Mona Hatoum @ Tate Modern

今回の欧州記事ラストです。
ラストはやはりテートモダン。
6月に新館がオープンし、ただでも広かったのにさらに広く。
おかげで全部回る頃にはぐったりしました。。。
元の建物をBoiler House、新館をSwitch Houseという名前で呼ばれていました。
H&deMによる新館は、正直期待はずれでした。なんか建築としてのワクワクがない。
発表から二転三転して今の形に落ち着きましたが、まあ色々あったんでしょう。
建物としての機能もこれからといった感じで半分くらいのフロアが公開されてませんでした。
新館に先立って公開されたTankなる地下空間はやはりめちゃくちゃカッコよかったです。
この建物のキャパシティの深さを感じられる空間で、ここでは主にパフォーマンスがメイン。
Boiler Houseの方ではモナ・ハトゥムの個展が開催されてました。
オキーフもやってたけど時間もなかったのでパス。。。
近年改めて大きな個展が連発している彼女。昨年もポンピドゥーでやってました。
来年はヒロシマ賞受賞記念の展覧会が広島市現代美術館で開催されますね。
なんとなくYBAのイメージがあったんだけど、彼女は彼らより一回りぐらい上の世代だったんですね。
彼女はレバノンで生まれ、イギリスに移り住んで今も拠点はイギリスです。
彼女の作品からは、暴力と普段の生活は薄皮一枚でしか隔てられていないことを教えられます。
家庭用のチーズおろし器を大きくして彫刻にした作品なんかは、何かの処刑器具にしか見えません。
また、僕が好きだったのは「Twelve Windows」という作品で、洗濯物のように12枚の布が洗濯バサミで止められていて、それぞれ刺繍が施されていますが、それはパレスチナの難民女性が施したもの。
こういう家庭的なものと、そこに潜む社会的な背景の組み合わせがとても上手いと思います。
また、最後にひっそりとテラスに展示されてた土嚢から植物が生えてる作品も僕のお気に入りの一つ。
ただ、改めて彼女のこれまでの全体の仕事を見ていると、あまりに美しく、それこそ美術作品然としすぎているというか、その感じが個人的にはそこまで入り込めなかったです。
来年の広島の展示は機会があったら観たいけど、今回で十分かなって感じもしますね。
テートの展示は8月21日まで。
さて、テートモダンですが、前回2年前に訪れた際、コレクションが僕の学生時代とそこまで変わってなくて結構ショックだったんですが、今回ガラッと様変わりしていて、さすがテートという感じ。
ブラック+カロ、ロスコ+モネなど、お家芸とも言えるテーマ別の組み合わせも絶妙。
カプーアとケリーの部屋では、ティノ・セーガルの「作品」が歌ってたりして楽しかった。
Switch Houseの展示は大空間にいくつかの作品という感じで、NYの新ホイットニーみたいな感じであまり新鮮味なかった。それでもジャッドとホワイトリード、ビュレンが一緒にあったりするのはいいなぁと。




Artist Roomというくくりでいくつか一人の作家にフィーチャーした部屋は素晴らしかった。
Boiler Houseではリヒターやベッヒャーなどが贅沢に展示されてた。
日本からは高梨豊さんの展示も。
アヴァカノヴィッチの展示室も崇高な空気が流れてて素晴らしかった。
Switch Houseではブルジョワやレベッカ・ホルンがほぼ個展かと思われるぐらい充実してた。







しかし何よりも驚いたのが1970年に東京で開催された「人間と物質」展の展示室があったこと!
これを常設に置くなんて、やはりテートはすごい。。。
高松二郎とペノーネが隣り合って並んでるのはかなりの感涙モノ。




