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地点「騒音。見ているのに見えない。見えなくても見ている!」 @ KAAT



昨年末の「ノー・ライト」に続きKAATでのイェリネク作品です。
今回は完全新作。
「光のない|ノー・ライト」「スポーツ劇」に続き舞台美術に木津潤平、音楽に三輪眞弘、衣装にコレット・ウシャール。
地点としてはイェリネク作品は「汝、気にすることなかれ」を含めると4作目。
それぞれ時事ネタを扱うイェリネクですが、本作はなんと新型コロナを扱っています。
2021年夏にハンブルクで初演とのことですが、イェリネクという人は速度のある人なんだな、と感心します。
2020年から始まったこのパンデミックをその一年半後には戯曲として完成してしまってるんだから凄いとしか言いようがない。
東日本大震災及び原発事故を扱った「光のない」にしても翌年の2012年にはもう完成していたし。
まあ、普段アートという「遅い」メディアにいるので、テキストの世界はそりゃそれと比べたら格段に「速い」のかもしれませんね。
そして今回もホメロス『オデュッセイア』や、ハイデガーの『存在と時間』が引用され、例の如く難解至極なテキスト。。。
そんな作品を如何に地点が料理するのか。

まず木津さんの舞台美術ですが、円形の舞台がバランスボールによって支えられてて、演者が乗ると揺れる舞台装置。
揺れに合わせて円形舞台の周りの豆電球も明滅します。
さらに、ビニールの幕が周りを覆っていて、これまた飛沫防止シートのよう。
三輪さんによる舞台の揺れに併せて流れる呼吸音もとても不穏。
最初バランスボールの空気が抜けてる音かと思ったけど違った。
そして今回はガムランによる生演奏とビデオ投影による録音演奏が合わさります。

それにしても今回ほど緩慢な舞台は初めてでした。
これは別に貶してるわけではなく、やはりイェリネクの戯曲が全て反映された結果だと思います。
終始テンションも一定だし、クライマックスもない。
そして何と言っても演者達の役名もない、ただの「声」を演じてるのが凄い。
「私たち」とか指示代名詞は使っているものの、その「私たち」とは誰のことなのかわからない。
もはや演じるとは何か、という根源的な問いにも触れています。
これどうやって終わるんだろう?と後半は不安にすらなりました。
ガムランの安定したリズムも合わさって、隣の人完全に寝てた笑
舞台の周りで演者が「コロナキタ」と謎の踊りを踊ってるんだけど、これは踊念仏を意識してるのかな?と思ったり。
踊念仏も疫病や災害を鎮めるべく始まったという説もあるし、のちの盆踊りの起源とも言われていて、今回オリジナルは西洋なので明らかに神を意識してるけど、この地点の舞台は仏を意識しているようで面白かった。
あと、マスクやワクチンの陰謀論めいた台詞もあったり、中々ヒヤヒヤさせられる内容でした。
終演後の三浦さんのお話でも、やはりピークを作るのが大変だった、というか無理だったという話をされてて、イェリネクの一筋縄では行かない感じに手こずりながらも、それに果敢に挑んじゃう地点が凄い。
そもそもパンデミックは終息気味とはいえ、2023年の現時点でも渦中。
3年経っても結局コロナって何なの?という疑問は据え置き状態。
将来再演があったらまた違った見方ができるのかな、と思いました。

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「やっぱり悲劇だった」by 三浦基
地点「だれか、来る」@ アンダースロー
地点「グッド・バイ」@吉祥寺シアター
地点「正面に気をつけろ」@ アンダースロー
地点「汝、気にすることなかれ」@アンダースロー
地点「ロミオとジュリエット」@ 早稲田大学大隈講堂
地点「みちゆき」 @愛知県芸術劇場
地点「スポーツ劇」@ロームシアター京都
地点「光のない。」
地点「悪霊」@ KAAT
地点「CHITENの近未来語」@アンダースロー
地点「かもめ」@ Cafe Montage
地点「コリオレイナス」@京都府立府民ホールアルティ
地点「――ところでアルトーさん、」@京都芸術センター

ちなみにKAATのアトリウムでは山内祥太さんの映像が流れてました。
森美術館でも展示されてたり最近よく名前見かけます。明日13日まで。こちらこちら
IMG_1479.jpg


2月、3月は映画三昧。毎週観ないと追いつかない。。。
というわけで今年入って観た映画たち。

「とべない風船」
「シャドウプレイ」
「夢の裏側」
「エゴイスト」
「別れる決心」
「逆転のトライアングル」
「日の丸 寺山修司40年目の挑発」
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」
「Winny」
「ひとりぼっちじゃない」

