ヨコハマトリエンナーレ2020 @ 横浜美術館、プロット48

今年個人的に最注目の展覧会が横浜トリエンナーレでした。
僕は第2回、3回、4回と観てきましたが、5回目以降は観てません。
それは、はっきり言ってしまうと面白くなかったから、です。
2001年に始まったこのトリエンナーレももう7回。いつの間にか20年近くの歴史が。。。
この間に磯崎新のディレクター降板で開催が1年ずれたり(第2回)、当初の主催だった国際交流基金が降りて横浜市が主催するようになったり(第4回)、よくもまあ続けられてるな、という状態。
横浜市が主催するようになって多少安定してますが、前回の「島と星座とガラパゴス」とか平松愛理かよ!という謎のタイトルで観に行く気も起きず。。。
そもそも国際展のくせにディレクターが毎回日本人とか終わってた。。。
そんな横トリ。もう行くことはないだろうと思ってたのに、今年のディレクターの発表は衝撃でした。
日本人どころか欧米ですらない、いきなりのインドのコレクティブ、ラクス・メディア・コレクティブ!
これは、何か変わるかもしれない。。。
と、思ってたらやはりこれまでのトリエンナーレのあり方を抜本的に変えるような方法を提示していて、絶対に観に行かねば!となりました。
さて、具体的に何が違うのか。
まず彼らがしたのはテーマではなくソースという考え方の提示でした。
そもそも大型の国際展においてテーマを一つに絞るということ自体無茶だったのかも、と目から鱗。
彼らが示したソースというのは5つ。
独学:人の教えられるのではなく、自ら学ぶこと
発光:学んで光を外に放つこと
友情:光の中で友情を育むこと
ケア:互いをいつくしむこと
毒:世界に否応なく存在する毒と共生すること
これらを含む作品を集めたのが今回の横トリ2020です。
そして、さらにエピソードという考え方。
これは、トリエンナーレが3年に1回のみ開催されるという考え方を変えて、ゆるく次のトリエンナーレまでつなぐものが「エピソード」です。
単発のイベントみたいなものですが、これを横浜だけではなく、香港やニューデリー、ヨハネスブルグといった諸都市を回るという壮大なプランで、これを聞いた時はちょっと何言ってるかわからない汗、という感じでしたが、時間も空間も凌駕するトリエンナーレの新しいあり方。
これは今回のコロナ禍で実現できてませんが、一部はオンラインでの作品発表も展覧会前からやっていていくつか観ることができます。こちら。
今後の動きにも注目です。
ちなみにこの11月からスタート予定の上海ビエンナーレも変わっていて、なんと期間が8ヶ月もあって、期間を3つに区切ってサミット、オンラインプログラム、リアルな展覧会という形になるそう。こちら。
これからの展覧会のあり方、色々面白そうです。
さて横トリ。
ご存知この準備段階で世界はパンデミックに見舞われました。
開催が危ぶまれる中、それでもバトンをつなぎ実現に漕ぎ着けたのが今回の横トリです。
世界的に見てもコロナ禍の中、最も早い開催に漕ぎ着けた国際展かもしれません。
ディレクターも作家も来日できない中で、インターネットを駆使しながら搬入するというやり方は、まさにニューノーマル。
これを見届けるためだけでも観る価値は十分ある展覧会でしょう。
そしてソースの中に「毒」というワードがあるのがすごい。
ということで炎天下の中予約して行って参りました。
まず横浜美術館へ。
最初、あれ美術館どこ?となりました。。。
これはイヴァナ・フランケの作品でネットで美術館を隠してます。攻めてるなぁ。。。

中に入るとニック・ケイブによる、アメリカの庭によくある飾りがアトリウムに。映えます。
中には銃などの「毒」が含まれ、光に反射して「発光」している。


同じくアトリウムには青野文昭の作品。
東日本大震災で出た瓦礫で作られた彫刻。悲惨な記憶を「ケア」するように繋いでいく。


2階へ上がるとまずジェイムス・ナスミスの月のドローイング。
実はこれ1874年に描かれたもので、そもそも彼はアーティストではなく技術者であり、天文を「独学」で学びまだ月に人が渡る100年近く前に月を夢想しながら描いたもの。
これからスタートする時点でこの展覧会間違いなさそう。

