内藤礼アーティスト・トーク@国立国際美術館
先日国立国際美術館で行われた内藤礼さんのアーティスト・トークに行ってきました。
これは国立国際の30周年を記念して全館使って開催中の「コレクションの誘惑」展の関連企画で、この展覧会の関連企画は異常に豪華。
歴代館長たちによるシンポジウムに始まり、「写真の現在」と題されたシンポジウムは2日間に渡り超豪華メンバーで繰り広げられました。特に後者は両日とも整理券は一瞬でなくなったそうですね。このシンポジウムシリーズは、「もの派再考」展時の「野生の近代」や「絵画の庭」展時の「絵画の時代」などと並ぶ、国立国際が力を入れてるもので、どれも本となって販売中です。この「写真の現在」も秋には刊行予定とか。
アーティスト・トークも充実。小沢剛さんや伊藤存さん。そしてこの内藤礼さん。
内藤さんのトークって中々ないので、これは外したくないと思っていました。
ってことで気合い入れて会館30分前に着きましたが、それでも7番目。強い。
まあ、とりあえず先着130名にはもれずに済んで一安心。
トークの14時まで近所で時間をつぶしました。
ちなみにコレクション展は見てません。もう何回も見てるし。
さて、いよいよトークです。
豊島美術館オープン時のトークをYouTubeで見ていたので、正直どうなることかと心配していたのですが、今回は国立国際学芸員の島さんとの対談形式だったので、内藤さんもリラックスして話されていたように思います。
なんでも島さんとは25年もの付き合いだそうで、途中何度かおもしろい感じになってました。
特に今回内藤さんの希望で作品のスライドを一切使わなかったので、島さんがホワイトボードに作品の形態を描こうとするんですが、その図がお粗末だったのか、しばしば内藤さんから「それは何?」と叱咤されまくってました笑 それでも果敢に図解に挑戦する島さんもすごい!
トーク全体を聞いて感じたのは、内藤礼という人間の芯の強さでした。
もう、自分がやりたいことは何が何でも貫き通すあの姿勢はすごいです。
特に90年代の頃の、観客が一人でしか入れない作品たちは、会期中作家がずっとメンテナンスの為に張り付いていないといけなくて、1995年の国立国際での「見事に晴れて訪れるを待て」でも、会期の2ヶ月間ずっと大阪のホテルに住んで、メンテナンスし続けたそう。
当時の国立国際というと、まだ万博公園内にあって、来場人数もめちゃくちゃ少ない頃だったので、特に入場制限をかけなくても済んだそうですが、ヴェニスビエンナーレの日本館で発表された「地上にひとつの場所を」の時なんかは大変な騒ぎになって相当批判にさらされたそう。それでも作品と1対1というスタイルは固持し続けました。
ヴェニスと同時に開催されたドイツのカルメル会修道院での「たくさんのものが呼び出されている」でも、日本から行くのにわざわざ予約を取らないと見れないという徹底ぶり。
この頃の内藤さんの仕事を目撃した人は相当レアですね。
なにせ、これらの作品は作家が張り付いていかないといけないので、購入は不可能。
現在どこの場所にも存在せず、美術館にも収蔵されていません。
それでも作品のパーツはすべて保管しているそう。
島さんは、地面に置かれていない、「遠さの下、光の根はたいら」なら収蔵可能かもしれないと考えたこともあったそうです。
かつて中沢新一は彼女の作品を「暴力批判としての芸術の、もっとも徹底した形態」と評しましたが、彼女自身は、これらの作品に潜む暴力に気づき始めたそうです。すなわち、監視も置かず、観客にはすべて信頼してゆだねるのに対して、学芸員たちには一切触れさせないという矛盾。そして、作者自身が作っては消えていくものたちへの寂寞に少しずつ傷を負っていくということ。
それらの暴力を少しずつ自覚していった頃に舞い込んできたのが直島の家プロジェクトの依頼。
これまで消えていくものしか作ってこなかった内藤さんに依頼されたそのプロジェクトはなんと恒久設置作品。そんなことが果たして可能なのかといぶかしがったそうですが、いざ行ってみると、そのプロジェクトの真摯さにうたれ引き受けることになりました。
さらに、ここでも作品と1対1というスタイルは健在ですが、このできあがった作品「このことを」では、家の下に隙間があって、そこを通る人の気配や生活の音などがどんどん入っていくというのはこれまでの作品にはあり得なかったことでした。
他者というのを徹底的に排除していた90年代の作品に対し、これ以降積極的に他者を引き受けていきます。
大山崎や佐久島で行われた展覧会では、ワークショップすら開催するほど。
そしてこの辺りから作品のタイトルもシンプルになっていきます。
