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今思うこと 2013.04.25

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先日東京に行った折りに、そのまま足を伸ばして福島に行ってきました。
初めての福島です。
なぜ福島?と色んな人に聞かれましたが、単純に「行ってみたかったから」としか応えようがありません。
でもまあ、聞きたくなる気持ちもわかります。
福島はあの日以来、様々なしがらみを抱えすぎています。
県外である僕にとっても、やはり「原発」という色眼鏡を外すのは不可能になっています。
このことだけでも東電の罪は重大です。
それを受け入れたのは福島だなんて、僕は言えません。

福島に行ったら必ず見たいと思っていたものがありました。
それが三春町の滝桜です。
樹齢千年を超える大樹。
震災の年の春も、千年変わることなく咲き続けました。
その様をテレビで見て以来頭の隅から離れなくなりました。
今回咲いているか微妙な時期でしたが、咲いてなくてもいいやという気持ちで訪問。
そしたらもう満開の花が気高く咲き誇っていました。
この日は深夜から朝方にかけて雪が降り、雪と桜という光景に出くわしました。
いつもより早く咲いてくれたおかげで素晴らしい光景を焼き付けられました。
言葉に尽くせないぐらいの美しさでした。

その後、警戒区域近くまで車を走らせました。
海岸方面まで行くのに、何度もルートを変えないと辿り着けず、まるで迷路のよう。
いわゆる「被災地」とちがって、フェンスの向こうもこっちも何も変わらないように思える。
それでもそこには無慈悲な冷たい金網が立ちふさがっています。
あまりのあっけらかんとした光景に何の感情もわきません。
しかし次第に増して行く嫌悪感たるやありませんでした。
色も、形も、匂いも、味も、温度も、質感も、音も何もありません。
さっき見た桜のあの威風堂々たる姿とは真逆の世界です。
そのコントラストが不気味な程僕の心を占めました。
どう整理したらいいかわかりません。整理なんてできません。

さざえ堂にも行きたかったですが、タイムアウト。
一日しかいられなかったので、福島を満喫したとは言えないけれど、少なくともあの土地の土を踏めました。
正直今行くのはどうかな、ってことも考えました。
実際今福島に行くということにはただの観光にはならない「意味」がどうしても付いてまわります。
でもじゃあいつ行く?って例のCMじゃないですが(笑)、そんなこと考えてたら一生行けないよなーと思い、この東京行くタイミングを利用しました。
賛否両論色々あると思いますが、行きたいのなら行けばいいとシンプルに考えることにしました。
それに、僕ら関西の人間にとって(少なくとも僕にとって)東北ってすごい遠いんですよ。
関東と東北の間に大きな壁があるイメージ。
そこを超えるのって中々難しいんですが、もう勢いで行くしかないんです。
ということで、また関東行くタイミングで壁を突破したいと思います。
今度はサザエ堂リベンジと岩手の方も行ってみたいなぁ。
こうやって思うと日本って本当に広いですね。

ところで僕が東京にいる時に関西で最大震度6という地震がありました。
またも朝方、またも震源地は淡路です。
思わず18年前のことを思い出して焦りましたが、被害も少なかったようでよかったです。
この国にいる限り、いつどこにいても「被災地」に「被災者」になりえます。
その前に、少しでも多くのこと体で知っておいた方がいいのかもしれません。

あまりまとまってませんがこの辺で。

フランシス・ベーコン展@東京国立近代美術館

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「待ちに待った」という形容詞がこれほど相応しい展覧会も久々な気がします。
日本では実に30年ぶりのフランシス・ベーコン展です。
近年のベーコン絵画の価格高騰の中、国内でこの規模の展覧会は奇跡と言えるかも。
実際本展を企画された保坂健二郎さんも2009年テート、プラド、メトロポリタンでベーコン展が開催された折にもartscapeの記事で「ベーコン作品の価格が高騰してしまった今日では、そうしたリーディング・ミュージアムでないとその回顧展を開催できなくなってしまったのだろうかと、美術館人としては不安になってしまうのである。」と述べられていて、その数年後に実現させるなんてすごいです。
僕自身もテートでの展覧会見れなくて悔しい思いをしたので今回本当に嬉しい。
「2008年に注目する作家/展覧会とその理由」

