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劇団チョコレートケーキ「ガマ」/「追憶のアリラン」@ シアターイースト/ウエスト



またまた劇チョコがやってくれました。
なんと過去作5本、新作1本を半月かけて(8/17-9/4)上演するというクレイジー過ぎる企画!
そもそも6本も同時にやるなんて人間業とは思えないし、このコロナ禍で一本やり通すのも至難の業なのに。。。
そして実際最後まで走り切った劇チョコは凄い。一生ついていきます!!
芸劇のシアターイーストとウエスト両会場ジャックしてました。かっこよすぎ。。。

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この6本上演、「生き残った子孫たちへ 戦争六篇」という恐ろしいタイトルが付いてます笑
『追憶のアリラン』、『無畏』、『帰還不能点』、『〇六〇〇猶二人生存ス』、『その頬、熱線に焼かれ』の再演、そして新作の『ガマ』の六篇です。
そのうち『無畏』と『帰還不能点』は実際観たことあったし、『〇六〇〇猶二人生存ス』と『その頬、熱線に焼かれ』ワークショップで集まった若者でやる短編上演なので、観たことのなかった『追憶のアリラン』と『ガマ』を観ました。
(今思えば若者公演も観とけば良かったとは思います)

まずは何と言っても新作の「ガマ」です。
今年は本土復帰50年という節目の年でもあり、沖縄戦がテーマになるのはしっくりきました。
というか今まで劇チョコが沖縄を扱ってなかったのが意外と思えたぐらいでした。
前記事のマームも同じく沖縄戦を描いてますが、全く違うアプローチで興味深かったです。

冒頭完全な暗闇から始まります。
米兵の「デテキナサーイ」という声と火炎砲の音、そして叫び声。
ものすごい怖い始まり方でした。。。
この暗闇に関しては作家の古川健さんがどうしても表現したかったと公演後のトークで仰ってました。
その後このガマに迷い込んできた学校の先生(西尾友樹)、ひめゆり女学生(清水緑)、負傷した将校(岡本篤)、二等兵と三等兵(青木柳葉魚、浅井伸治)、案内役の地元民(大和田獏)が集います。
終始このガマの中で物語が繰り広げられるのですが、ここで最も考えさせられるのが「日本人とは何か?」という問いだと思いました。
特にひめゆり女学生は、悲しいほどに「日本の臣民」であることを強調します。
この沖縄県民の「日本人コンプレックス」があの沖縄戦の根底にあったことにこの公演を観て気づかされました。
歴史を紐解くと、明治政府による琉球処分により、完全に日本のものとなった琉球王国は、その後徹底的な日本教育を施され、天皇への崇拝を始め、標準語を話すように強いられ、学校によっては方言を話した子供には罰さえ与えられたと聞いています。
「我々は日本人なんだ。その為には一層天皇への忠誠を誓わねばならない。」
そういう教育を骨の髄まで仕込まれたのが学徒たちでした。
子供達まで戦地に駆り出され、たくさんの犠牲を強いられました。
沖縄戦で19万人もの地元民が亡くなったとの報告もあります。
その忠誠心を利用したのが当時の日本国家です。
いわばトカゲの尻尾切りのように、沖縄民を本土と切り離し、彼らを犠牲にすることを厭わず地上戦に持っていった。
そのことがこの演目ではありありと描かれていました。
僕の母方の曽祖母、曽祖父は沖縄の人で、いわゆる「ソテツ地獄」と呼ばれた経済恐慌により島を出て戦前に本土に出稼ぎに来た沖縄人です。
彼らは奇しくも沖縄戦は免れましたが、もしかしたら大阪で差別にあったかもしれません。
そのことを彼らは全く口にしたことはありませんが、祖母ははっきりと言わないまでも、戦後アメリカと化した沖縄の血を引くものとして多少嫌な思いをしたようなことを仄めかします。
彼女は実際沖縄に行きたがりません。
うちの母ぐらいになると、逆に当時手に入らなかったようなお菓子が沖縄から送られてきて嬉しかったというし、僕なんかはむしろ沖縄にいいイメージしかないのですが、世代によってかなり見方が違うのが沖縄という場所です。
そのことをこの舞台を通して垣間見た気がして、途中涙が止まらなくなってしまいました。
この演目は特に「生き残った子孫」としての自分を逆照射された感覚が強くありました。
最後はやや綺麗過ぎる終わり方な気がしたけど、少しでも救いがあってよかった。
ちなみに「慰霊の日」として知られる6月23日は、沖縄戦が終了した日ではなくて牛島中将が降伏するな死ぬまで戦えと沖縄に呪いをかけて自分はとっとと自決した日です。
沖縄戦が終結したのは1945年9月7日と、実際の終戦記念日よりも長く続いていることを知ってほしい。


もう1つ「追憶のアリラン」は、以前最初の緊急事態宣言の自粛生活の時に、無料で過去の作品をYouTubeに流してくれて、その中の1つだったので映像では観たことあったのだけど、実際の観劇は初。
やっぱり目の前で観られるのは全然違う。
これまた途中涙が止まらなかった。。。
ただ、ちょっと綺麗に描かれ過ぎかなぁというきらいはどうしてもあります。
日本の朝鮮への加害を描く本作だけど、出てくる日本人がいい人過ぎてびっくりする。
まあ、実際こういう人たちはいたかもしれないけれど。。。
実在の人物としては、戦地にはいないけど柳宗悦は重要だと思います。
ちょうど今民藝館で「柳宗悦と朝鮮の工芸」(-11/23)という展示が開催中だったり(素晴らしかった!)、14日からは在日韓国大使館で「柳宗悦の心と眼」という展示があったりと、柳と朝鮮の関係を垣間見られます。
実際彼は日韓併合以降の日本の植民地政策を断固として批判した思想家で、1920年に既に「朝鮮の友に贈る書」という文書を寄せています。こちら
とはいえ、こうした「良い日本人」が多く登場することで、後半の裁判の説得力が弱まってる気がします。
ちなみにこの公演は劇チョコからは浅井さんしか出ておらず、他は客演なんですが、取調官のリヒョサム役の林明寛さんがとてもよかった。
なのでその彼の怒りが空回りしてる感じが見ていてとても辛かったのです。


と、2作でしたが、改めて劇チョコは凄いと思えました。
一人も欠けることなく半月やり切った関係者の皆様に盛大な拍手をおくりたいです。
特に劇チョコの三人の俳優は過去作2本、新作1本それぞれ出ていて、一体どうなってるんだ。。。
実際西尾さんが終演後の舞台挨拶で「半狂乱だった」と仰ってましたが笑
6本同時に演出する日澤さんも相当大変だったとは思います。。。お疲れ様でした。
ちなみに来年の新作は「1990年、バブル景気に沸く日本、特撮ヒーローものを製作する会社の企画室」が舞台ってどういうこと!?
とりあえず劇チョコには信頼しかないのでこれも観ます。
脚本の古川さん、演出の日澤さん、そして素晴らしい演者の皆様と三位一体の素晴らしい集団。最高です。
劇場で観られなかった人は『追憶のアリラン』、『無畏』、『帰還不能点』、『ガマ』の長編4篇が9月17日から有料配信が始まるみたいなので是非チェックを!!こちら



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