石内都「ひろしま Strings of Time」@広島市現代美術館

今年もあの日を迎えようとしている。
1945年8月6日8時15分。
全てを無にしたあの日から今年で63年が経つ。
先日の新日曜美術館を見て、いても立ってもいられず僕は広島に向かった。
観に行こうか迷っていた展覧会だったけれど、やはり観に行ってよかった。
石内都「ひろしま Strings of Time」。
石内さんの作品を初めて見たのは3年前のヴェネチアでだった。
当時のヴェネチア・ビエンナーレにおける日本館代表。
祝祭ムードのビエンナーレの中で、明らかに異質なムードを漂わせていた。
大理石の床が美しい日本館と、母親の遺品を撮り続けた「Mother's」というシリーズはあまりにも美しすぎたし、なんだか少し不気味でもあった。
その翌年には東京都写真美術館でも同シリーズの展覧会が開催された。
その時に出版社から、広島に関する写真集の話をもちかけられたそうな。
彼女自身広島は1度も訪れたことのない場所だったし、そんな自分が果たして広島を写し出せるのか相当不安だったと語っている。
原爆資料館を一通り見ていくうちに、実際当時の人が身につけていたものに注目した。
そして、ライトボックスを背景に資料として保管されている被爆した服を撮ることになった。
焼けただれ、原型を留めていないものもあれば、60年以上経った今でも鮮やかな色彩を讃え続けているものまで様々。
実際の写真から伝わってくるのは、原爆の悲惨さというよりは、服から滲み出る庶民の着飾るということの悦びだとか、作った人の愛情だとかいった、すごくポジティブな感情。
特に昔は手作りのものが多いので、ものを大切にしていた時代が伺える。
一点一点が言わばオートクチュールなわけである。
ファッションをやってる学生とかが見ても中々学ぶことが多いんじゃないだろうか。
もっと「着る」ということの原点がここにあるような気がする。
そして、その分それらの営みを一瞬で奪い去ったあの出来事の卑劣さが浮き上がる。
それらの服にまつわるエピソードはとても辛いものだ。
服だけが見つかって体は見つからなかったなど。
しかし、手作りだからこそ、ほとんどの持ち物は誰のものだかわかっているみたい。
もし今同じことが起こって、自分の衣服だけが残されたとして、それを自分のものだと誰か証言してくれるのだろうか。ほとんどのものがアノニマスな存在として資料として残されるだけなのだろうか。あまりに寂しいが、それが今の大量生産の時代を象徴しているのかもしれない。
作品自体はとても静かなものだけれど、とても雄弁に色々なことを語ってくれた。
写真というのは良くも悪くもどこで見せてもフラットに見せられるメディアである。
しかし今回の場合、やはり広島で見るということがかなり大きかったように思える。
これまで人々の傷などを通して、個人の記憶を表現してきた石内さんが今回、広島という人類史上最も悲惨な傷に挑んだことはとても大きかったのではないだろうか。
すべての作品を撮り終えた時に流した涙はとても印象的だった。
今回館内ではコレクション展も含め、すべて原爆に関するもの。
その1つが原爆ドームをテーマにした「Dome」という展覧会。
水戸で見た宮島達男や、こないだ大山崎で見た小沢剛など、中々見応えのある展覧会。
中でも土田ヒロミの原爆ドームを何年か定点観測した作品が気になった。
初めて原爆ドームを見た時に感じた違和感。
それは、変わりゆく街並に対して、60年以上変わらず佇むドームの姿。
そこだけまさに時が止まっている様なそんな違和感を忠実に表現していた。
また、企画展では、昨年のヴェネチア・ビエンナーレ日本代表に選ばれた岡部昌生の作品が印象的。
広島の街の地面を、紙と鉛筆でひたすらプロッタージュした作品。
その前のビエンナーレ日本館代表の石内都と、同じ広島を題材にして今回同じ場所で展示されているのが奇妙な偶然というか。
あとはイヴ・クラインの人体測定はやはり際立って美しかった。
新日曜美術館で、石内さんが、実際に当時被爆した生存者の方とのインタビューがあった。
島から船で学校に通っていたその方は、あの日、中々来ない船を待っていると、本島の方から大きなキノコ雲が上がるのを目撃したらしい。一瞬一瞬で、様々な色に変わる空を見て、止めどない恐怖心が溢れ、しばらく空を見上げるのが恐かったそうな。
インタビューの中で彼女は「申し訳ない」と言うのがとても印象的だった。
同級生が皆死んだ中で、自分だけが生き残ったのが申し訳ないというのだ。
こんなことを思いながら生きている人がいるなんてショックだった。
近い将来、あの戦争を体験した人の数が0になる日が来る。
僕らはあの戦争を忘れることすらできない。体験していないのだから忘れようがない。
過ちを過ちだと教えてくれる人がいなくなった時、僕らは過ちを繰り返さずにいられるのだろうか。
でも人間は語り継ぐことができる生き物だと思う。
今回の石内さんのように、現在を生きる人々が様々な形でバトンをつなぐことで、世界平和という途方もない夢が実現する日がもしかしたら来るのかも知れない。
原爆記念公園内にある石碑にある言葉。
「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
石内都「ひろしま Strings of Time」
2008年6月29日~8月10日
広島市現代美術館
石内都「ひろしま/ヨコスカ」
2008年11月15日~2009年1月11日
目黒区美術館
また、現在国立国際美術館(大阪)での塩田千春展と共にコレクション展として石内さんの作品も展示中。
傷や皺など、身体の記憶を生々しく写した作品たち。
どうせなら広島の展示終戦記念日までの15日までやったらいいのにと思いつつ。
にしても広島現美今年いいのやりすぎ。今年だけでもう3回も行ってしまっている・・・。スタンプカード貯まったので次回は無料!12月に蔡國強展行ってきます。
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