さて、そんな奇跡の展覧会ですが、内容は33点、そのうちトリプティックが6点と、一見少ないようにも感じられますが、実際見てみるとこれでも相当お腹いっぱいになれます。
これまで何度も図録で見てきましたが、やはりあの大きさで見ると図版と全然違う!
ベーコンの絵画は大体等身で描かれているので、迫ってくる感じがすごい。
色の鮮やかさや、キャンバスの裏地がそのまま出てるやつとか生々しい。
そしてなんといってもトリプティックがずらっと並んだ部屋は言葉も出ませんでした。
特に晩年、死の数年前に描かれた1987年のトリプティックにはやられました。
あそこまで物語の読めない絵画は見たことがありません。
絵画はやはりどうしてもそこに何かを読み取ろうとしてしまうのですが、ベーコンの絵画はそこをすごいパワーでねじ伏せます。抽象画ならまだしも、歪んでいるとはいえ、こうしてはっきり人物を描いているにもかかわらず、圧倒的な沈黙で目の前に現れているのは本当に奇跡。
この展覧会は身体をひとつのテーマに挙げていて、このトリプティックが展示されてる部屋のタイトルはまさに「物語らない身体」。
ベーコンはトリプティックという本来宗教画など伝統絵画に使われるやり方を敢えて使い、絵画の「物語る」という役割を改めて剥ぎ取っています。
そこには何段階もの否定が繰り返され、大きなポリフォニーとなって、「ベーコンの絵画」としか言い様のないものまで昇華させています。すごすぎる。
また、彼は積極的に金色の額を使っていて、これもまた伝統絵画の因習を利用しています。
近年の画家は額に入れずに、キャンバスむき出しで展示することが多いですが、ベーコンは必ず額装します。それも決まって金色の額。これが不思議とどの絵画にもフィットしているんですよね。これもまた現物見ないとわからない効果ですね。図録には額縁まで載せませんし。そしてまたその額のアクリルの反射が暗い絵だと強くて絵が見にくかったりするんですが、これもベーコンの意図。これをベーコンは「距離」と言ってますが、この体験も生で見てなんぼです。
あと展覧会には土方巽やフォーサイスのまさに身体を使ったベーコン的ダンスも映像で見れます。

