Cecil Balmond+伊東豊雄@NHK大阪ホール

ご無沙汰しております。
無事、2つの搬入を終え帰って参りました。
本当は塩田さんの展覧会を先に書く予定でしたが、昨日聞いた講演会があまりに素晴らしかったため、感動冷めやらぬうちにこちらからアップすることにしました。
セシル・バルモンドと伊東豊雄。
この2人の講演会があると聞いたのは約一ヶ月前。
こんなにアツいな組み合わせが実現するなんて!
しかも大阪での講演もあり!!
逃すわけにはいかない。
ってことで申し込んで、抽選も見事当選!!
なんでも300人の人が抽選で漏れてしまったらしい。本当にラッキー。
実際NHKホールは満員で、この2人の注目度が伺えます。
さて、この2人。
伊東さんはこのブログで散々取り上げてるので言うまでもなく。
セシルは構造エンジニア。実際建物を建てる時の構造計算をする人。
世界屈指の構造家集団オーヴ・アラップの副会長も務めます。
アラップに頼んで建たない建築はないとまで言われ、シドニーのオペラハウスも彼らの仕事。
そんな構造家たちの中でもセシルがずば抜けているのは、構造計算だけでは終わらず、構造を通して建築の新しい領域にアグレッシブかつクリエイティブに邁進するところ。 実際セシルと組んで、新たな境地に達する建築家もたくさんいます。
伊東さんはその代表格と言って良いでしょう。
初めてセシルと伊東さんのコラボが実現したのが2002年のサーペンタインパビリオン。
正方形を回転させてできたフォルムと柱のない不思議な空間は、僕を建築に目覚めさせた最初の作品。
伊東さんは最初柱のない構造というのと、何かしらランダムなパターンで構造にするという提案をしたのに対し、セシルが言ったのは、
「ランダムというのは人の経験でしか生み出せない。
それは既視感を伴い決して新しいものなど生まれない。
むしろ、ある一定のルールに基づいて生成されたものの方が圧倒的に新しい」
そこからセシルは10枚ほどに及ぶスケッチを提案し、その中から伊東さんが選んだのがその正方形を回転させるというもの。
普通の構造家は建築家に対してここまで新しい意見を出せるものじゃありません。
そして結果的にセシルの提案がこの建築の核となるのですから。
最初のセシルの講演では、このサーペンタインパビリオンに始まり、アルバロ・シザ、ダニエル・リベスキンドといった大物とのコラボ作品を紹介。またアラップ自身が設計したポルトガルの橋や、バタシーパワーステーション開発などのプロジェクトなども紹介。そのどれもが、セシルの構造美を示す名作。
セシルはスリランカ生まれの人なので、英語もインド訛りで聞きやすくて、通訳なしでも聞けた。構造家の話なので数学的な単語が連発したら無理やなーと思ってたら、すごくわかりやすい言葉で話してくれてるのがわかってなんて素晴らしい人なんだと。
以前ロンドンで、同じく世界屈指の構造家佐々木睦朗さんの講演を聞かせていただいた際、彼は日本語にも関わらず、話してる内容があまりに難しくてついていけないところもあったのだけど。
にしても、ホントにどんな頭をしてるんだろう。
建築とか抜きにして、全く新しい哲学や思想を聞いてるような気がしてきた。
過去を踏襲しつつも未来へまっすぐ進むそのエネルギーが全身に伝わってきた。
続いて伊東さんの講演。
実作に関してまず最初に下諏訪の博物館からという意外なスタート。
下諏訪の作品を見てると確かに今の伊東建築とは全く違う。
続くスライドがサーペンタインだったので歴然と差に現れる。
そして、台湾の大学図書館や、アメリカのバークレ-美術館など、新作を多数紹介してくださったのはとても嬉しかった。
台湾の図書館は、木をイメージしたもので、これもある一定のルールに基づいたもの。
バークレーも模型は見ていたのだけど、ムービーや、伊東さんから放たれる言葉と一緒に体験したら全く違ったものに見えた。
そしてなんといってもやはり台湾のオペラハウスは圧巻。
こちらはセシルとのコラボで、第一設計はすでに終了して、この秋にも着工の見込みとか。
これができたら建築界は揺れに揺れると思う。楽しみすぎる!
また、今はまだ発表できないけど、伊東さん初の超高層建築の計画もあるらしい!
