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川俣正「通路」@東京都現代美術館


注目の川俣正「通路」展に行ってきました。
ここのところMOTは話題の展覧会づくしですね。
さて、そもそも今回の注目の1つが、川俣さんがどう美術館という「アートフル」な場を使ってくるのか、ということ。彼はこれまで「アートレス」な場としての、公共空間を使ったインスタレーションを展開してきました。アートが社会の一部であるという彼の一貫したマニフェストです。
「アートフル」な場で行った展示としては、かつて水戸芸術館で行われた「デイリーニュース」という展覧会において、膨大な量の新聞を館内に積んでいったこともありましたが、今回は美術館を「通路」に見立てるという試みが行われました。
美術館というのは美術作品があるだけで、単なる通路にすぎないという川俣さんのシニカルな視線が読み取れます。
まず入り口からさっそく川俣さんの素材であるパネルなどが登場。
野外にもたくさん置かれていて、雨とか大丈夫なんやろか。
館内に入っても延々とパネルの壁が続く。上の写真のように普通は見せない土嚢などもどんどん見せちゃう。
会場に入っても延々と続く。
会場が木の独特のにおいと湿度で満たされている。
今回の展覧会は彼の30年の活動を振り返る回顧展的な要素もあって、それらの写真なども展示されていた。けれど、それらがまたパネルの裏にあったりして、美術館の裏側をのぞいているような感じがする。パネルが作品なのか、写真が作品なのかわからなくなる。
他にも作業中の場所なんかも普通に公開されている。
川俣さんのコンセプトのひとつ「work in progress」である。
作品に完成なんてものはなく、常に作業中だということ。
よく川俣さんはクリストと比べられる。同じ公共の場所を使って大掛かりなインスタレーションをするから。しかし大きな違いは、クリストの作品にはちゃんと「完成」があるということ。川俣さんの作品はいつまでも続いていけるのである。
普通展覧会というのは、展覧会が始まってしまえば、作品は変わることがない。
しかしこの展覧会は変わる。中には観客参加型のスペースも少なくない。
彼の哲学がぎゅっと凝縮されたような展示。
ちょっとわくわくしたのが、普段は入れない美術館の裏側まで「通路」が続く。
そして、カフェまで登場し、普通にビールなんかも飲めちゃう。
最初から最後までとにかく不思議な展覧会だった。
ここでふと、そういや川俣さんの生の仕事を見るのは初めてやな、と気づく。
今までマケットのようなものは見たことがあるけど、こういったインスタレーションは見たことがなかった。日本で発表される機会が少ないってのもあるけれど。
今回実際見て思ったのが、川俣さんの作品に日本人としてのコードが読み取れないということ。たとえ日本人的な、たとえば漫画とか日本画とか、そういった要素が含まれていない作家の作品でも、日本人やな、って部分が必ずどこかに存在する。しかし川俣さんの場合、それが見受けられないのである。この人はどういう背景で生まれてきた人なんやろ、と不思議だった。
この展覧会は、「よかった?」と聞かれてもよくわからない展覧会です。でも観に行く価値はあり。4月13日まで。
また、銀座のコバヤシ画廊でも、ドローイングやマケットの回顧展が先週土曜までやってました。
MOTの展示を見た後だったので、頭が飽和状態で、ふーんって感じでしたが、やっぱ川俣さんのマケットはかっこいい。普通の建築のマケットとは違ってます。