今回、この展覧会では何度かレクチャーもあって、なんと「初級者編」「中級者編」「上級者編」と分かれていて、男なら「上級者編」でしょ!ってことでこれに合わせて聞きに行きました。
以後後学の為ほぼメモです。登壇者は担当学芸員の保坂健二郎さん。
のっけからTwitterの画面が出てきて面食らいました。
元学芸員の小松崎拓男さんの本展に対する辛辣なコメント。これです。
その中の「ベーコンってもっと暴力的なのでは?」という言葉に保坂さんは引っかかった模様。
しかし、こうしたパブリックな場で応答するとは保坂さん凄いですw
実際ベーコンも自分の絵を「an attempt to bring the figurative thing up on to the nervous system more violently and more poignantly (人物像を神経組織に対してより暴力的にそしてより痛烈にもたらす試み」と評しているところからも「暴力」はベーコンを語る上で必須単語みたいなものです。
この「暴力」という言葉1つとって見ても色々解釈があって、まず哲学者のジョルジュ・ソレルは、暴力をforceとviolenceに分け、前者が物理的暴力、後者が意志的/創造的力に分類。
またベンヤミンは神話的暴力と神的暴力に分け、前者を隷属を強要する力、後者はその隷属を打破する力と分類。
どちらにしろ、ベーコン絵画に現れる暴力はviolenceであり、神的暴力であるということはわかると思います。
つまりリテラルな暴力じゃないということ。
一方彼が選ぶモチーフにはリテラルな暴力(force/神話的暴力)の含まれるものが多いのも確かです。
と、その前に彼は自分の絵を描くのに写真を使っていたというのは彼の絵画を読み解くのに重要だと思います。なんせ肖像画すら写真家に撮らせてその人を前にして描くということをほとんどしなかったそうですからね。(しかもその撮影現場にすら立ち会ってなかったという。。。)一旦ものごとを写真にしてしまってからじゃないと描けなかったんでしょうね。そういう意味では、ベーコンという画家は極端な「20世紀画家」なのかもしれません。彼は1909年に生まれ、1992年に死んでいますが、見事に20世紀を走り抜けています。20世紀しか知らない画家という言い方もできますが、これだけ画像に溢れている21世紀に生きていたらどうなってたんでしょうか。
それはさておき、彼の死後、あのカオスなアトリエから様々な図像が発見されました。
マイブリッジやヴェラスケス、エイゼンシュタイン等の画像を利用しているのは生前のインタビュー等で明らかにされていましたが、今回のレクチャーではナチスのイメージがたくさん見つかったことを知りました。最近の出版されたイギリスの美術史家マーティン・ハマーが書いた「Francis Bacon and Nazi Propaganda」という本で、多くのベーコン絵画がナチスの写真を元に描かれていると主張されています。なるほど!ってやつと?ってやつがありましたが(笑)、確かに「暴力」を表すのにナチス程優れたイメージもないでしょうね。
「暴力」に近いもので「権力」の問題もあります。これは彼を一躍有名にした教皇を描いたシリーズに顕著にあらわているのかもしれません。彼は1965年を機に教皇の絵を描くのをやめます。それは、彼がそれまで絶対権力の象徴として鎮座していたことがベーコンにとって優れたモチーフであったのに、1962年から65年まで行われたバチカン公会議で、そのヒエラルキーが崩れ、ベーコンにとっては一気に興味の対象ではなくなったのかもしれません。その辺りは展覧会中にも触れられていますが、一見ランダムに選べている図像でも、そこにはある種の必然性が潜んでいることを教えられます。
また、写真を引用するということで言えば、イギリスの画家、ウォルター・シッカートの影響も欠かせないと保坂さんは言います。確かにシッカートの絵のポーズとまったく同じような絵もあります。(今回出品されてる1959年の「横たわる身体」なんかはまさにそうですね)
また、今回なるほど!と思ったのが、ベーコン絵画に良く出てくる矢印の謎。これは、彼のアトリエから出てきた柔道や空手、忍術(!)のようなマーシャルアーツ系の本にヒントがあって、よく組み手なんかを解説してる図で、→が描かれてて、それもそのまま引用しちゃってるんですね。目から鱗でした。。。
彼は徹底して客観的な目を持ち合わせていたんですね。
だからこそ、写真を見て描くというプロセスはより客観的に描くのに重要だったのでしょう。
時代もちょうど世界が冷戦へと移り、まさに「見える暴力」から「見えない暴力」へと移行していき、ベーコンの絵画を追って行くと時代の空気みたいなものが反映されてる気がします。
一方で、彼の古典に対する憧れというのもおもしろくて、これだけ20世紀を反映しながら、彼が言及するのはヴェラスケスやレンブラントのような画家達が大半です。
そして、ボードレールやオスカー・ワイルドの影響も大きく、特にボードレールの提唱したモデルニテの概念は、彼の人生に置いて大きな指針となっていたようです。
ちなみにその概念とは、non fini(未完)、fragmentaire(断片的)、insignifiance(無意味)、autonomie(自己言及的)で、そのうち断片的や無意味というのは、彼の「物語らない」絵画を見ているとよくわかります。
ここでおもしろかったのはnon finiに関しての保坂さんの考え。
近代以前の絵画には、「完成」というゴールがあった。
つまり絵画の上からニスを塗ることでこれ以上手が加えられないようにすること。
近代以降の絵画は絵の具そのものの物質感を残して、決してニスなんて塗りません。
タッチをそのまま残したマネが近代絵画の父と呼ばれるのはその為です。
しかし、ベーコンは近代の画家である以上それに従うのは当然ながら、やはり古典の憧れは捨てきれない。
そこで登場したのがあの額縁だったのではないかというのが保坂さんの推測です。
ベーコンはニスの代わりにアクリルで絵画を被うことで、昔の絵画のような反射を再現しているのではと。
これはインタビュー等でも発言されてないので実際どうかはわかりませんが、おもしろいですね。
そんなこんなで、相当内容の詰まったレクチャーで大変勉強になりました。
にしても前に並んでたおばちゃん4人組は果たして本当に上級者だったのかな。。。

この展覧会は東近美で5月26日まで開催された後、6月8日より豊田市美術館へ巡回します。
谷口吉生建築とベーコン。。。これはこれで別に見てみたいですね。。。
フランシス・ベーコン展公式ウェブサイト http://bacon.exhn.jp/


東近美では、「ゆがむ人」と題して、ベーコンにちなんだコレクション展も開催中。
ナウマンの映像など、意外ながらベーコン絵画を連想させるものや、ベーコンも持っていたと言われるミショーの絵画なんかもあって、小さいスペースながら見応えがありました。
あと、ベーコン関係ないけど、村上春樹の新作小説の表紙になったのとは別のバージョンのモーリス・ルイスの絵画も展示されてます。偶然かな?