ロウ・イエ監督の「シャドウプレイ」は2020年の公開のはずだったんだけど延びに延びてようやく公開。
延期の理由はコロナだの中国当局からの圧力だの色々あったんだろうけど無事公開されて一安心。
プレミアの時は一部削除されてだけど、公開されたのはそこもちゃんと収められたバージョン。
てっきりロウ・イエ監督のことなので、お国の危険な部分に触れっちゃったのかと思いきや、カットを指示されたのはエディソン・チャンの出演部分。
以前のハ○撮りスキャンダルを当局はひきづってる模様。
それにしても、めちゃくちゃ予算のかかった映画だった。
ここは逆にセーフなの!?と思える部分もあって、そこはロウ・イエ監督っぽかったけど、個人的にはもう少し静謐な映画を期待してたので、こういうダイナミックな映画はやや食傷気味。
主演のジン・ポーランもイケメンだけど、あまりにそつなく描かれ過ぎてるのもあって感情移入もそこまでできず。
ただ、中国のこの30年ほどの発展の裏で置き去りにされてきたものを描かれていて、そこはさすが。
また、ロウ・イエの奥様のマー・インリーが監督した「シャドウプレイ」の裏側を撮ったドキュメンタリー「夢の裏側」も公開されてて、こっちは検閲やらを乗り越えて製作される過程が描かれていて生々しさが面白かった。
ここまで大変な思いで作る監督は凄いとしか言いようがない。
「タルコフスキー日記」を読んでも、ソ連当局からの嫌がらせの愚痴が大半を占めてるけれど、あれだけの傑作を生み出したように、中国でも圧力に耐えながらも傑作が生み出されている。
そんな監督にこれだけの予算が出るのも不思議なんだけど、今後も頑張ってほしいです。

カンヌ勢からは監督賞のパク・チャヌク監督「別れる決心」と2作連続パルムドールのリューベン・オストルンド監督「逆転のトライアングル」。
「別れる決心」は138分あるんだけど、ここまで長い必要ある?って感じだった。
警察と容疑者が恋に落ちるってベタと言えばベタな設定でユーモアも交えつつここまで魅せるのは流石だけど、最初の夫の殺人を免れたのもわからないし、最後もあんな詩的な終わり方しなくても。。。と思っちゃった。
逆に「逆転のトライアングル」は、148分もあるんだけど、もっと観たい!と思った。
テンポがとにかく良くて、展開も全く読めないし、皮肉も効きまくってて最後まであっという間。
最後の最後にもうひと展開あったのに敢えて切っちゃうのも凄い。
個人的に前回の「ザ・スクエア」より良かった。
どうでもいいけど、前回がスクエアで今回はトライアングル。次回はサークルかな?

米アカデミー賞最有力候補の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。
前作の「スイス・アーミー・マン」もぶっ飛ん出たけど、今回はさらにぶっ飛びまくり。
こんな作品がアカデミー賞最有力だなんて凄い。。。
要約すると「納税うぜーー」ってことでいいのかしら笑
そこからあそこまで世界観が膨らんじゃうのは凄いけど、ちょっとついていけない部分も多々あり。
確定申告の時期なので、イラついてる人は見てもいいかもw
個人的にはgleeに出てたハリー・シャム・Jrが出てて嬉しかった。
主人公の父役のジェームズ・ホンさん94歳って凄すぎる。。。
米アカデミー賞の発表は明日!どうなることやら。

邦画だと、やっぱり「エゴイスト」。
もう、引きづりまくった映画だった。
他人のためにっていうのは最大のエゴかもしれない。
逆に最後の阿川佐和子が放った一言は、純粋に自分のわがままで、それはエゴじゃないんだよな。
宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶う頃」を思い出した。
それにしても阿川佐和子がすご過ぎた。
鈴木亮平もすっかりゲイになり切ってくれたし、宮沢氷魚くんが可愛過ぎて悶えた。
2人のベッドシーンはちょっと一家言ありました。
末廣亭近くを鈴木亮平が歩いてるシーンがあって、いつの間に撮影してたんだろうと思った。
「ひとりぼっちじゃない」は井口君出てるから観てみた。
あんま覚えてないけどなんとなく昔観た「贅沢な骨」っぽい空気感だなぁと思ってたらプロデューサーが行定さんだった。
この映画もまた店の近くで撮影してた。。。会いたかった。。。
井口君を主演にしながら音楽がほとんど出ないところは好感が持てたけど、終始雰囲気で誤魔化してる感があって映画としては低評価。
何故か東出昌大が出てる2作、「とべない風船」と「Winny」。
前者は三浦透子目当て、後者はテーマが気になって。
両作品とも一生大根役者だと思ってた東出くんが何故か演技上手くなっててびびった。。
特にWinnyは開発者の金子さんを見事に演じきってた。
それにしても吹越満凄すぎる。
Winnyは実際利用してないけど、この事件はその後の日本のソフト開発に大きな影響を及ぼしたのは間違い無いですね。
金子さんの技術はその後ブロックチェーン等に応用されてて今も生きてます。
あんなことさえなければ、と悔しい気持ちしかないです。


以上!
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