そこから新井卓の千人針をテーマにしたインスタレーションと、竹村京の修復をテーマにした作品群に進むんだけど、ここであることに気づきます。
この二人の作品には蚕という同じモチーフが登場するんです。
その後他の人の展示見ていても、何やらテーマやモチーフが重なっている作品がいくつか登場することに気づきます。
例えば原発をテーマにした作品(ローザ・バルバ、キム・チャンキョン)や、家族がテーマの作品(岩間朝子、飯山由貴、レイヤン・タベット、川久保ジョイ)といった具合に。
これは単に「被ってる」というネガティヴなことではなくて、むしろ「繋がり」みたいなものを感じて、僕はかなり好意的な感覚を抱きながら観ていました。
僕は作家を「孤高のオリジナルな存在」に仕立て上げてしまうのは暴力だと思っていて、個々の人間でありながら、時間や空間を超えて繋がる感覚の方が魅力的だな、と思います。
そのことが今回の展覧会で意図的なのかはわからないけれど垣間見れたのは個人的に幸せでした。


あと先日金沢で見た「de-sport」みたいな運動をテーマにしたものもあって(ニルバー・ギュレシ、タウス・マハチェヴァ)、東京オリンピックも意識されてたのかしら。。。
特にタウスの作品は、あの謎の丸い天井高のある空間をうまく使いこなしてて好きでした。
歪んだ体操器具と、選手に向けられるような叱咤からの喧嘩言葉が響く様がいい感じ。

エヴァ・ファブレガスの腸の彫刻はすっかり休憩所になってた笑

そして最後に佐藤雅晴さんの「死神先生」。
とても美しい展示なんだけど、隣のアリア・ファリドの映像がうるさくて、ちょっと雰囲気が。。。

この時点で結構へとへとですが、くじけず別会場プロット48へ。
ここは元々アンパンマンミュージアムだったそうで、廃墟感すごかった笑
そして展示されてる作品も美術館より濃くてぐったりしました。。。
ちなみにこっちは予約なしでも入れるみたいです。



特に2階のエレナ・ノックスがヤバすぎる。。。
エビの生植をテーマにした作品でカオスすぎた。。。


こっちの会場は性的なものが多い印象ですね。
ラス・リグタスやジェン・ボーなど。
ボーのシダ植物とセックスする映像は美しかったなぁ。

後、行くなら飯川雄大の作品を予約しましょう。
要予約の作品は美術館に2つとこの作品の3つなんだけど、僕はこれだけ予約しました。
内容全然知らずに行ったらまさかの展開でめっちゃ楽しかった。。。内容言えませんが是非。。。
予約はこちらから。

