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書院の美@金刀比羅宮


こんぴらさんで知られる金刀比羅宮に行って参りました!
目的はもちろん初詣、ではなく話題の展覧会「書院の美」でございます。
お寺として相当有名ですが、実は美の殿堂としてもとても名高い場所なのです。
今回普段は非公開の奥書院まで公開されるということで話題沸騰です。
「こんぴらさんに行くねん」と祖母に報告すると「それは大変やな。がんばりや」と励まされ、何のことかと思いきや、御本宮まで辿り着くのに785段もの階段が待っていたのです。いやー知らなんだ。しかも奥社まで行こうと思えば1368段も登るんだとか。。。大丈夫やろか。
そんな危惧もしつつも登り始めてみれば、会場は500段目にあるということが発覚し一安心。
あと285段で本宮やったけど、しんどいということでやめ。初詣ならず!
ってか初詣なんて365日毎日参ってる人こそ意味があるんであって、そんな正月だけ行ってちゃっかり願い事するなんて虫がよすぎますよ皆さん。それに初詣っていうのは願い事しちゃいけないんです。今年もよろしくお願いしますという挨拶に留めるもんなんです。これを意外にご存じない方が多い。僕は無宗教なので初詣なんてしません。生まれてこの方初詣なんて友達が行くからってんでついでに行ったくらい。あと合格祈願ぐらい。ってちゃっかり願ってんじゃねーか。
とまあ、話は本題「書院の美」に関して。

まずは高橋由一館
この展覧会に関係なく1度は訪れたかったのがこの館。
日本における油絵のパイオニア的存在。
今回見ていて、油絵を日本文化にしみ込ませようとした由一の苦心がうかがえ、なんだかじわっと感動しました。描かれてるモチーフも日本のものが多く、ふすま絵を油絵で描くなど様々な工夫が盛り込まれてました。油絵の道具がまだまだなかった時代にこの金刀比羅宮がサポートしたのです。そういったわけで、この金刀比羅宮には由一の作品のおよそ半分くらいが収められています。油絵をやってる方なら1度は訪れていただきたい場所です。有名な鮭の絵が見れなかったのは残念。

続いて表書院へ。
こちらには日本画界の巨匠円山応挙の作品が盛りだくさん。
通常はガラス張りにしか見れない空間が実際の畳に上がって鑑賞できるまたとない機会。
まずは「虎の間」。当時虎を実際に見たことがなかった応挙は、虎の毛皮と猫を観察して描いたといわれています。おかげで虎が勇ましいというより愛らしい猫っぽい。
山水の間では、描かれた滝からそのまま現実の庭の池につながっているという設定。そしてその池からまたふすま絵に回帰するという、現実と虚構が織り交ぜになった空間演出。日本では江戸時代にすでにシュールレアリズムが完成されていたのですね。
そして表書院最後を飾るのが邨田丹陵による「富士の間」。こちらは2部屋によって構成されており、まず「富士一の間」では富士山が薄い水墨画のように描かれていてとても美しい。裾野が180度部屋を取り囲んでいる。そして次の部屋「富士ニの間」では合戦の模様が描かれているんやけど、なんと、これはその裾野で起こっている実際の合戦の様子を描いているのだとか。時代も比較的新しいためか、色がとても綺麗。エメラルドグリーンのような色だとか、馬の描き方だとか。

そして普段非公開の奥書院
今回のメインでもある伊藤若冲による「花丸図」が公開されています。
これは200以上の花々がまるで図鑑のように部屋中に描かれているもの。
しかも中には枯れているものまであって、日本の美をうかがえます。
できれば、襖も閉めて中で堪能したかった。
今回一番感動したのが岸岱による「郡蝶図」。400種類以上の蝶が群れをなして飛んでいる様はとても美しい。
今回失われていた若冲の5羽の燕の絵も公開されてました。

さらに奥に進むと白書院
現在こちらでは田窪恭治さんが壁画制作に取り組んでいます。
田窪さんが選ばれたモチーフは椿。完成まであと3年ほどかかるそうですが、その頃にはこの書院に椿が満開に咲き乱れます。とちゅうで絵のタッチがかわってるのが気になったのですがあれはどうする予定なのでしょう。。。
また、神椿というカフェもオープンしていて、こちらの壁も田窪さんプロデュース。青で描かれた荒々しい群椿を有田焼で表現してこれも美しいです。ここでコーヒー飲んでたら普通に田窪さん現れてびっくりでした笑

今月末までの公開なのでまだの方は是非。詳細はこちら。
ちなみに以降三重県立美術館(4月26日~6月8日)、パリのフランス国立ギメ東洋美術館(10月15日~12月8日)へ巡回予定。本物に限りなく近い空間を再現して巡回されるとのことですが、やはり是非本物の空間で味わってほしいです。

さて、なんでこのお寺こんなにすごいものを持っているんでしょうか。
これは西洋でヴァチカンがサン・ピエトロ大聖堂にミケランジェロやラファエロに絵を描かせたのと同じように、日本でもお寺が画家に作品のコミッションをすることが珍しくなかったのです。そもそも美術館が日本に登場したのはせいぜい20世紀になってからのことですから、その役割をお寺が担っていたという事実もあります。
そしてこんぴらさんは江戸になってから建てられたものだったので、自由に色んなことをやれたのですね。当時のモダン画家応挙や若冲に頼んだのもこういう背景があってのこと。以降も由一をサポートしたり田窪さんに書院を頼んだり、とても柔軟な考えを持つお寺なのです。
今美術業界はマーケット熱で大盛り上がりです。作家はそれでお金が儲けられるという良い面もあるでしょうが、逆に表現に自由がきかなくなるという危険性もあります。どうしても顧客に合わせて制作してしまう作家も現れるでしょう。いわゆる「ウレ線」というやつです。しかしアートの魅力はやはり自由であることだと信じてやみません。20世紀になるまで、画家は個人のパトロンに支えられ、また縛られてきました。今有名なレンブラントやフェルメールだって、決して自由にやってきたわけではありません。顧客がいて、顧客の望むものを描き続けてきたのです。20世紀に入って、ようやくアーティストは本当の自由を獲得できたのです。しかし今、チャールズ・サーチやピノーのような大型コレクターが現れ、作家はまたパトロンとの関係を結ばなければ生きていけない時代に突入したかのようです。
個人パトロンというのはもちろん全部とは言いませんが、自分の力の象徴としてアートを買う場合もあります。税金対策なんてのもあるでしょう。こうしてアートが消費されていくのはアート好きにとって悲しくて仕方ありません。
「一緒にアートを作り上げていくんだ」という志をもったコレクターや、まさにこの寺のように文化作りに共に立ち向かっていけるパトロンが現れてくることを願ってやみません。
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