森栄喜「シボレス|破れたカーディガンの穴から海原を覗く」@ KEN NAKAHASHI

KEN NAKAHASHIで開催中の森栄喜展へ。
現在は予約制で、一人ずつ贅沢に鑑賞が可能です。こちら。
森さんは木村伊兵衛賞も受賞した写真家として知られていますが、近年「写真家」という括りでは括れないぐらい幅広い活動をされています。
パフォーマンス、映像、小説、と様々なメディアを横断しながら一貫した世界観を築かれていて、そのどれもが全く無理なく並走している感じがあって、特に前回同ギャラリーで開催されていた「Letter to My Son」という映像には完全にやられました。。。
そんな森さんの新作個展。
今回のコロナ禍で延期になってしまいましたが、ようやく公開されました。
そしてその作品はなんとサウンドインスタレーションでした。。。!
まず展覧会タイトルを聞いた時にお!と思いました。
「シボレス(Shibboleth)」。
この言葉を知る日本人はほとんどいないと思います。
僕がこの言葉を知ったのは、2007年、テートモダンでドリス・サルセドが発表した作品がこのタイトルだったからです。
Doris Salcedo @ Tate Modern
shibbolethはヘブライ語で、その発音によってエフライム族を見分けるために用いられたものらしく、これを正しく発音できなかったエフライム族は皆殺害されたという暗い歴史があります。
今回ギャラリーには写真が3点と拡声器のようなスピーカーが1点のみのシンプルな展示。
スピーカーからは日本語のセンテンスが繰り返し流されるのだけど、そのどれもが日本語を母語としない人々による発語で、日本語ネイティブの自分にははっきりとそのことがわかってしまう。
かなり忠実に発語しているはずなのに、所々に混じる拭いきれない違和感。
ここがおかしいとか具体的に言うのは難しいのだけれど、確実にその違和感は残酷に存在している。
これらの発語を聴きながら、些細なことで取りこぼされてしまう人々のことを想う。
それと同時に、一人でソファーに座りながら、この作品に対峙できる贅沢。
この作品は、こうして静かに向き合うことでより豊穣な世界に誘われる作品。
今回あくまで偶然コロナ禍という状況で予約制という形になったのだろうけど、必然的にこうなったと言われてもなんの違和感もない。
彼らの発語を聴きながら窓の外を眺めていると、ギャラリーの前の木にカラスの巣を発見する。
カラスの巣なんて初めて見た。
ありふれたカラスだけれど、彼らにも家があり家族があることを初めて目の当たりにした。
なんだか、そのことと今回のスピーカーから流れてくるか細く自信なさげな声たちがリンクしてしまった。
実はこの作品は、映像とともに流すという案もあったらしい。
実際映像も用意されていて、中橋さんに映像も特別に見せていただきました。
その映像がまた凄まじくて、また泣きそうになったんだけど、音だけの時の印象と全く別世界に誘われた。
音だけだととても「現在」を感じさせられるんだけど、映像が伴うと圧倒的に「過去」を思わずにはいられない。
映像や写真はやはり記録メディアなのでどうしても失われた時間を思ってしまうのだろうか。
音も録音されたものなので過去のものなんだけれど、もっと現象的に感じられるというか。
8月の終わりにはnadiffでこの映像つきバージョンが展示されるらしい。
ぜひ、ふたつの会場でこの作品を堪能して欲しいと思います。
KEN NAKAHASIの展示は会期が延長されて8/2まで。こちら。
ところでこのコロナ禍の中、KEN NAKAHASHIでは森栄喜さんの「Letter to My Son」を書籍化しようとクラウドファンディングをされていました。こちら。
僕にとっても特別な作品で、この作品が書籍になって手元に持っていけるということを知った途端に興奮し、わずかながら僕もご支援させていただきました。
3月から開始し、見事目標額を達成し、5月に出版され、手元に届きました。
改めてページをめくりながら、何度も泣きそうになりました。
クラウドファンディングの返礼として、森さん直筆の手紙と僕の名前も入った栞が同封されていました。
本当に素晴らしい本が出来上がりました。こちら。
この本の出版も含めて、出版元となったギャラリーKEN NAKAHASHIのオーナー中橋健一さんに色々お話をお聞きしました。
7/12(日)にインタビュー動画を販売開始しますのでぜひご覧ください!
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