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Tino Sehgal @ ICA


チケットを買っていると、ギャラリーの奥から子供たちのはしゃぎ回る声。
やってるな・・・。
そう思いながら、恐る恐る扉を開ける。
中ではやはり子供たちがかけずり回っている。
どうやら、1人が色を言うと、他の子供たちがその色にタッチするゲームをやっている(この遊び何て言うんですかね)
そこに赤やら緑やらの色彩豊かな服で行こうものなら大変なことになっただろう。
もはや子供たちにとって観客もくそもない。
同じく入った女性は赤いマニキュアをしていたため「赤!」と1人が叫んだ時には10本の指が子供たちによってひっぱりまわされてた笑
鑑賞するものは他にない。この子供たちが「作品」なのだ。

ティノ・セーガル。
調べてみると、ものすごく興味深いアーティストだった。
1976年ロンドン生まれ、ドイツ育ち。ベルリンベースのアーティスト。
彼の作品には、ものは一切登場しない。
そこに登場するのはパフォーマーとしての人間だけ。老若男女を問わない。
分野的にはパフォーミングアーツになるんだろうけど、普通のそれと違うのは、まず彼自身は登場しないということ。振り付け師という彼の背景が影響しているのだろう。
そして、彼の作品は観客を直接的に巻き込み困惑させる。
全くもって新しい。こういう作品を作れる彼の脳はどんな構造をしているんだろうか。なんかこういう人が現れると勝てないな、って単純に思っちゃいますね。

実は今回の展覧会は、3年連続ICAでの展示のラストを飾るものだった。
第1回(2005年)では、1階と2階に分かれていて、まず1階ではだだっ広いギャラリー空間の中に、人が1人倒れている。それだけ。2階では、4人のパフォーマーが観客に背を向けながら取り囲み、最後にもう1人出てきて完全に包囲される。すると突然5人が一斉に「討論の対象となるのが、この作品の目的」と叫び出し、いずれ一斉に倒れる。観客が何か言葉を発するまで誰も起きない。「何か」を言うと、1人が立ち上がり、やがて全員が立ち上がってその「何か」に関する議論が始まる。その議論がなくなると、一目散に駆けていく。
第2回(2006年)は、ギャラリーに入ると子供がやってきてギャラリーを案内してくれる。しかし突然「What is PROGRESS?」と聞いてくる。?となっていると、続いて高校生くらいの若者、続いて中年、最後は老人にバトンタッチしていき、最後までPROGRESSについて徹底討論。最後に老人がこの作品のタイトルは「progress」だと告げて終わり。展示は何もなし。

こんなノリで、観客はとことんまで困惑させられる。ティノの展覧会に行く時はかなりの勇気が必要。そもそも彼は徹底的に作品の物的痕跡を残すのを拒んでいる。それは作品写真であり、作品のテキストであり、はたまた作品購入の際の領収書すら拒む。だから、彼の作品は実際展覧会が始まって、実際に体験するまでどんなものなのかはわからない。
作品購入と書いたが、こんなもんどうやって購入すんねん!と思う人が大半だろう。実際僕もそうでしたが、とにかく彼自身がパフォーマーの詳細やら、指示の詳細やらを口頭で購入者に伝える。それだけ。彼はパフォーマーへの指示も文章として残さない。でも実際、彼のデビュー作で、昨年のテートトリエンナーレにも出した、「This Is Propaganda」という作品は、女性監視員が突然ソプラノで“This is propaganda, you know, you know“と歌って、最後に作品名とアーティスト名をあげる、というもので、ドイツのコレクターによって、1万5千ユーロで購入されたらしい。まったくアートってのは本当わけわかりませんね。

そして注目すべきは、彼の年齢に対して華々しすぎる経歴。
上であがった「This Is Propaganda」は彼が24歳の時の作品。
その次の年の「This Is Good」では、監視員が突如、交互に片足ずつでぴょんぴょん飛び跳ね、腕を振り回し、やっと最後に“This is good. Tino Sehgal. 2001“と言う作品を作り出す。
これ以降数多くの国際展に出品。2003年のフリーズアートフェアでは、8歳の子供たちにアート・ディーラーを名乗らせ、客に差し向けたり、04年のバーゼル・アートフェアでは若手を対象とするバロワーズ賞を受賞し、05年にはなんとヴェニス・ビエンナーレのドイツ館代表をつとめ上げた。ちなみにこの時の作品は、パビリオンに入ると、一斉にパフォーマーがよってきて、「This is contemporary! This is contemporary!」と言ってくるなんともうざい作品笑 僕は行ってましたが遠巻きに見てました。同年の横浜トリエンナーレではチケット売りに、チケットを売る際にその日の新聞の見出しを言うという指示を出していたらしい。気づかなかった。昨年はベルリン・ビエンナーレにて、空間に男女がひたすらキスを観客の目も気にせずつづけるという無茶な作品も発表。
まだ30歳。彼の快進撃はまだまだ続く。
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