テーマ : アート・デザイン
ジャンル : 学問・文化・芸術

フランシス・アリス展 メキシコ編@東京都現代美術館

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今年初上京物語です。
まずは都現美へ。
とりあえず前回のMOTアニュアル2012のカタログがどうしても欲しかったので、入館してショップに直行してなんとかゲットしました。これでこの上京の目的半分は達成。
平日ってこともあってかがら空きで、客自分しかいませんでしたw
で、現在都現美ではフランシス・アリス展がやってます。
しかも「メキシコ編」と「ジブラルタル海峡編」という2期に分けての開催ってことでかなり力入ってます。広島現美にも巡回するみたいやけど、あっちは一気に1回でやっちゃうみたいやから全作品出るとは思えないのでこっちで。ただ6月末から始まるジブラルタル海峡篇行けるか微妙なんですが。。。
とにかく今回はメキシコ編。
彼はベルギー人でメキシコに在住。しかも建築出身という中々歪んだ経歴。
それを端的に表してるのが、最初の壁の大きな写真、「Turista(1994)」。
地元(メキシコ)の配管工とかに混じって、「Turista(観光客)」という看板を掲げて立ってます。
最初アリスの顔とか知らなかったので一瞬どの人かわからず焦りましたが、最後の最後、会場を一巡したところでまたここに辿り着くので、その頃にはアリスの顔が自分の頭の中で馴染んでて、改めて味わうことができました笑
全部挙げていくとキリがないんで、いくつか好きな作品を。
アリスは実際ペインティングとアニメーションの作品しか見たことがなくて、イマイチ自分の中で作家像がわからないまま見て回って思ったのが、凄く美的感覚の鋭い人なんだな、と思いました。
結構政治的な背景がフィーチャーされがちなんだけれど、それ以前にどの作品も詩的で、行為として美しくてとても好感が持てました。
特に氷を溶けきるまで街中引いて回る「Sometimes Doing Something Leads to Nothing (1997)」や、広場の塔の周りを羊を引き連れて歩く「Patriotic Tales (1997)」や、今回の目玉でもある、ドンキホーテよろしく竜巻に突っ込んでいく「Tornado (2000-2010)」なんかは、見ていてうっとりしました。
また出品作ではないけれど、会場で流されてたドキュメンタリー内の800人の人々と砂漠の砂を掃きながら巨大な砂山を超えていく「When Faith Moves Mountains (2002)」なんかはヴィジュアルとしても行為としても本当に美しいですよね。
この「行為として美しい」というのが彼の真骨頂かもしれませんね。
彼はドキュメンタリーの中でこう言ってました。
「時に詩的なことをすれば政治的になり、政治的なことをすれば詩的になる」
ジブラルタル海峡編も楽しみです。メキシコ編は6月9日まで。こちら


都現美では現在同時開催で桂ゆき展もやってます。
結構好きなペインティングなんですが、キャラっぽいのが出てくる辺りは萎えます。
アメリカに渡って抽象絵画になっていく辺りが一番好きですね。ロスコっぽいのもあった。
晩年はオブジェ思考が強いのか、こっちもあまり好きじゃなかったです。
また、コレクション展は相変わらずのクオリティ。本当コレクション見るだけで価値がある。
今回は「イメージ」を焦点に当てて、1923年の関東大震災から、2013年の現在を結ぶ100年の物語。
最近戦前から万博ぐらいまでの日本美術系の本を読み漁ってるので、前半はかなり勉強になりました。
最後の最後に去年都現美で個展を開催したトーマス・デマンドの東日本大震災直後の福島第一原子力発電所内部を再現した写真で終わってるのにはゾクッと来ました。一室あの作品だけってのもいい。
なので、ピピロッティ・リストをいつまで置き続けるんだっていう思いもありましたw
せっかくデマンドでビシッと終わってるのに、おまけみたいにリストがある。。。悪い作品じゃないけどこれだけはずっと置いてますよね。なんでやろ。片付けるの面倒なのか(ぉ
2階は杉本博司から始まり、「指差し作業員」こと竹内公太の作品があったのにはびっくりしました。所蔵してたんですね。あとジョルジュ・ルースも所蔵してたのは知らなかった。
これだけで立派すぎる企画展ですよね。都現美はいつもお腹いっぱいになります。御馳走様です。

