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「MEMORIA メモリア」by アピチャッポン・ウィーラセタクン



アピチャッポンの新作がいよいよ日本公開。
彼の長編映画は全て観てるけど、正直「トロピカル・マラディ」以外は個人的にハマってない。。。けどやっぱりあの世界観は唯一無二。
で、その「トロピカル・マラディ」をカンヌの審査員賞に激推ししたのが当時審査員に名を連ねていて、今回主演も務めたティルダ・スウィントン。
映画観終わって知ったんだけど、彼女還暦超えてるんですね。。。40代くらいだと思ってた。。。魔女過ぎる。。。
そんな魔女、もとい、ティルダを迎えて、初めてタイから離れてコロンビアで撮影した本作。
出演陣もプロの俳優のみでタイ人は皆無。製作陣はほぼいつもの布陣。
大体こういうアート系映画で本国以外で撮影してプロの俳優雇ってってなるとこれまでの世界観が崩壊してしまうケースが多々あるんだけど、結果としてアピチャッポンはアピチャッポンのまま過ぎてめちゃくちゃびっくりした。
というかむしろ、それまでの外殻が外れて、より中身が剥き出しになった感覚すら覚えました。
コロンビアで撮ってるけど、言われなければコロンビアってわからないぐらいのさりげなさ。

まず、この映画の最大の肝は音です。
アピチャッポン本人もどこかでこの映画のことを「ミュージカル」と呼んでるらしいんだけど言い得て妙。
音、といっても音楽とかではなく深い深い静寂。
ここまで音を聴かせる映画ってそうそうない。
冒頭から、観客の衣摺れすら気になるレベルの静寂が続いて、ものすごい緊張感。
そして爆音。
そこで主人公のジェシカ(ティルダ)が飛び起きますが、観客もわ!ってびっくりする同じ体験をします。
これはアピチャッポン本人が患った「頭内爆発音症候群」に端を発するらしい。
この後ジェシカはその爆音にさいなまれつつ、それに導かれるような旅をしていきます。
で、その旅というのも相当変わってるんですよね。。。
普通のロードムービーとは全く違って、脈略がないというか、え?なんでこの人ここにいるんだっけ?っていう展開がほとんど読めません。
その間に出会いもあるんですが、エルナンという人物が2人出てきて、どちらも得体が知れない。。。
ハリウッドだったら200%恋愛沙汰になるところも華麗にスルーしちゃう。
1人目のエルナンなんてめっちゃイケメンだったのに。。。
アピチャッポン映画にあるあるな前半後半を分けるとしたらこのエルナンがいなくなるところからでしょうか。
段々ジェシカの記憶と現実の整合性が取れなくなっていきます。
「光りの墓」の兵士よろしく病院で眠りまくっていた姉も普通に生活していて、死んだと思っていた友人も生きていて。。。
本当に同じ映画なのか?ってぐらい2時間20分の中でまるでコラージュのような映像群。
最後の方のジェシカが泣くシーンの長回しとか本当にすごい。。。どうやってこんな演出できるんだ。。。
あとやっぱり2人目のエルナンの眠り(死)のシーンは凄過ぎてどうなってんの??
川の近くで眠っているというのは「ブリスフリー・ユアーズ」でも出てきたけど、全く異質なシーンになってる。
最後の最後に謎の物体が出てくるけど、「プンミおじさんの森」でも出てきたし、まあアピチャッポンだもんね、っていう不思議な説得力があったり。そこは賛否分かれるところだと思うけど。
全体通して、不気味な映画で、そういう「魔」みたいなものを描くのが本当に上手いなぁと思いました。
そして終始主人公が受身で物語のハンドリングができないまま終わります。
こういう映画って大体最後に主体性を取り戻していったりするんですが、二人目のエルナン曰く「アンテナ」のまま。
そもそも最後までこの主人公が一体何者なのかすらわかりません。
そして彼女の中に聞こえる音は、終始他の登場人物と共有できることなく。。。
この音を共有しているのは実際の観客のみという点で、観客もジェシカと共犯関係に終始立たされる体験型の映画とも言えるでしょう。絶対映画館で観るべき。
普段エンドロール見ないで映画館出ちゃうんだけど、これまた音のせいで最後の最後まで見てしまった。
森、病院、夢、眠り、記憶とこれまでのアピチャッポンの要素は踏まえつつ確実に深化した作品。
僕の中で「トロピカル・マラディ」に次ぐアピチャッポン映画になりました。
またタイで撮るのか他の場所で撮るのかはわかりませんが次回作も楽しみ。

また、都写美で「A.W.アピチャッポンの素顔」というドキュメンタリーが上映されてたので行ってきました。
「「MEMORIA メモリア」の製作準備に勤しむ姿に密着したドキュメンタリー。」
とのことだったんだけど、まだ撮影にも入ってない段階で、アピチャッポンが俳優で今作監督のコナー・ジェサップとイチャイチャ和気藹々とコロンビアを巡ってる映像が続きます。
映画の構想やタイのこと、死生観など、プライベートな語りは貴重かも。




そして来月からイメフォで「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022」と題して「真昼の不思議な物体」、「プンミおじさんの森」、「光りの墓」、「アピチャッポン本人が選ぶ短編集」が上映されます。こちら
特に短編集は嬉しい!こちら
当初「世紀の光」が上映されるはずだったんだけど適切な劇場用上映素材が提供されていなかったことがわかったために中止となり、急遽差し込まれたらしい。
「ブリスフリー・ユアーズ」と「トロピカル・マラデイ」がないのが残念だけど、こちらは4Kリマスター中らしくて近々なんらかの発表があるとか。DVD化希望!!
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