「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」by 佐々木芽生
前作の続編「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」を観てきました。
前作からもう2年以上も経つんですね。
ハーブとドロシーに関しては前回書いてるので、割愛。
今回は、彼らの4000点を越えるコレクションが、アメリカの全50州に50点ずつ渡り、そのコレクション展を追ったドキュメンタリーです。アラスカからハワイまで。中には聞いたことのない州もあって、やっぱりアメリカは広いです。
そんな広大な範囲に散らばったコレクションたち。
この拡散は賛否両論で、最初ハーブも反対したそうですが、やはりワシントン国立美術館だけでは収まりきらないので、館長が提案し、やむなくゴーサインを出したとのこと。
でも、この拡散は、地方の美術館にとってまさに棚ぼたで、ほとんどの美術館が購入予算はない状態で、そんな中アメリカを代表するような作家たちの作品が無償で提供されるなんて。
そしてそれは、現代美術をあまり観る機会のない観客にも善くも悪くも影響を与えています。
それにしてもハワイの美術館はすごい。従業員がアロハ姿ですよ。さすが。
この映画を通して、美術館の現状や、それぞれの特色なんかも観れて楽しかったです。
また、彼らに関連する作家たちも登場しますが、ヴォーゲル夫妻に捧げる感謝が泣けます。
「ハーブとドロシーに認められたおかげで”人生に失敗した”と思わずに済んでる」とか、
「作品が方々の美術館に贈られたおかげでまた再認識されてる。2人の僕の恩人だ。ありがとう」とか。
クリストは自分の作品の話しかしてませんでしたがw
浮き沈みの激しい業界なので、作家は時に完全に忘れられたりします。
こうして改めてスポットを当てられることで再認識されるのは素晴らしいですね。
そして、これを機会に、これまでニューヨークから出ることのなかった夫妻が、車椅子のハーブを引いてドロシーがバーゼルマイアミビーチの会場を歩く姿なんて思わず微笑んでしまいます。
しかし、夫のハーブは昨年7月息を引き取ります。89歳。
一人残されたドロシーを見てると涙がこぼれます。
これだけの「歴史の1頁」を紡いだ伴侶がいなくなるなんてどんなにつらいことでしょう。
ジャンヌを亡くしたクリストと被ります。
しかし最後に美術館に運ばれていってすっきりした彼らのアパートの壁に、昔画家を志したハーブの絵が架けられていたのはなんだか救いでした。
彼の絵は美術館に収蔵されることはないけれど、ドロシーにとって誰にも渡すことのないマスターピースなんですね。
今回もまた素晴らしかったです。
こうしたドキュメンタリーは中々資金繰りが大変だろうと思います。
佐々木さんは前作でも相当苦労したそうですが、今回はクラウドファンディングを使って資金を調達したそうです。日本からは1400万円も集まったとか!それだけ前作が素晴らしかったからですね。
こうやって、草の根な活動が、ネットを通して幅広くサポートされる時代になったんですね。
ドロシーは「アートの収集はやめることにした。夫との共同作業だったから、敬意を表して私の手で薄めたり変えたりしたくないの。コレクションは終わり」と語りました。終結宣言です。
これでこの映画の続編はもうないわけだけれど、こうした人がいたことを知らせてくれた佐々木監督に感謝です。