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MUM&GYPSY「cocoon」@ 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

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2020年に開催される予定だったマームとジプシーの「cocoon」。
コロナにより2年の延期を余儀なくされ、ようやく開幕したと思ったらまた関係者のコロナ感染により芸劇での9公演は2公演やったのみで中止。
僕は4公演目を予約していたので観られず泣きました。。。
そしてまた関東に帰って来た埼玉公演でリベンジ。
祈るように当日を迎え、なんとか観劇が叶いました!

「cocoon」は今日マチ子さん原作のひめゆりの女学生たちを主人公にした漫画で、2013年、2015年とマームとジプシーが舞台化し、マームの中でも代表作との呼び名の高い作品です。
僕は2017年からマームを観始めたので未見で、ずっと観たいと思っていました。
当初再再演が決まった時はめちゃくちゃ嬉しかったのですが、前述のコロナで引き伸ばしまくられた末の観劇。
奇しくも今年は沖縄本土復帰50年、マームも15周年という節目の年での公演となりました。

さて、そんな期待の中開演。
正直同じく沖縄を舞台にした「Light house」は僕の中でイマイチだったので、今回期待が大きい分どうかな、、、という心配もありましたがどうやら杞憂でした。
さすが最高傑作と言われてる作品だけあって、最初から最後まで凄かった。

まず冒頭、お馴染み青柳いずみの「席は用意されてある、そのまえとそのあとはあのとき隔てられた」という言葉から始まります。
「その」は戦争、と捉えることもできるし、今の状況を考えればコロナと捉えることも可能。
また、劇中シェイクスピアの「弱き者、汝の名は女!」という言葉も成田亜佑美の口から発せられます。
これらのセリフは原作にはない、藤田さんの舞台人ならではの言葉だと思います。
後者のセリフに関しては、原作を戦争の話だけに留めない、ジェンダー問題に広げようという意思も伝わります。
これは原作にもある「男の人はみんな白い影法師」というセリフや、重要人物であるマユが、実は徴兵されることを免れるために女の子として育てられた少年の実話を元にしていると今日さんも書いてたり、男性から描かれない戦争を垣間見た気がします。
こうして、これは「あの」沖縄戦だけではなく、現代のロシア・ウクライナやジェンダーの問題へと、ユニバーサルに広げようという意思が読み取れます。
ただ、個人的に、沖縄戦には沖縄戦の独自の物語があると思うので、徒に普遍的な問題へとスライドするのはどうかとも思います。
反対に、この戦争の固有性を描いているのが劇団チョコレートケーキで、同じく沖縄戦を描いた新作「ガマ」に関して後日アップするのですが、その違いも観られて面白かったです。

さて、中身ですが、冒頭は戦況が悪化する前の女学生たちの日常が描かれます。
今の学生と変わらない、女の子たちの何気ない会話がほのぼのと続くんだけど、そのほのぼのさとは裏腹に、舞台上では忙しなく演者たちが舞台装置を動かしたり楽器を演奏したりとめちゃくちゃ動的になってたので、そのコントラストに思わず引き込まれました。
最後まで見てみてもあそこまで舞台が動いてたのはこの場面しかなかった。
そしてこのほのぼのさは、ひめゆりの資料館に展示されてる少女たちのプロフィールと重なりました。
ひめゆり資料館には、一人一人、例えばどんな食べ物が好きだったとか、どういう性格だったとかが細かく描かれてるんです。
僕が以前訪れた時にこのコーナーでボロボロ泣いてしまったのを思い出します。
ただの「戦死者」と一括りにせず、一人のこの世にしっかり生を受けた人間として尊重されていて、彼女たちの死がリアルに伝わってくる凄まじいコーナーでした。
それをこの最初の部分で丁寧に描いています。
おしゃれなタマキ、絵が上手いヒナ、喧嘩ばかりしてる3月生まれの双子、、、
短いかもしれないけれどしっかり生きた証が刻まれます。

1945年の3月になり、いよいよ戦況は悪化の一途を辿ります。
彼女たちも看護隊として、負傷兵の看護に当たります。
その前に青柳さん演じるサンが石鹸の匂いが好きというシーンがあるんですが、そのシーンがあることで、ガマの中での血や死体の臭いが強調されるのが凄い。
負傷兵たちが叫び散らして一気に場面は暗転します。
また、兵士たちによる女学生へのレイプや、慰安婦の存在も仄めかされ、女性視点ならではの戦争の真実が浮き彫りになります。

その後大本営からの突然の学徒解散司令により、ガマを出て行かざるを得なくなる場面へ。
これは実質学生たちを見離した非人道的とも言える司令で、これにより女学生たちの死者は日に日に増えていくことになります。
あんなに仲が良かったみんなが目の前で死んでいくのは本当に壮絶。
ここで冒頭のホノボノ場面のリフレインが入ることで、感情が花火のように暴発していきます。
これはマームでしかやれない表現だなぁと感心しました。
死んでいく様子も、白い布をかけられることで表現されていました。
特に成田さん演じるエッちゃんの最後が壮絶だった。
「もう頑張れない」「……だめな子で……」「おかあさんごめんなさい」というセリフはもう耳を塞ぎたくなるぐらい辛いセリフだった。
初演、再演と、エッちゃんの役は別の人だったらしいけど、成田さんのあの涙声が今でも強烈に耳に残っています。

漫画では最後エピローグとして戦争後のことが描かれているけど舞台ではそれは描かれませんでした。
舞台後に漫画を買ってみて、このエピローグは僕としては結構衝撃で、これは女性にしか描けないかも、と思いました笑
僕も藤田さんも男なので、やっぱりあのエピローグにできなかったのかなぁと勝手に想像。
でもまあ、実際漫画読んでると、今日さんのタッチとマームのタッチが見事に合ってるなぁと思いました。
どちらも戦争とか重いテーマを扱うには軽い気がするんですが、そんな彼らがそういったテーマに挑むことで炙り出される残酷さのようなものがとても似ているなぁと。すごいマッチングだと改めて思いました。
まだ北海道公演2公演あるので走り切ってほしいです!こちら

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