地点「君の庭」@ KAAT
地点の新作「君の庭」。
松原俊太郎戯曲では4作目。
「ファッツァー」を下敷きにした「正面に気をつけろ」はともかく、KAATで発表した「忘れる日本人」、「山山」は僕的にイマイチだったので、正直不安だったのですが、今回は松原戯曲で最高傑作だったと思います。
ずっと「日本人」を根底に描いてきた松原さんですが、ここにきて「天皇」。
地点も「近未来語」等で、このテーマにかすることはありましたが、ここまで真正面に、しかもこのコロナ禍も含めて現在の日本に向き合うとは。
実際ひやっとする部分も多くて、中々スリリングな内容でした。
個人的には今回、何と言っても彼らの新しい挑戦に感動しました。
「発語すること」にここまで重きを置いた劇団を僕は知りません。
言葉を発することがここまで重いことなんだと地点の舞台を観る度に思い知らされます。
ですが、今回は内容も含めて、特に「発語」の重さがすごいです。
まず、「天皇」の「発語」は全て「御言葉」になってしまうという重さ。
そしてさらに何と言ってもセリフの半分ぐらいが録音ということ。
このコロナ禍の中で、演劇に置いて最も難しいのが、台詞を発する際の飛沫です。
ここを封じられてしまっては、これまでの地点が重きを置いてきた「発語」が成立しません。
そこで出たのが録音放送というアイディアだと勝手に想像。
これがめちゃくちゃ面白い効果を産んでました。
考えたら「玉音放送」も究極の録音放送ですしね。
当初、全部録音で所々口パクとかにしちゃうってアイディアもあったそうです。
しかしそこからが地点の本領発揮。
この録音放送、口パクに加えて同調、ズラし等々、どんどん声の複雑さが増していきます。
同調は録音と同じ台詞を演者が生で発すること。
ズラしは録音から微妙にずれて発語すること。
さらに、別人の声に被らせるとか、エフェクトかけるとか、とにかく声のポリフォニーが特に後半やばい。
いつも出演している窪田さんも声しか出演してなかったり、声がここまで響くのは流石の演出。
そして、同心円上にただただ回る雛壇。
一応石田さんが押してるんだけど、あんな綺麗に円状に回らないと思うので多分機械操作。多分。
最後の最後に日の丸が出てくるのもかっこいいし、衣装についた丸いライトも、天井から上下するライトもかっこよすぎる。。。
前半はえ、これだけ?ってぐらいシンプルなセットなので心配になったけど、延々と見続けてたらどんどんハマっていく感じがすごかった。
今回はオンライン版も用意されてて、こちらには台詞が字幕でついてるので、実際の戯曲に書かれたテキストと今回方言やら英語やら織り交ぜて相当複雑なテキストになってるのが本当によくわかって、改めて俳優陣の台詞覚えのすごさに驚嘆してしまう。。。
こちらは10/18まで見られるので是非ご覧くださいませ。こちら。
次の地点の新作が1月の青森なんだけど、行こうか結構本気で悩み中。。。
ドストエフスキーなんだよなぁ。。。観たい。。。悩む。。。
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ところでここに来て演劇を立て続けに見ました。
一つは同じKAATでやってた市原佐都子の「バッコスの信女 − ホルスタインの雌」。
もう一つはマームとジプシーの「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」(長)。
前者は昨年のあいちトリエンナーレで発表されて、第64回岸田國士戯曲賞を受賞した作品で、友人が絶賛していたので気になってたのですが、今回政府からの規制緩和があり、売り切れていたチケットの追加分を買えたので急遽観ることができました。
内容は「一見ふつうの主婦、人工授精によって生まれた獣人、去勢された犬、雌ホルスタインの霊魂たちによる合唱隊(コロス)が歌い上げる音楽劇」という結構ぶっ飛んだ内容でした笑
生殖や受精とは何なのかを問う内容でしたが、僕の好みではなかったかなぁ。。。
刺激的な内容に演出が付いていけてない感がありましたね、正直。
演劇としての新しさもさほどなかったし。。。
後者のマームも過去作ってのはあったけれど、特に真新しさもなかった。
9.11とかも唐突すぎるし、色々荒さが見えてしまいました。
本当は夏に再演するはずだった「coccon」が観たかった。。。泣
ちなみにKAATでは今ヨコトリでも出てる飯川雄大の映像が流されてます。
完全に窃視感でヤバすぎ笑