同館で同時開催されているMOTアニュアル2008
毎年若手の作家に注目し、MOT独特の視点から紹介する企画です。
今年は「解きほぐすとき」と題し、制作過程において「解体」の要素を含む作家が5人選ばれました。
入ってまず飛び込んでくる鮮やかな赤い平面作品たちは、彦坂敏明の作品。
写真をもとにして、どんどん像を解体していくという手法で描かれているらしい。
「描かれている」といっても、版の手法で制作されていて、その上から鉛筆や水彩などで施されているので、版画とも絵画とも判別つきにくい。
描かれている像うんぬんというよりは、その色がびっくりするぐらい綺麗。
赤といっても、朱色のような赤から、紅色のような赤まで、さまざまな赤が入り乱れている。
そして、次の部屋では一変して黒。これもまたはっとするぐらい美しい。
「綺麗なだけな作品」というのは、うすっぺらになりがちだけれど、彼の作品の場合、その綺麗さだけで十分コンセプトとか飛び越えているような感じがして気持ちよかった。
同い年でこの表現は中々考えさせられる・・・。
続いて、高橋万里子の写真作品。
女の子の人形や、色鮮やかな映像、初老の女性(作家の母親)など、最初ちょっとフェミニズムっぽいな、と思ったんやけど、どの図像もはっきりしていないのがミソ。被写体があるのかないのかわからない不思議な写真だった。
金氏徹平の作品は、何度か画像では見たことがあるんやけど、「苦手やな」と思っていた。児玉画廊系の作家はちょっと苦手。
今回は初めて本物を見て、その苦手意識はふっとんだ。
まあ、めっちゃ好きってわけでもなかったけれど、それでも何かひっかかるものがあった。
彫刻もドローイングも「何が伝えたいんやろう?」って感覚が不快ではなく爽快やったのが印象的。
全体のトーンが茶色っていうのも、あまり他では見られない色味でした。
そして、今回のMOTアニュアルの特徴として、一人一人に与えられたスペースが広い!
ホント5人の個展と言った感じで、一人一人の世界にどっぷり浸かれるのが気持ちよかった。
今回の一番のお目当てが手塚愛子さんの展示。
初めて彼女の作品を見たのはアートコートギャラリーで毎年行われている、若手発掘プログラム「アートコートフロンティア」の第1回展。この展覧会は名和さんや澤田知子など、今や世界をもまたにかける作家が出品しているとても刺激的なショーだった。
そんな中で、彼女の作品は、とても力強かったのを今でも憶えている。
織物から、例えば縦糸だけを抜き出したり、赤い糸だけを抜き出したりする作品。
今回もそれらの作品が、これでもかとばかりに展示されていて気持ちよかった。
なんといっても、それがまた美しいのである。
最大の見所は幅11mにも及ぶ大作。
今回は、抜き取るのではなく、実際企業と協力して、織物自体を作って、その制作段階の状態で、端から色とりどりの糸が出ていて、その糸たちによって吊るされていた。
今まで既製の織物を使っていたのが、その織物自体を作るようになったのはおもしろいけど、今後どうそれが発展していくのかが気になる所。
また、油画出身ということもあり、本人も最近油画制作を始めている。
正直こちらは魅力的というのは難しいかも・・・。
ちょうど、第一生命ビルの南ギャラリーでも個展がやってて、こちらでも油彩が発表されていましたが、どうなっていくのでしょうか。
ちなみに第一生命は、平面の登竜門と言われるVOCA展の協賛で、ビル内に、今までの出品者の作品が展示されていてとても素敵でした。
あと1人立花文穂に関してはよくわからないので省略。
こちらも4月13日まで。川俣正とセットで是非!!

「わたしいまめまいしたわ 現代美術にみる自己と他者」@東京国立近代美術館
同じ美術館の展覧会としてもうひとつご紹介。もう終わっちゃいましたが。
この不思議なタイトルの展覧会は、「自己と他者」の問題に注目して、様々な作品を集めたもの。
出品作家がやたら豪華で、草間弥生、ゲオルグ・バザリッツ、ビル・ヴィオラ、宮島達男、河原温、澤田知子、高嶺格、フランシス・ベーコン、舟越桂、などなど。
この出品者リストに魅かれ観に行ったわけですが、キュレーションが・・・。
昔京都近代美術館で行われていた「痕跡」展同様、そもそもテーマが広すぎます。
「自己と他者」なんて、言ってしまえばすべての作品に当てはまりますからね。
もっと趣旨を絞り込まなければ散漫な展覧会になることは当然です。
この展覧会がまさにそれでした。
作品は豪華なのに、どうも集中できない。
どこかのコレクション展を見ているのとあまり変わりない感じでげんなりでした。
そもそも新作がないっていうのが痛い。
やはりちゃんと企画展をやろうと思えば、新作を出させないと駄目ですよね。
まあ、入場料420円ってのはよかったけど、それだけでしたね。
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