とまあ、やっぱテートはすごいなぁという感じでした。これからまたどうなるのか楽しみ。
テート以外に今回はギャラリーもいくつか。
その多くが僕の学生時代よりはるかにでかくなってた。
Hauser&Wirthなんてどっからどこまでが敷地なのかよくわからなかった。
WhiteCubeは移転後欧州一でかい空間になったそうだけど、空間としては全く面白くなかった。
それなら相変わらず普遍なガゴーシアンは今回久々に行ったけど、やっぱり空間が素晴らしい。
初めてロンドンに来て訪れた時の感動が再び蘇りました。
まあ、でかさで言ったらどこもNYに敵わないわけだから、もっと空間の質を極めてほしいですね。
さらに新しくできたハーストが始めたNewport Street Galleryにも行ってきました。
行ったらジェフ・クーンズがやっててまんまやんけと思った。空間もこれまた普通。
レストランは完全にハースト全開って感じで楽しかったです。







EU離脱で揺れるロンドンですが、やっぱりこの街には世界中の人々を惹きつける力があるし、モナ・ハトゥムのように他国からやってきてイギリスで活躍する作家もたくさん。これを排除する方向にだけは向かわないでほしいです。
今回移転後のセントマーチン大学にも初めて訪問しましたが、以前のボロボロの建物とは打って変わって、古い建物を改装した超オシャレな場所で、学生も相変わらず多国籍。この多様性が刺激を生んで、いい作家を育ててるのは間違いないし、離脱後、学費やビザの影響でこれまでのようにロンドンに留学することも難しくなる他国の学生もたくさん出てくると思う。その影響がイギリスのアートシンーンにどう表れるか全くわからないけれど、ずっとずっと刺激的な街であってほしいなと思います。




僕が初めてヨーロッパの地を踏んでから足掛け約10年。
今回フランスでマティスの礼拝堂に行けたことで、ヨーロッパの行きたい場所はほぼ制覇してしまいました。
個人的には、そろそろもうヨーロッパではなく他の地域にも行きたいし、いよいよ自分の国に根を下ろして自身のやりたいことを着実にやっていきたいなぁという気持ちもあります。
10年という歳月はほとんど実感がないですが、それまでに築いてきた様々な国に住む友人知人のことを思うと、自分なりに歩んできたんやなぁと感慨深いです。
この経験を生かして、しばらくまた日本で頑張ります。(と言いながらまたどっか行ったりして)
来年のテート・ブリテンのホワイトリードとかめっちゃ観たいけど、我慢我慢。

Makoto Ofune "Particules en Symphonie" @ Saint-Merry











Makoto Ofune "Particules en Symphonie"
Saint-Merry (76 Rue de la Verrerie, 75004 Paris, France)
2016.07.12-09.03 月-土 9:00-18:00
Chapelle du Rosaire & Atelier Cézanne

















Chapelle du Rosaire
466 Avenue Henri Matisse, 06141 Vence, France
開館時間: 月・水・土 14h00~17h30 火・木 10h00~11h30と14h00~17h30
入場料: 3ユーロ。内部撮影不可。
ニースから400番のバスで約1時間。バス終点より徒歩約10分。バス時刻表
Atelier Cézanne
9, avenue Paul Cézanne- 13090 Aix-en-Provence, France
開館時間: 時期により異なる
入場料: 6ユーロ。内部撮影可。
帰国しました。