そしてヨコトリといえば、会期終了間際になって映像作品を一部オンライン解禁しました。
これは素晴らしい試みだけど、もっと早くやってくれ。。。
例えばチケット購入者のみ観られる仕組みとかにすればとか。。。
とはいえ、もう15分越す映像作品は展覧会会場で観るのは無茶。
こうやってどんどんオンラインにしちゃうべきだと思う。
もちろん現地ではインスタレーションとしての楽しみ方もあるんだし、損なわれることもないかと。
あと、90分超えるのは家でも無茶なので劇場でやってほしい。。。
今回のオンラインでもレヌ・サヴァントの「ミリャでの数ヶ月」なんて231分ですよ。。。無理。
とはいえ、会場で気になりつつスルーせざるを得なかった作品がちゃんと観られたのは本当にありがたい。
新井卓の映像も長くはないけど、最後まで見てなかったので、最後の終わり方びっくり。
パク・チャンキョンの「遅れてきた菩薩」やアントン・ヴィトクルの「宇宙市民」も面白い。
ナイーム・モハイエメンの「溺れぬ者たちへ」は映像美にため息。
等々、ほぼ1日仕事になったけど、楽しく観られました。
ヨコトリも11日に無事閉幕して本当に良かった。
カタログ、歴史の記録として期待して待ってます!
関連記事>>ヨコハマトリエンナーレ2020 @ 横浜美術館、プロット48

ついでに、ヨコトリ関連でBankARTの川俣正と黄金町バザールも見ました。
川俣正は模型相変わらずかっこいいものの実際のインスタレーションは時代を感じて残念。。。
黄金町バザールはちょっと学生のノリみたいでついていけませんでした。。。




あとは映画ですね。観たい映画が多すぎて追いついてません汗
中でもアート好きが注目してたのはゲルハルト・リヒターの半生を描いた「ある画家の数奇な運命」。
邦題が死ぬほどダサいのが辛い。。。
英題は「Never Look Away (目をそらさないで)」。映画中にリヒターの叔母が言う台詞ですね。
原題は「WERK OHNE AUTOR (作者なき作品)」。映画の最後、リヒターの作品の特徴を言い表す語。
とにかくリヒターの半生です。
23区内だと日比谷シャンテしかやってなくて、しかも3時間。。。ハードル高し。
何とか見終えたけど、やはり何となく物足りなさが。。。
そもそもどこまでが本当の話なんでしょうか?
前半の叔母がナチスに殺されて、その死のきっかけを作ったのが養父ってのは?
あと、ベルリンの壁が建設される直前に東から西に移るの結構あっさりだったけど?
後半のデュッセルドルフの光景はアートファンならニヤッとするかも。
ボイスが出てきたり、ポルケやユッカーも。ポテトの作品作ってたのは誰だろう?
あと、監督のインタビューでめちゃびっくりしたのが、今回リヒターのフォトペインティングを実際に描いてもらったのがアンドレアス・シェーンと言う人で、この人当時実際にリヒターの絵を描いてた人らしく、映画で使われた絵はある意味「オリジナル」と言うこと。
どう言うことかと言うと、一時期リヒターはウォーホルの「ファクトリー」に憧れてて(意外すぎる)、アンドレアス・シェーンを安い時給で雇ってフォトペインティングをひたすら描かせてたとか。。。
その時期のリヒター作品には有名なロウソクの絵(確か川村記念美術館での個展のポスターにもなってた)とかはアンドレアス・シェーンの作だとか。。。ヒエェ。。。
映画の中には冒頭の「退廃芸術展」等、色んな絵が登場するのも見どころ。
リヒター好きは観ておいてもいいとは思いますね。