「ソフィ カル―最後のとき/最初のとき」@原美術館
写真
アリスのドキュメンタリーの中で「この国(メキシコ)で現代アートをやるということは搾取になるのかもしれない」といったようなことを言ってましたが、今回のソフィ・カルの作品にはその「搾取」をすごく感じました。
まずのっけからテーマが海ということで、杉本博司の「海景」があってビビった。豪華。
そして大きな部屋では、海をバックにカメラを見つめる老人の映像と、カメラに背を向け、海を見つめている(ように見える)人々の映像群。
二階では、盲者の人々の写真と、彼らがその視力を失った時のエピソード、そして最後に見たものの写真。
彼らを見世物とすることで、この展示は成立している。
彼らの人生を彼女の作品にすることによって、搾取しているとも言えるのかもしれない。
ただ、ソフィ・カルの見せ方があまりに美しく、そういった搾取も美の前には良しとせんばかりの気概があって、やはり彼女はすごい作家だなと思い知らされた展示でもありました。6月30日まで。

武蔵美優秀展@武蔵野美術大学
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武蔵美の優秀展そのものというより、僕のTwitterで話題だった、百瀬文さんの「聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと」を見に行きました。
この作品は、聾者である木下知威という方とのインタビュー映像みたいなもので、彼は手話を使わず、百瀬さんの唇の動きを見て会話するんですが、その会話は意図的に歪められ、次第に百瀬さんは方言を交えたり、でたらめな音を当てはめたり、最後には無音で口だけ動かして木下さんと「会話」している。
木下さんは唇の動きしか見ていないので、そんなことおかまいなしにその「会話」は成立している。
最初百瀬さんが話し言葉を歪め始めた時に、なんだかすごく背徳感情のようなものが湧いて気分が悪くなりました。ここにもカル同様の搾取を感じる。
以前木下さんにお会いしたことがあって、筆談等を通して会話させてもらって、最も印象的だったのが、僕が今はTwitterとかがあって、文字だけでやり取りできるので便利ですね、と言ったら、確かに日本語の出来る聾者にとっては便利だけどね、という言葉が返ってきて唖然とした。自分は、目が見えるんだから文字を読み書きできるのは当たり前と決め込んでいて、実は多くの聾者の人は読めても書けない人が多いそうです。なぜなら手話には助詞がないので、助詞の使い分けが本当に難しいんだそう。やはり言葉は耳で覚えて行く要素が大きいので限界があって、それをある一定の年齢までに習得しないと一生できないままらしい。
その人の立場に実際に立ってみないとわからないことってたくさんあって、多分百瀬さんの作品見ながら、自分達はわかりあえない中、綱渡りみたいな状態でなんとかコミュニケーションをとっているといったことを思いました。
ところで、五美大展の時はヘッドフォンで展示されてたそうだけど、個人的にはその方がよかったんじゃないかな、と思いました。その状態でなら音無しバージョンでも見れて、より木下さんと近い立場でその「会話」を聞くことも出来たんじゃないかと。映像には字幕もついてるので、音無しで見たらやはり普通に喋ってるようにしか見えませんし。
あと優秀展一応ぐるっと回ったけど、特に印象に残ったのはなかったな。。。
博士課程の発表展も同時にやってて、以前アートコートフロンティアで拝見した野村在さんの展示がやってた。
以前は破裂する液体や砂などが展示台の上に無形の彫刻のような写真作品を制作されてたけれど、今回は具体的な物が風景の中で重力を失い浮遊しているような写真作品だった。
また、真ん中の機械が段々光りはじめるんだけれどあれは何だったかよくわからなかった。。。

Chim↑Pom「PAVILION」@岡本太郎記念館
「背徳感」といえばこの人たちの真骨頂かもしれません。
ただ、今回は岡本太郎との共演ということもあり、すごく優等生な感じの展示でした。
でも僕はこっちの方が好きです。太郎への敬意をすごく感じました。
というか、今回の展示はなるべくしてなった必然性を感じる展覧会で、納まりがすごく良かったです。
目玉は多分「岡本太郎の骨」でしょうね。
月の石よろしく恭しく展示されております。
行ったらエリィ女史がアイドル写真のようにして記念撮影してたw

