劇団チョコレートケーキ「無畏」 @ 下北沢・駅前劇場
コロナ禍の中5ヶ月ぶりの舞台。泣ける。。。
検温・消毒・マスクは勿論席数も大幅に減らし、最前列は舞台から2mの距離+フェイスマスク。
これがニューノーマルかと思うと眩暈がするけど再び一歩を踏み出した劇団に喝采を送りたい。
場所は下北沢の駅前劇場。
ちょうど前日に映画「劇場」を観ていて、そこで出てくる劇場も駅前劇場。
そこでは満員の観客が映し出されていて、その差異がより鮮明に映る。
(映画自体は微妙。。。)
僕は最前列で、フェイスマスクをつけての鑑賞。特に気にならず。
内容は松井石根、大アジア主義、南京大虐殺、東京裁判…。
またまた重いテーマだが、終始目を見張る舞台で素晴らしかった。
松井石根という人物は、名前こそなんとなく聞いたことのあるものの、どういう人物か舞台を観るまでよくわからなかった。
観ていくうちに彼の思想が沁み入っていくような感覚を覚える。
孫文を敬い、彼の大アジア主義の理想を信じ、蒋介石の協力を仰ぐも無下にされ、結果その牙城である南京を攻め入り、あの南京大虐殺が起こる。
アジアを一つに欧米列強からの自由を掲げたのに、むしろ中国人を苦しめる結果となった。
結果的に東京裁判ではその責を問われB級戦犯として1948年に死刑となる。
西のアウシュビッツとは規模が違うが、それでも日本人があの日中戦争で犯した罪は一生消えない。
劇中では彼はそういった志高い人徳者のように描かれるが、全くと言っていいほど同情できなかった。
戦争は人を狂わせるし、不合理な感情が優先されてしまう。
あの暴走は、例え部下達が勝手にやったことだとしてもそこに火をつけたのは間違いなく松井本人。
日本の敗戦を決定付けたあの長崎の原爆投下の日にこの舞台を観られたのは意義深かった。
色々問題はあるものの、彼の「アジア人」としての精神は学ぶに値する。
終戦から75年経った今でも、彼の大アジア主義の理想なんて程遠い。
むしろ溝は益々深まるばかりで、日本は没落の一途をたどっている。
コロナが収束した後、世界はどうなってしまうのだろう。
会場のチラシの束の中に、劇団の次回公演のチラシが入っていて、来年2月に新作を発表予定とのこと。
新作は、今回の南京大虐殺が起こる最大のきっかけ、日中戦争を長期化させてしまった時の内閣近衛文麿を描くそうで楽しみすぎる。。。
この先どうなるかわからない中、それでもボールを投げ続けるこの劇団の姿勢にただただ感服。
今回の舞台も、劇場の他に、オンラインでも配信していて、スタンダード版 (客席からの視点で作品を視聴できる、一般的な映像)と、俳優1人にボディカメラを装着して撮影したアクターカメラ版 (登場人物の目線で作品を楽しむ、カスタム映像)を用意している。
僕はやはり舞台の生の臨場感が好きで、今回もそれをたっぷり堪能できたのだけれど、このオンライン、特に後者のアクターカメラ版は非常に気になる。
劇場の劣化版にするのではなく、別のオプションをつけることで劇場でも味わえないスペシャルな体験を用意するという発想は素晴らしい。
今後の演劇のあり方の一つの指標となるかもしれない。
秋に始まる地点の新作もオンライン版があって、僕は劇場もオンラインもどっちも申し込む予定。
さらに劇団チョコレートケーキは、自粛期間中に過去作の映像を期間限定で無料配信してくれた。
これもファンを増やす大きなきっかけを掴んだかもしれない。
実際予告をアップしているYouTubeチャンネルは今回の配信で登録者数がめっちゃ増えたそう。
僕は実際に劇団チョコレートケーキを観たのは2018年の「遺産」からなので、今回で3作目。
過去作は再演されるのを待つしかないと思ってたら、なんと「ドキュメンタリー」、「60’sエレジー」、「追憶のアリラン」、「サラエヴォの黒い手」、「〇六〇〇猶二人生存ス」、「起て、飢えたる者よ」とBSで放送された「熱狂」、「あの記憶の記録」と、なんと8作もこの数カ月で観ることができて最高。
おかげでさらにこの劇団のファンになれた。
今回の舞台も感染拡大に気を払いながら演者スタッフ相当なストレスだったと思う。
それでも千秋楽まで届け切って下さった皆様本当に感謝しかない。
これからも応援させていただきます!
最後に、「あの記憶の記録」から印象的なセリフを。
「死んだ人間は喜びも悲しみもしない。
望むだと?
あんな風にみじめに死んでいった人間が何を望めるっていうんだ?
気安く彼らの気持ちを代弁してくれるな」
この演目はイスラエルを舞台にして、ショアー(ホロコースト)を生き残った世代とその後の世代の分断を描いています。
ショアーの記憶を語り継ぎ、イスラエルを守ることこそが犠牲となったユダヤ人の望みでもあると訴える戦争を知らない若い女教師にショアーを生き残った人物が言い放ったのが上記のセリフです。
第二次世界大戦から75年が経ち、日本も戦争を知る世代はいよいよ減るばかり。
戦争の醜さは、戦争を知らない者にとっては想像するしかなく、その想像が暴走する様と今まさに我々は対峙しています。
死者を代弁することは誰にもできないし、そんな権利誰にもありません。
むやみに過去の憎しみを増幅させず、その醜さを刻むことは容易ではないでしょう。
それでも我々はやっていかないとまたあの歴史を繰り返すことになる。
改めてこの演目は問うているようでした。
劇団チョコレートケーキ:http://www.geki-choco.com