約一ヶ月の滞在を終え無事帰国しました。
レジデンス期間中は特に決められたノルマもなかったので、将来のプロジェクトを進めたり、地元の作家のアトリエを訪ねたり、あとはフランス各地やスイス、ロンドンに行きました。
スタジオでは、広いスペースでほぼデスクワークだったのでもったいなかったですが。。。
いくつか将来に繋がる種もまけたような気もするので有意義な滞在でした。
期間中フランスはサッカーのEURO2016の開催国でしかも決勝戦まで駒を進めるという大盛り上がり。
仲良くなった作家たちとバーに観に行って僕もはしゃぎました。10年前のW杯をロンドンで観ていたのを思い出します。
残念ながらフランスはポルトガルに負けてしまいましたが、貴重な体験でした。
そして7月14日のフランス革命記念日ではパリで花火中継を観ていたらニースのテロの緊急速報が。
実はその朝までニースにいたので、一報を聞いて震撼しました。
各地でテロや殺戮が起こっていて、本当に物騒です。明日は我が身。こればかりは避けようがありません。
それでも犠牲になった人たち、その多くが子供だったと聞いて、本当に悲しい想いでいっぱいです。
思えば、フランス到着初日から英国のEU離脱、ダッカのテロ、トルコのクーデター未遂など世界が大混乱した激動の一ヶ月となりました。
さて、滞在中はバタバタしていたので、全くアップできなかった展覧会等の記事をまたアップしていきたいと思います。
といっても昔ほど狂ったようには見てないので、案外少ないかも。
とりあえずまずはボルドーの友達を訪ねて行った時に買ったカタログを紹介。
1996年にボルドー現代美術館(CAPC)で開催されたTraffic展のカタログ。
この展覧会は何と言っても当時この館のキュレーターだったニコラ・ブリオーが書いた、のちに日本語で「関係性の美学」と言われる「L'esthétique relationnelle」があまりにも有名。
展覧会を超えて、90年代のアートシーンで最も影響のあった文章と言っても過言ではありません。
所謂「参加型アート」を最初に象った文章で、リクリット・ティラヴァーニャやリアム・ギリックを大きく評価しました。
これは、90年代を席巻した、イギリスのYBAへのカウンターとも言われ、絵画や彫刻といった、言ってしまえば売りやすいマーケット型の作品とは一線を画す大陸型のアートとして当時は紹介されました。
しかし皮肉にも、今ではそういったフォームレスな作品を作る作家のほとんどがイギリスから輩出されています。
サイモン・フジワラ、ライアン・ガンダー、ティノ・セーガル等がそうですね。
これだけ有名な文章なのに、未だに邦訳が出ていないという問題があります。
実際邦訳は辻憲行氏によって進められているのだけれど、なぜか一向に出版されないというミステリー・・・。
昨年の「年内に出ます」という辻さんのツイッター宣言は何だったのか・・・。
それどころか、これを批判したクレア・ビショップの文章の方が先に翻訳されてたりして本当におかしい。
それはそうと、この展覧会、カタログを見ていると、この序章の文章だけが一人歩きしちゃった感がすごいです。
カタログ読むまで知らなかったんだけど、この展覧会ヤノベケンジとか参加してるんですね。
「関係性の美学」関係あるのか。。。
とはいえ、ポンピドゥーのコレクションでも「Traffic以降」というテーマコーナーがあったり、今回行ったジュネーブのmamcoでも展示のタイトルに「関係性の美学」が打ち出されてたり、20年経った今でも伝説となった展覧会であるのは事実です。
これがパリではなくボルドーで開催されてたってのがまた面白いですよね。
それにしても20年前のカタログが手に入るとは思ってなかったので嬉しいです。
最近では2013年にヴェネツィアで開催されたハロルド・ゼーマンによる「態度が形になる時」(1969)の再現や、2014年にポンピドゥーで開催されたジャン=ユベール・マルタンによる「大地の魔術師たち」(1989)の再考展など、こういった伝説的な展覧会を回顧する動きが活発ですね。
今年はこの「Traffic」から20年だけでなく、ベルギーはゲントで開催されたヤン・フートによる「シャンブル・ダミ」(1986)から30年の年であったりもします。
さて、この10年だと将来「伝説」として語り継がれる展覧会は何になるんでしょう。
個人的には2013年のマッシミリアーノ・ジオーニによるヴェネツィア・ビエンナーレ「百科事典宮殿」かなぁ。
見てないけどその前年2012年のキャロライン・クリストフ=バガルギエフによる「ドクメンタ14」もあるかもしれませんね。
ドクメンタといえば来年はミュンスター彫刻プロジェクトとヴェネツィア・ビエンナーレが被る10年に1度の美術惑星直列の年ですね。