それまでのタイトルは個人的に結構好きだったんですが、これらのソースもこのトークで披露されました。
「遠さの下、光の根はたいら」は、当時知人の紹介で知り合った詩人の佐藤みちお(漢字不明)さんの詩の中にあった言葉だそう。「地上にひとつの場所を」はゴダールの「右側に気をつけろ」の中での台詞からの引用だとか。意外ですね。
今はほとんどの作品に「母型」というタイトルをつけてますね。
これは発電所美術館で行われた展覧会から現れてきた言葉で、豊島美術館の作品も同タイトル。
彼女の作品には「地上」という言葉がよく出てきますが、僕は彼女の作品の中にいる時に、むしろ自分がどこにいるのか、今がいつなのか、といった場所性や時間性から完全に解放される感覚があります。自分が無になるというか、本当に凄まじい感覚ですね。
特に豊島美術館はそうで、あれは1日中いても全然問題ないと思う。
内藤さんは、開館と同時に入るのがおすすめと仰ってました。
10分位は何もない状態からスタートし、続々と地下から水が這い上がっていく光景が繰り広げられるとのこと。また夕方の西日がコンクリートに反射するのも美しいとのことなので、結局一日おらなあかんやん!って笑
また行きたいなぁ。色んな気候で楽しみたいですね。
あと、2009年に開催された神奈川県立近代美術館で行われた展示でも新しいことが起こっていて、それは具象的なモチーフを導入したこと。これまで内藤さんの作品には具体的にものは使っているものの、具象的なモチーフは一切省かれていました。しかし神奈川近美では、プリント柄の布や風船、顔に見立てたボタンなど、今までではありえなかったモチーフがいくつか登場していました。
内藤さんの中でこれらのことは今でも整理中で、これからどう結実していくかを見届けているところなんだとか。
僕は見てませんが、昨年末の東京の個展でも、小さな木の人形の彫り物が登場したらしく、以降NYのグループ展や今現在ベルリンで開催中の個展でもたくさん登場していて、今で300体ぐらいあるそう。めっちゃ気になる!
これからどういう方向に内藤さんが向かっていくのか非常に楽しみです。
<関連記事>
豊島美術館 by 内藤礼+西沢立衛
内藤礼「すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」@神奈川近美鎌倉
直島 再々訪
内藤礼「母型」@ 発電所美術館
ところで、最近国立国際美術館元館長の館畠さんのインタビューが公開されました。
いくつか興味深い部分もあるのでおすすめです。ちょっと長いですが。
日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ 建畠晢インタヴュー1
日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ 建畠晢インタヴュー2
これは国立国際の30周年を記念して全館使って開催中の「コレクションの誘惑」展の関連企画で、この展覧会の関連企画は異常に豪華。
歴代館長たちによるシンポジウムに始まり、「写真の現在」と題されたシンポジウムは2日間に渡り超豪華メンバーで繰り広げられました。特に後者は両日とも整理券は一瞬でなくなったそうですね。このシンポジウムシリーズは、「もの派再考」展時の「野生の近代」や「絵画の庭」展時の「絵画の時代」などと並ぶ、国立国際が力を入れてるもので、どれも本となって販売中です。この「写真の現在」も秋には刊行予定とか。
アーティスト・トークも充実。小沢剛さんや伊藤存さん。そしてこの内藤礼さん。
内藤さんのトークって中々ないので、これは外したくないと思っていました。
ってことで気合い入れて会館30分前に着きましたが、それでも7番目。強い。
まあ、とりあえず先着130名にはもれずに済んで一安心。
トークの14時まで近所で時間をつぶしました。
ちなみにコレクション展は見てません。もう何回も見てるし。
さて、いよいよトークです。
豊島美術館オープン時のトークをYouTubeで見ていたので、正直どうなることかと心配していたのですが、今回は国立国際学芸員の島さんとの対談形式だったので、内藤さんもリラックスして話されていたように思います。
なんでも島さんとは25年もの付き合いだそうで、途中何度かおもしろい感じになってました。
特に今回内藤さんの希望で作品のスライドを一切使わなかったので、島さんがホワイトボードに作品の形態を描こうとするんですが、その図がお粗末だったのか、しばしば内藤さんから「それは何?」と叱咤されまくってました笑 それでも果敢に図解に挑戦する島さんもすごい!
