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「うたうひと」by 濱口竜介・酒井耕



濱口監督、米アカデミー賞国際長編映画賞受賞おめでとうございます!!
作品賞はもちろん他にノミネートされていた監督賞や脚色賞も獲って欲しかったけど。。。
それにしても今や飛ぶ鳥を落とす勢いの濱口監督。
日本アカデミー賞はどうでもいいんだけど、各国の賞を総なめにしていて本当にすごい。
そんな中「言葉と乗り物」と題して濱口竜介特集上映が全国巡回中。こちら
東京だと今も「偶然と想像」がロングラン上映中のル・シネマにて開催中。
僕も2018年の濱口竜介特集の時に見逃した「うたうひと」をようやく観ることができました!

「うたうひと」は「なみのおと」「なみのこえ」と並んで東北三部作と言われています。
震災の年に濱口さんと酒井さんが津波被害を受けた三陸沿岸部に赴き撮った作品。
「なみのおと」と「なみのこえ」は被災者の方々の対話を撮ったもの。
その際に「被災者」と一言では片付けられない問題に直面したと濱口さんは語ります。

『なみのおと』『なみのこえ』撮影において、震災後、カメラの前で被災体験を語ってくれる人を探すことはそもそも、簡単ではなかった。2011年5月に東京を発って仙台入りした当初、僕が「被災者」だと思っていた仙台市に暮らす人たちから聞いたのは以下のような言葉だった。「市街の被害はたいしたことない。一ヶ月くらいライフラインが止まったりはしたけど、沿岸部の人たちのことを思えば全然たいしたことない」。
彼らは話を聞くなら沿岸部の人たちに、と言った。そして沿岸部で、浸水を受けた人の話を聞けば「家を流された人を思えば、うちは随分マシだ」と言う。果たして家を流された人のに話を聞けば「うちは皆無事だからね。親しい人や家族を亡くした人のことを思えば、落ち込んでられない」と言う。そして親しい人を亡くした人は「海に呑まれたあの人はどれだけ苦しかったろう」と言った。誰しもが「(想像上の)自分より強く被災した他者」への配慮があった。当初は聴きながら、段々波に呑まれた人たちの死がまさに「被災の中心」として提示されるに至って、聞くべき対象が消失してしまったような印象を受けた。この「より苦しい思いをしたであろう」他者を想像することが、人の口をつぐませているように思えた。

(「カメラの前で演じること」より)

「被災者」と言う言葉では到底収まりきれないレイヤーがあります。
この当事者問題は当時各所で勃発していたことを僕も思い出します。
そこで彼らは「被災者」としてではなく、一個人として撮影に応じてもらうことにして、対話という形で撮影に臨みました。
その時濱口さんと酒井さんの間で使われるようになった言葉が「いい声」でした。
この「いい声」の発生源は何だろうと自問して出た答えは、対話者間の「聞く」「聞かれる」の関係にあるということでした。
そこから導かれるように撮った作品が「うたうひと」なのです。

「うたうひと」は他の東北三部作とは趣が違います。
そもそもこの映画は東北で撮ったということには変わりないものの、直接的に震災を扱っていません。
この映画の主題は民話語りです。
しかも主人公は民話を語るおじいちゃんやおばあちゃんではなくそれを聞く小野和子さんという一人の女性。
彼女は岐阜の高山から仙台に移り住み、山間部や沿岸部の村々に伝わる口承の民話に魅せられて、埋もれている民話を探して訪ね歩き、今では「みやぎ民話の会」の顧問。
子供の頃に聞かされた些細な話に価値を見出して聞きに来る小野さんを最初は訝しがってた人々もやがて彼女を受け入れ、忘れかけていた記憶を呼び覚まして、人によっては100も200も語るようになりました。

映画の中で出てくるのは伊藤正子さん、佐々木健さん、佐藤玲子さん。
この三方が小野さんの前で民話を語るわけですが、その際の小野さんの「聞き方」が独特。
普通こういう話聞く時って静かに聞き入るようにして聞くと思うんですが、小野さんは常に相槌を打ったり大いに笑ったり補足したりするんです。
そして「あの話聞きたい」と、まるで子供のように彼らに乞います。
そのリクエストに応じるように語りが始まります。
そしてこの語りも凄い。
小野さんが見出した中上健次のテキストがあります。

語りとは個人ではなく、背後に一種共同体のような、いや、人と人が集まった複声のようなものが、語る<私>を差し出しているのである。語りとは単声ではない。
(中上健次「短編小説の力」より)

語るということは、沢山の人の思いを背負った物語を、背中に背負っているんだと。自分で話して、自分の声で、自分の言葉だと思い込んで語っているけれども、実はそうではなくて、沢山の人の声が自分がして、そして、そういう風に出している自分をそこに差し出していることなんだ、と中上健次が書いてるんですよ。びっくりしました。
(小野和子講演「民話のおもしろさ、つよさ、ふかさ」より)

確かに彼ら自身の声で語っているのですが、民話を語る時、その直前まで話していた声とは明らかに違うんです。
特に当時86歳の佐藤玲子さんは凄い。
彼女が語る話の中に、物語好きな殿様が出てきますが、まさにその話が話の「聞き方」をテーマにしていて、語りとは語る側だけでなく聞く側との相互の関係で成立することが示されます。
また、話の内容が奇想天外だったり時には残酷だったりするわけですが、それらを子供達に聞かせることが一つの教育でもあったことがわかります。
民話の中には明らかにそれまでの学びが入っているのです。
特に東北地方のような自然の厳しい地域にはそう言う伝承が多いのかもしれません。
佐々木健さんは岩手の遠野出身と言っていましたが、遠野と言えば柳田國男がそれこそ民間伝承を集めた「遠野物語」。
そして僕が「聞く」「聞かれる」で思い出すのが水木しげるとのんのんばあの関係。
のんのんばあこと景山ふささんは水木家にお手伝いに来ていた老婆でしたが、彼女が幼い水木しげるに聞かせていたのが妖怪物語でした。
その水木しげるは「遠野物語」も漫画化しています。
村上春樹も言っていますが、「いい物語」は人の骨格を作ります。
「いい物語」の力が弱くなると「わるい物語」が蔓るわけで、その一つの結果がオウム真理教に至ったと村上春樹は考えています。
「1Q84」の中でも物語の生成が一つの肝になっていますが、改めて「うたうひと」を観ながら、物語がいかに人を育てるかを目の当たりにした気がしました。

これらの経験により、濱口監督の演出の中では語ることより聞くことの方に重点を置くようになりました。
俳優同士がいかに相手の言葉を聞き取るか。
それが今回の「ドライブ・マイ・カー」の結果に繋がったのは言うまでもないと思います。
今後もご活躍楽しみにしています!!

ところで、「ドライブ・マイ・カー」の三浦透子が素晴らしすぎたので、彼女観たさに普段は絶対観に行くことのない類の舞台を観に行きました。
東野圭吾原作の「手紙」をミュージカル化したもので、映画は観たけどあんな暗い話をミュージカルに?と思いつつ行ったんだけど案の定無理すぎて前半で出てきちゃった。。。
そもそも客の9割9分9厘女性。。。主演の村田良大とSPI狙いかな?
三浦透子はさすがでした。歌うますぎてびっくり。
今の朝ドラにも出てるみたいだしどんどん活躍して欲しいですね。


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