TURNER PRIZE:A RETROSPECTIVE @ TATE BRITAIN

ようやくロンドンの話題にカムバックです。
今月はロンドンアート秋の陣本番ってことで大型展覧会が目白押しです。
その中でも注目は昨日からテートブリテンで始まったターナー賞回顧展。
ってことで早速行ってきました。
最初この展覧会の話を聞いた時、どうせ作品ではなくアーカイブ的な展示なんでしょ、と思ってた。
しかし行ってみると、そんな予想は軽く裏切られた。もちろん良い意味で。
ブリット・アートのベストアルバム。まさにそんな感じ。
84年に始まった英国現代美術に捧げるターナー賞。その受賞作品が惜しみもなく展示されていたのです!
それは美術館に入って奥の廊下からすでに始まっていた。
床に白いペンキで描かれたペインティング。89年ターナー賞受賞者リチャード・ロングの作品。
その奥にはタイヤを積み上げた彫刻。88年受賞者のトニー・クラッグの作品。
そして一番奥には2005年の受賞者サイモン・スターリングによる木の小屋!
当時この作品は文章を読まないと作品の真の意味が理解できないと、バッシングも多々あったらしい。というのもこの小屋。ドイツのライン川河畔にあった小屋を解体してボートにし、それで実際川を下り下流でまた小屋に組み立てた、というもの。この小屋を見ただけではただの小屋にしか見えない。しかしこれで川を下ったという背景を知ると、また見方も変わってくる。授賞式の壇で、この作品をresearch based artという言い方をされたことも有名な話。
このようにターナー賞は発表される度に物議を醸し出すとても刺激的な賞。
そんな作品達が廊下の時点で既に展示されている。展示会場はどうなっとんじゃ。。。期待を膨らませながらチケット売り場へ。チェルシーのテート会員カードを見せたがすでに期限が切れてて入れず、仕方なく6ポンドを払う。ちぇっ。
会場に入ると、リチャード・ディーコン(87年)の彫刻、ハワード・ホジキン(85年)、マルコム・モーリー(84年)のペインティングがお出迎え。奥にはギルバート&ジョージ(86年)の大型写真もある。
これらの作品達は、まだターナー賞が今程刺激的ではなかった頃のもの。
始まった当初のターナー賞は、大御所ばかりで固めた凡庸なアート賞のひとつに過ぎなかった。
展覧会自体も正面ホールのみを使ったささやかなものだった。
しかし当時のスポンサーだった米系企業が89年に倒産。90年は一時中止となる。
そして91年。チャンネル4をスポンサーに迎えたターナー賞は生まれ変わる。
賞金は2万ポンドと倍増し、テートの6つのギャラリーを使って展示。選考基準も「過去12ヶ月イギリスの美術に最大の貢献を果たした50歳以下の作家」と明確に打ち出した。そして授賞式はテレビ中継され、著名人によって受賞者が読み上げられる(2001年はマドンナが読み上げた)など、地味だったターナー賞が一気にきらびやかな賞となり、イギリス現代美術の賞としてふさわしいものとなった。
そして生まれ変わったターナー賞、受賞者第一号がアニッシュ・カプーア!
今回の展示ではディープブルーのお椀型彫刻が壁にスピーカーのように設置されている。
左右正面3つの彫刻に囲まれた時、不思議な体験が起きる。
凹んでるはずのその彫刻が、フラットに見えてしまうのだ。
これは金沢の恒久展示作品にも言えることで、本当に不思議。
そして声を出すと反響によって不思議な聞こえ方をする。不思議だー。
生まれ変わったターナー賞第一弾としてこれほどふさわしい作家は他にいない!