トーク全体を聞いて感じたのは、内藤礼という人間の芯の強さでした。
もう、自分がやりたいことは何が何でも貫き通すあの姿勢はすごいです。
特に90年代の頃の、観客が一人でしか入れない作品たちは、会期中作家がずっとメンテナンスの為に張り付いていないといけなくて、1995年の国立国際での「見事に晴れて訪れるを待て」でも、会期の2ヶ月間ずっと大阪のホテルに住んで、メンテナンスし続けたそう。
当時の国立国際というと、まだ万博公園内にあって、来場人数もめちゃくちゃ少ない頃だったので、特に入場制限をかけなくても済んだそうですが、ヴェニスビエンナーレの日本館で発表された「地上にひとつの場所を」の時なんかは大変な騒ぎになって相当批判にさらされたそう。それでも作品と1対1というスタイルは固持し続けました。
ヴェニスと同時に開催されたドイツのカルメル会修道院での「たくさんのものが呼び出されている」でも、日本から行くのにわざわざ予約を取らないと見れないという徹底ぶり。
この頃の内藤さんの仕事を目撃した人は相当レアですね。
なにせ、これらの作品は作家が張り付いていかないといけないので、購入は不可能。
現在どこの場所にも存在せず、美術館にも収蔵されていません。
それでも作品のパーツはすべて保管しているそう。
島さんは、地面に置かれていない、「遠さの下、光の根はたいら」なら収蔵可能かもしれないと考えたこともあったそうです。
かつて中沢新一は彼女の作品を「暴力批判としての芸術の、もっとも徹底した形態」と評しましたが、彼女自身は、これらの作品に潜む暴力に気づき始めたそうです。すなわち、監視も置かず、観客にはすべて信頼してゆだねるのに対して、学芸員たちには一切触れさせないという矛盾。そして、作者自身が作っては消えていくものたちへの寂寞に少しずつ傷を負っていくということ。
それらの暴力を少しずつ自覚していった頃に舞い込んできたのが直島の家プロジェクトの依頼。
これまで消えていくものしか作ってこなかった内藤さんに依頼されたそのプロジェクトはなんと恒久設置作品。そんなことが果たして可能なのかといぶかしがったそうですが、いざ行ってみると、そのプロジェクトの真摯さにうたれ引き受けることになりました。
さらに、ここでも作品と1対1というスタイルは健在ですが、このできあがった作品「このことを」では、家の下に隙間があって、そこを通る人の気配や生活の音などがどんどん入っていくというのはこれまでの作品にはあり得なかったことでした。
他者というのを徹底的に排除していた90年代の作品に対し、これ以降積極的に他者を引き受けていきます。
大山崎や佐久島で行われた展覧会では、ワークショップすら開催するほど。
そしてこの辺りから作品のタイトルもシンプルになっていきます。
それまでのタイトルは個人的に結構好きだったんですが、これらのソースもこのトークで披露されました。
「遠さの下、光の根はたいら」は、当時知人の紹介で知り合った詩人の佐藤みちお(漢字不明)さんの詩の中にあった言葉だそう。「地上にひとつの場所を」はゴダールの「右側に気をつけろ」の中での台詞からの引用だとか。意外ですね。
今はほとんどの作品に「母型」というタイトルをつけてますね。
これは発電所美術館で行われた展覧会から現れてきた言葉で、豊島美術館の作品も同タイトル。
彼女の作品には「地上」という言葉がよく出てきますが、僕は彼女の作品の中にいる時に、むしろ自分がどこにいるのか、今がいつなのか、といった場所性や時間性から完全に解放される感覚があります。自分が無になるというか、本当に凄まじい感覚ですね。
特に豊島美術館はそうで、あれは1日中いても全然問題ないと思う。
内藤さんは、開館と同時に入るのがおすすめと仰ってました。
10分位は何もない状態からスタートし、続々と地下から水が這い上がっていく光景が繰り広げられるとのこと。また夕方の西日がコンクリートに反射するのも美しいとのことなので、結局一日おらなあかんやん!って笑
また行きたいなぁ。色んな気候で楽しみたいですね。
あと、2009年に開催された神奈川県立近代美術館で行われた展示でも新しいことが起こっていて、それは具象的なモチーフを導入したこと。これまで内藤さんの作品には具体的にものは使っているものの、具象的なモチーフは一切省かれていました。しかし神奈川近美では、プリント柄の布や風船、顔に見立てたボタンなど、今までではありえなかったモチーフがいくつか登場していました。
内藤さんの中でこれらのことは今でも整理中で、これからどう結実していくかを見届けているところなんだとか。
僕は見てませんが、昨年末の東京の個展でも、小さな木の人形の彫り物が登場したらしく、以降NYのグループ展や今現在ベルリンで開催中の個展でもたくさん登場していて、今で300体ぐらいあるそう。めっちゃ気になる!
これからどういう方向に内藤さんが向かっていくのか非常に楽しみです。
<関連記事>
豊島美術館 by 内藤礼+西沢立衛
内藤礼「すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」@神奈川近美鎌倉
直島 再々訪
内藤礼「母型」@ 発電所美術館
ところで、最近国立国際美術館元館長の館畠さんのインタビューが公開されました。
いくつか興味深い部分もあるのでおすすめです。ちょっと長いですが。
日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ 建畠晢インタヴュー1
日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ 建畠晢インタヴュー2