば見る程得体の知れない違和感が湧いてくる。
その違和感の出所はずばり、まったく同じ、ということだろう。
河原に無数に落ちてる石ころも、まったく同じものなんてひとつもない。
奈良公園の鹿たちの角も、まったく同じように生えるわけがない。
スクラップした車が同じ凹み方、錆び方をすることなんてありえないのだ。
今回の展示の要はこの違和感にあるのだろう。
偽物だからこそ複製可能だということ。
反じて、この世のものはなんと唯一無二なものが多いことか!
そんなことを思わせてくれる展示であった。
2階にはこの発電所に潜む部品の模造を展示してあった。
しかし、今回の展示は少々難がある気もする。
だったらなんで木が展示されていたのか。
この2対ということをメインに考えるなら、あの木は邪魔でしかない気がする。
展示の仕方も、例えば空間を真ん中で切って、シンメトリーな展示にするとかなんとかあったろうに。
それから、前の山本さん、内藤さんの展示を見ても、やはりこの空間を使い切れてない感が否めない。
これは彫刻家の宿命というべきか、彼らはオブジェを作る人々なのだ。
なので、空間を巻き込むまでに至らないケースが彫刻家によく見られる。
同じ彫刻家の名和さんの展示だって同じこと。
いくら作品を並べてみた所で、それはインスタレーションにはならない。
それに対して、画家はよく空間のことを考える。
もしかしたら、彫刻家は2Dを、画家は3Dを求めて作品を作っているのではないだろうか。
彫刻というのは360度どこから見ても整っていなくてはならない。
それは、まるで360度絵画のように。
一方画家は、画面の中に奥行きをもたせようと、遠近法なんかを用いたりする。
これは絵の中に空間を作る様な作業なのだ。
そうしてお互いがお互いのないものねだりをする不思議な関係を築いている。
そんな中絵画においては、ロスコの様な、実際の現実空間をも変化させるような画家が現れ、それがさらに発展してインスタレーションアートという形態にまで発展するに至る。
今現在インスタレーション作家として活動してる人々の多くが絵画出身なのだ。
クリスト然り、塩田千春然りである。以前この美術館で発表した山本基さんも絵画出身。
まれに、カプーアのような、彫刻家ながら、その空間を強引にも一変させる強い力のある作家もいるが、それは限りなく少ない。
もちろんだからといって、絵画が優れているなんてことを言う気はサラサラない。
ただ、この美術館の場合、あの空間をいかに使いこなせるかがかなりのキーとなってくるので、彫刻家には中々不利なのではないか、ということ。
内藤礼の言葉を借りるなら「土地のアニマ(魂)」が強過ぎるのである。
ほとんどの現在の美術館の展示室が、20世紀初頭にNYのMoMAが生み出したホワイトキューブという、白い壁に覆われたヒエラルキーのない、どこで展示しても同じ様に見せられる展示空間なのに対し、ここの空間は、元発電所という確固たる歴史を有しているのである。
それとうまくつき合わなければ、場所に飲み込まれてしまうのである。
ここはそれだけ恐ろしい美術館なのだ。
だから僕はこの美術館が日本において、最も刺激的な美術館だと思う。
ホワイトキューブなんて、もはやおもしろくもなんともない。
世界中同じ味を提供するファーストフード店と同じだ。
それより僕は、そこでしか出されない料理を提供してくれるレストランに足を運びたい。
最近では、青森県立美術館の土壁を用いた美術館など、ホワイトキューブからの脱却に挑んでる美術館も少なからず存在する。
今たくさんの美術館が建ち続けているが、この発電所美術館のような個性豊かな美術館がどんどん増えて、作家も空間と闘うぐらいの気持ちで臨んでいければ、もっともっとおもしろいものが生まれる予感がする。
最後にこの美術館のキュレーターのインタビューを見つけたので紹介。
http://apm.musabi.ac.jp/imsc/cp/menu/museum/hatsudensho/interview.html
大西伸明 「LOVERS LOVERS」@発電所美術館
2008.10.11(土)-12.14(日) 月曜休(祝日の場合は翌日火曜休館)
9:00-17:15(入館は16:45まで)
是非バスの出る奇数日を狙って行ってください。
タクシーだと片道2000円かかるのが、バスだと200円ですよ。時刻表。
ラッキーなことに行った日は文化の日で、入場料無料だった。やっほーい。
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