そしてこの年のノミネート作家で当時若干25歳だったホワイトリードはその2年後、93年にターナー賞を受賞する。
彼女の作品ほど様々なバッシングにあった作品も未だかつてないだろう。
その作品とは家を丸ごとコンクリートで型どりした'House'という作品。
当時これがアートなのか?という論争が一般レベルで起こり、彼女に最悪アート賞を進呈するという集団まで現れ、ターナー賞授賞式当日のテートブリテンは大混乱だった。そんな中の受賞。しかもまだ27歳で。かっこよすぎます。
残念ながらこの家の彫刻は既に取り壊され写真でしか見られませんが、人々の記憶に伝説として残っているのです。
そしてこのホワイトリードと並ぶほどのバッシングを受けたのが95年のデミアン・ハースト。
今回びっくりしたのが、なんとそのバッシングの大本の作品'Mother and Child, Divided(引き裂かれた母子)'が出品されてたこと!!まさかこれが生で見られるなんて・・・。
ヴェニス・ビエンナーレにも出品され話題の元となったこの作品。
タイトル通り、牛の母子がそれぞれ縦真っ二つに切り裂かれてホルマリンにされてるのだ。
グロテスクっちゃグロテスクなんだけど、ホルマリンの水色と牛のコントラストが単純に美しい作品。
切断された牛の間を通るのは本当にすごい体験笑 内蔵が大変な事になってます。
あー、これを見れただけでも来た甲斐があったわ。
こんな風にターナー賞はバッシングの嵐に見舞われることもしばしば。
99年のトレーシー・エミンのベッドを展示した作品も物議を醸しました。
彼女の作品はプライベートとパブリックの際どいラインをつく作品で有名。
今年のヴェニス・ビエンナーレの代表もつとめ上げました。
残念ながら彼女は賞を逃しましたが、これもターナー賞の伝説のひとつ。
個人的にこの年のスティーブ・マックインの受賞はちょっと納得がいかない。
展覧会に戻って、94年のゴームリーの作品。ギャグすれすれやん笑
次の展示室に入ると映像が2作続きで。
まずは96年の受賞者ダグラス・ゴードンによる映画のシリーズ。
ヒッチコックの「サイコ」を24時間に引き延ばした「24時間サイコ」が有名だが、今回はドラキュラの映画を白黒反転してスローにした作品。この人の展示は、単純に映像として見せるのでなく、スクリーンを斜めに立てかけたりすることで彫刻的なアプローチも見えて展示の点でもおもしろい。この年初めて映像による受賞となった。
またジリアン・ウェアリング(97年)の'60 minute silence'は、警官の格好をした20人以上の人々が記念撮影のように、タイトル通り60分動かず黙っていることを強いられているという見てるだけで苦しい作品。彼女の作品は人々の内面をえぐり出すのが得意。「今思ってる事を書いて」と町中の人に訪ねて、その紙と一緒に撮影された作品はあまりにも有名。こんな人がこんなこと思っているんだと、外見と内面の差にはっとさせられる。また彼女の声を入れ替える作品が車のCMにパクられるなどの事件もあった。この年はノミネート者すべてが女性という異例の年でもあった。
次の部屋では98年の受賞者クリス・オフィリのペインティングと、2000年の受賞者ウォルフガング・ティルマンスの写真インスタレーション。オフィリのペインティングは作品に毎回現れる像の糞が特徴。アフロ・カリブ系の作家の黒人としてのスピリットが感じられる絵画たちは、キラキラしていてとても美しい。去年の春までテートブリテンにあった彼の作品を展示していたアッパールームは極上の極み。2003年のヴェニスビエンナーレにおいてイギリス館代表もつとめ上げた。またティルマンスの作品も素朴な風景の中にある美を淡々と写し出した写真でとてもロマンチック。この年は日本人の高橋知子もノミネートされ、国際色が強い年でもあった。(ティルマンスはドイツ人)。
21世紀に入ると、だんだんコンセプチュアルな色が濃くなってくるこのターナー賞。
その幕開けがなんといっても2001年の受賞者マーチン・クリード。
彼はただ展示室の電気をつけたり消したりしただけでこの賞を勝ち取ったのだ。
今回実際見てみると、もっと淡白なものかと思ったら、意外と点灯と消灯の感覚も早いし、電気が一生懸命点こうとする様がなんか愛らしかった。当時彼は賞を捨てたとまで言われたが、受賞した今となってはその勇気に賞賛の声が絶えない。
その後も02年の科学的にアートを分析する作家キース・タイソンや04年のドキュメンタリー作家ジェレミー・デラーなど美術の幅の拡大が如実に反映されている。
03年はグレイソン・ペリーのキッチュな壷が賞を取り、昨年06年はトーマ・アブツによる小さなペインティング。
複雑性を帯びてきたターナー賞。今後はどんなセンセーションを起こしてくれるのか。
今年のターナー賞展はテートリバプールでの展示。一体誰が取るんだろう。
今回の展示を見ながら、なんか僕の英国アート史も総括されてるような気になってしまった。
帰る直前のこのまとめ的な展示。これから英国離れする僕に餞のよう。
さよなら、そしてありがとう、英国アート。
ちなみにこの展覧会は来年森美術館に巡回予定らしい。多分デミアンのホルマリンの作品が来日するのは初なんじゃないかな?英国アートを総括するこの展覧会。是非その時には皆観に行きましょう!
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