他には
田中功起 「Beholding Performer, Performing Beholder」@ CNAC LAB
Simon Fujiwara「Aphrodisiac Foundations」@ TARO NASU
楽園創造(パラダイス)―芸術と日常の新地平― vol.1 平川ヒロ @ gallery αM
「椿会展2013 -初心―」@ SHISEIDO GALLERY
なんかも見ました。
田中さんのやってたCNAC LABって会場が中々見つからず、なぜかゲストルームみたいなところに出てしまって完全迷子になりつつ辿り着きました。
今回はマリンバ奏者2人がお互い演奏者と観者になり、観者は演奏者を鏡で映し出す。
そのそれぞれの映像を左右の壁にマルチプロジェクション。
会場内にもいくつか鏡が吊るされて、映像がそこにも映る。
どうしても両方一度に見ることはできないけれど、鏡の角度によっては見ることが出来る。
そんな中、いつの間にか両方とも同一人物になってたりしてドキッとしました。
サイモンの展示は、父と母が初めて出会った帝国ホテルを舞台に繰り広げられる物語を地図と文章で表してて、ここまで個人史を利用して作品を作れるサイモンはやはりすごいです。
最後は帝国ホテルのバーを再現したものまで登場しました。
αMでやってた展示はよくわかりませんでした。リアルジャパネスクみたい(悪い意味で)
椿会も毎回ですが、イマイチ統一性もなくよくわからない展示ですね。
そして相変わらず内藤さんの作品はやっぱりすごい。

テーマ : アート・デザイン
ジャンル : 学問・文化・芸術

「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」by 佐々木芽生



前作の続編「ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの」を観てきました。
前作からもう2年以上も経つんですね。
ハーブとドロシーに関しては前回書いてるので、割愛。
今回は、彼らの4000点を越えるコレクションが、アメリカの全50州に50点ずつ渡り、そのコレクション展を追ったドキュメンタリーです。アラスカからハワイまで。中には聞いたことのない州もあって、やっぱりアメリカは広いです。
そんな広大な範囲に散らばったコレクションたち。
この拡散は賛否両論で、最初ハーブも反対したそうですが、やはりワシントン国立美術館だけでは収まりきらないので、館長が提案し、やむなくゴーサインを出したとのこと。
でも、この拡散は、地方の美術館にとってまさに棚ぼたで、ほとんどの美術館が購入予算はない状態で、そんな中アメリカを代表するような作家たちの作品が無償で提供されるなんて。
そしてそれは、現代美術をあまり観る機会のない観客にも善くも悪くも影響を与えています。
それにしてもハワイの美術館はすごい。従業員がアロハ姿ですよ。さすが。
この映画を通して、美術館の現状や、それぞれの特色なんかも観れて楽しかったです。

また、彼らに関連する作家たちも登場しますが、ヴォーゲル夫妻に捧げる感謝が泣けます。
「ハーブとドロシーに認められたおかげで”人生に失敗した”と思わずに済んでる」とか、
「作品が方々の美術館に贈られたおかげでまた再認識されてる。2人の僕の恩人だ。ありがとう」とか。
クリストは自分の作品の話しかしてませんでしたがw
浮き沈みの激しい業界なので、作家は時に完全に忘れられたりします。
こうして改めてスポットを当てられることで再認識されるのは素晴らしいですね。
そして、これを機会に、これまでニューヨークから出ることのなかった夫妻が、車椅子のハーブを引いてドロシーがバーゼルマイアミビーチの会場を歩く姿なんて思わず微笑んでしまいます。
しかし、夫のハーブは昨年7月息を引き取ります。89歳。
一人残されたドロシーを見てると涙がこぼれます。
これだけの「歴史の1頁」を紡いだ伴侶がいなくなるなんてどんなにつらいことでしょう。
ジャンヌを亡くしたクリストと被ります。
しかし最後に美術館に運ばれていってすっきりした彼らのアパートの壁に、昔画家を志したハーブの絵が架けられていたのはなんだか救いでした。
彼の絵は美術館に収蔵されることはないけれど、ドロシーにとって誰にも渡すことのないマスターピースなんですね。

今回もまた素晴らしかったです。
こうしたドキュメンタリーは中々資金繰りが大変だろうと思います。
佐々木さんは前作でも相当苦労したそうですが、今回はクラウドファンディングを使って資金を調達したそうです。日本からは1400万円も集まったとか!それだけ前作が素晴らしかったからですね。
こうやって、草の根な活動が、ネットを通して幅広くサポートされる時代になったんですね。
ドロシーは「アートの収集はやめることにした。夫との共同作業だったから、敬意を表して私の手で薄めたり変えたりしたくないの。コレクションは終わり」と語りました。終結宣言です。
これでこの映画の続編はもうないわけだけれど、こうした人がいたことを知らせてくれた佐々木監督に感謝です。

テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

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