とまあ、こんな感じ。
2会場で4時間半ぐらいかな。
とは言え映像は飛ばし飛ばしで観てこれ。というか全部観るのは不可能。中には200分超えのやつとかあってどうせいというんじゃい。。。しかもチケットは2会場セットで1日しか使えないという鬼っぷり。。。
とまあ観るのは本当にヘトヘトに疲れますが、観て損はないです。
よくぞパンデミックの最中にここまでの規模の展覧会を届けてくれたという感謝が大きい。
今後のエピソードの展開にも期待だし、横浜美術館は4月から館長に元東京近美の蔵屋美香さんを迎えてるので美術館自体の展開も楽しみ。
カタログ、発売されてなくて、予約しようと思ったら発売すら未定だった。。。
出されるんだろうけど、早く欲しい。。。
トリエンナーレは10月11日まで。こちら。
詳しい解説はこちらの動画も観るといい予習になります。
<追記(2020.08.19)>
先日友人に、「横トリどの作品が良かった?」と聞かれたんですが、パッと答えられませんでした。
あれ、色々印象に残ってるんだけどなぁ、と思ってたんですが、このインタビュー読んで腑に落ちました。
コムアイ×ドミニク・チェン ヨコトリで考える孤立と共生の感覚
特にこの辺り。
コムアイ:たくさんの人の考えが集合体としてあって、見た目も揺らいでいて、それに触れるとふわっと入っていけそうな感じ。人にプレッシャーをかけたり、覇気で強度を保っている作品がなかったのがすごく未来的で嬉しかった。
ドミニク:たしかに「覇気で人を捕らえない」という感じがとても良かったですね。
コムアイ:その態度はみんなに共通してました。それで一体感があったのかも。
木村:たしかに、今回のアーティスティック・ディレクターである「ラクス・メディア・コレクティヴ」が展示を作っていく過程でたびたび重視したのは「何かを支配するような作品にならない」ことでした。作品である以上、強度や存在感は強くなってしまっても、それがある空間や状況を完全に占有して支配するようなプレゼンスは持ってほしくない、と言っていました。
別の作家と作品が隣り合っていることや、展示としての連続性を作家自身も意識を持ってほしいと。だから当初の作品プランが一人変わると、そのつど関連しあう作家たちにそのことを丁寧に伝えなければいけなかったので、キュレーションとしてはちょっと大変でしたけど(笑)。
悪く言えば「強い」作品がないということなんだけれど、それって本当に素晴らしいな、と。
僕は以前からグループ展で一つの作品の印象が強くなる展覧会は失敗だと思っています。
その点この展覧会は、かなり満点に近いのかもしれません。
展覧会の総体としてある共生の在り方。
実際展示室には壁もなく作品が並置されてて、結構戸惑う部分もあるのだけれど、敢えて分けない。
テーマも一つではないので、キュレーションの強制力も緩い。
これは中々理想的な在り方だと思います。
色々難点はあるにせよ、とてもいいトリエンナーレだったと思います。
追記以上。
さて、この後ヘトヘトの状態でさらに日産アートアワードを観に日産パビリオンへ。
こちらは2013年の初回時と2015年の第2回のBankARTでやってた時に行った記憶がありますが、前回の2017年は行ってなくて、前回からトリエンナーレに合わせて3年に1回の開催になったそう。
そして今回から会場がBankARTから日産パビリオンへ。
日産パビリオンとは?と思っていたら超未来型施設みたいな感じでびっくり。。。
日産の車の魅力を5感で感じるみたいな施設で隅の方でアワード展がやってました笑
ファイナリストは潘逸舟、風間サチコ、三原聡一郎、土屋信子、和田永の5人。
この中からグランプリが決まるそう。発表は8/26でオンラインでライブ配信されるとか。こちら。
観た感じ風間さんか和田さんだなぁという印象。
風間さんのディスリンピック、本当にヤバすぎる作品。
2年前に完成された作品ですが、このオリンピックの状況を予期していたかのような内容。
優生思想やナチズムなど、ここまでdisるかねという笑
後、日産の車が登場する絵なんかも、これここで発表しちゃうんだという過激さ。。。
これでグランプリとったら日産の器がデカすぎるかも。
和田さんの作品は古い電化製品で楽器を作るというものなんだけど、それをインストラクションをつけて世界中のいろんな国の人に作ってもらって演奏してもらうという作品で、このコロナの影響で一つ届いてないものもあったり、奇しくも「移動」というものを感じさせる作品になってたりしました。
個人的には土屋さんのぶっ飛んだ世界も好きすぎるんだけどないだろうなぁ笑
各人のインタビュー動画が見られますが土屋さんがマジでぶっ飛んでる。。。こちら。
ちなみにこの展示は9/22までで横トリよりかは会期短いのでセットで観たい方はお気をつけください。





横トリと日産アートアワードがコラボでやったdommuneも長いけど面白かったので貼っておきます。
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