いやー、楽しみだ。
最後は2人の対談。テーマは「自然」。
東京ではまた違ったテーマでお話したとのこと。そっちも聞いてみたかった!
まず、伊東さんは木が生長していく過程をスライドで映し、この枝が二股に分かれるのを繰り返すという単純なルールの中に、実はたくさんの複雑な問題が秘められていると。
これまでの建築は完成形が既にあって、それを実現させるために構造を組んでいた。
しかし、それではあまりに均質化した空間だけが世界中に広がっていくのみ。
これからの建築はもっと周りの環境と呼応し、変化していくものを作っていくべき。
それはまるで、木が太陽の光を、風の向きを、隣の木との関係を通して枝を伸ばす方向を変えていくように。
伊東さんが再三仰ってる言葉があって、それは
「渦のような建築を作りたい」
ということ。
水の中に棒をたてて水を様々な速度で流す。
すると、棒で砕けた水が渦となり水流の変化によって様々な形を成す。
今までの建築はその棒であって、周りが変化しても変わらないもの。
しかし伊東さんが目指すのは周りの変化によって変化する建築。
そんなものが果たして存在しうるのかどうかは別にして、それは建築だけに留まらずものづくり全体に当てはまる理想なのかもしれない。
アートや建築というのは、100%人工物です。
これまで人類の文明において、決して相容れない自然と人工という問題に対して、闘ってきたクリエイターは数知れません。
伊東さんやセシルは、今の時点において、その先端を担ってる人かもしれない。
セシルも「自然は外から見ていると変わらないように見える。しかしそれは約7割程であって、残りの3割は周囲の環境によって変化し続けている。建築もその3割を追い求めなければならない」といったようなことを仰ってました。
2人の対話を聞いていると、本当に響き合ってる2人なんだな、と改めて思う。
お互いの話の間、常に相手の言動に対してうなずき合ってる姿がとても印象的でした。 建築家と構造家の枠を超えて、未来を作っていく2人はとても輝いてました。
最後、対話が熱しすぎて質疑応答の時間がなくなってしまったけれど、ステージまで質問にくる学生などに熱心に耳を傾けている2人の姿がとても感動的。
皆写真を撮ったりサインを頼んだり、握手をせがんだりしてたけど、僕には到底できそうにない。
いつかもっと彼らに追いつくことができたら。
そう思わせてくれる感動的な講演会でした。
早速セシルの著書「インフォーマル」注文しました。楽しみ。
新作「Element」も欲しいが金がねぇ。いつか是非。
また、来年か再来年にセシル・バルモンドの展覧会が日本に来るらしい!絶対行くど。
ところでこのアイカ現代建築セミナーというのはすごい。
今回で57回目を迎え、もう20年以上続いているセミナーシリーズ。
過去には故・丹下健三やジャック・ヘルツォーグ。
中でもびっくりなのが2001年のピーター・ズントー!!
行きたかった・・・。これからも注目ですね。
先日古本屋で、「伊東豊雄観察記」の著者である瀧口範子さんの「行動主義-レム・コールハースドキュメント」を古本屋で見つけて購入しました。
レムは建築界の中でも異質な存在で、何がその異質たらしめているのかが知りたくて、この本はその入門になりうると思って気になってました。
実際読んでみると、レムの凄さがピリピリ伝わってくるようでかなりおもしろかった!
そもそも彼のデビューは建築の実作ではなく、「錯乱のニューヨーク」という1冊の本。
この本も以前おもしろく読んだんだけど、レム本人というよりはニューヨークという街の成り立ちを語る語り部といった感じなので、結局レムってどんな人物なんだとますます謎は深まったのを覚えてます。
現在はオランダのロッテルダムに拠点を構えるレムですが、以前はニューヨークに棲んでいて、ウォーホールのファクトリーにも出入りしていたというのが本に載っていてびっくり。
今の建築家だけではなく様々な人々を巻き込んでいく彼のスタイルはもしかしたらウォーホールから学んだのかな、とも思わせます。なんだか意外。
世界中を飛び回るレムを必死に追いかける滝口さんの姿もおもしろい1冊。
レム入門にもってこいの本です。
セシルと伊東さんもレムに関するインタビューという形で載っています。
次は是非実作を見てみたい。2006年のサーペンタイン・パビリオンは見たけどよくわからなかったし。セシルとのコラボの北京のCCTVは見たいな。H&deMのスタジアムと合わせて。
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