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クシュトフ・ヴォディチコ講演会@同志社大学今出川キャンパス明徳館1番教室


クシュトフ・ヴォディチコ氏の講演会に行ってきました。
なんという名前だ・・・舌を噛み切りそうです。
ヒロシマ賞の際はウディチコという表記だったのだけど。
それはともかく、今回の講演会は24日から京都近代美術館で秘蔵のコレクションを一挙に公開する展覧会「マイ・フェイバリット」に氏の作品が展示されるので、それに合わせて来日しプレイベントとして開催されました。
中々貴重な機会なので、是非作品の背景にある思考に触れたい一心でした。

ヴォディチコ氏と言えば、前述のヒロシマ賞展での原爆ドームを使ったプロジェクションワークが日本では有名ではないでしょうか。
被爆者の方々に証言をとり、彼らの手を原爆ドームの下の部分に投影することで、原爆ドーム自体が語っているように見えるという作品。
実際に見ていませんが、涙が出る程の迫力です。
この作品のすごいのは、やはり証言者が日本人に限られていないということ。
特に在日の被爆者の方々の証言は想像を絶するものがあります。
戦後日本の闇の部分を見事に暴いてます。
こうした社会的に抑圧された人々の声を作品を通して社会に知らしめるのが彼の仕事の特徴と言ってしまっていいでしょう。
このヒロシマ賞の時はさらに「ディスアーマー」という作品も制作していて、悩みを抱える中高生にその機械を装着させ、背中についたモニターに彼らの目が映り、スピーカーで声が流れます。
面と向かっては言えないことも、背中越しになら伝えられる。
こうした繊細な部分をも丁寧にすくいあげる仕事をしています。

講演会の冒頭でまずどういう思考の元で作品が作られているのかが語られました。
その内容が非常にアカデミックというか、理解するのが大変でした。
まず「ドメイン(領域)」という考え方です。
これは場所や空間などの物理的領域のことではなく、精神的、或は社会的な領域を差し、このドメインをどれだけ内包するアビリティ(能力)を有するかが社会の器の深さに繋がっていくのだということ。そのドメインを拡張することこそが彼の作品の目的であるということ。
またシニックという古代ギリシャ、ローマの人々のことが語られます。彼らはオープンに思っていることを口にすることができた人々で、今では禁欲主義的な学派(犬儒学派)として研究されています。
さらにパレーシアという単語が出てきました。wikiによると・・・
古典修辞学で、包み隠さず話すこと、あるいは、そう話す許しを得ること。言論の自由だけでなく、危険を冒してでも公益のために真理を話す義務をも意味する。
このパレーシアになれない人々の為に作品があるのだということ。
また、作品はあくまで媒体であり、そのものに意味があるわけではないこと。
そこで語られたのが「絆創膏」のお話。
絆創膏や包帯というのは、もちろん実際的に傷を治す役割があるが、同時に周囲に自分はケガをしているということを知らせる役割があるのだという話。
作品もその絆創膏や包帯の役割を担っていて、彼らがそれを持ち運んだりすることで、周囲は彼らに興味を示し話を聞く。
ホームレスの人々の為のシェルターや、移民の為の杖など、そうした作品を数多く作ってきた背景にはそういうことがあるようです。
ただ、それはあくまできっかけでしかなく、作品は譲渡されるのではなく、その作品がなくなっても彼らが自分達の主張を発し続けることこそが重要なのだと強く仰ってました。

プロジェクションの作品では、パブリックの場所に投影することで、彼らの声がいやおうなく聞こえて来るわけですが、僕は単純にこれらのプロジェクションの美しさも彼の作品における重要な要素だと思っていて、彼はただの媒介だというけれど、やはり美術作品として美しさを備えているから人々は耳を傾け足を止めるのだと思います。
スイスのバーゼル美術館でのプロジェクションは屋上付近に4人の足が登場して、何やらを語り始めます。それは自分達が不法滞在者であることを暴露する内容なのですが、最初の登場から最後の退散まで、何気ない所作が際立って見えるんですよね。足をぶらつかせたり、手をもじもじさせたり、人は知らず知らずのうちに全身で語っているのだということを思い知らされます。
前述の広島での「ディスアーマー」も目がとても重要で、「目は口ほどにものを言う」とはよく言ったもので、その情報量たるやかなり大きいです。涙を潤ませたりきょろきょろしたり。
こうした身体の部分だけを映したプロジェクションは身体と心の動きまでも捕らえているようで本当にすばらしい作品です。
またアフガニスタンから帰ってきてPTSDになった人々の証言を陸軍の車のミサイル発射台にプロジェクターをとりつけ言葉の弾丸を壁にぶつける作品もありましたが、彼の作品の広がりに驚きました。
皮肉なことに、社会的に抑圧された人々がいる限り彼は作品を作り続けるのですね。

近美の展覧会では昨年のヴェニスビエンナーレのポーランド館で発表された作品が展示されます。
これは、今まで建物の外部で発表されてきたプロジェクションワークの室内版で、部屋の中にいくつもの大きな窓が投影されます。
その窓は磨りガラスになっていて、その向こうには人々が働く様を映している。
彼らは皆移民で、誰より懸命に働いているのに、自分達の主張もうまく聞いてもらえない人々。そんな彼らの声が重なりながら会場にこだまします。
昨年日曜美術館でやなぎみわさんの特集を映した時に彼女が心から感動したといって少しだけ映っていたのだけど、それがものすごく綺麗で、見てみたい!と思ってたので今からかなり楽しみです。
窓のない美術館に窓を開ける。素晴らしい発想ですね。

最後の質問コーナーで僕は彼のここまで社会的弱者に耳を傾ける真摯な態度を続けるには何かバックボーンのようなものがあるのではないかと質問しました。
こういう作品は、結局アーティスト個人の作品として発表されるので作家の自己顕示欲の為に弱者が利用されているだけではと勘違いされる場合があります。(実際そう思う作品も数あまたあります)
でもヴォディチコ氏の作品からはそういったものが読み取れない。
というかヴォディチコ氏自身が作品から姿を消している印象すらあります。
そこには何かあるのではないかと思ったわけです。
実際人々に告白させるような作品を作っているわりに、自身についてあまり語ることのないヴォディチコ氏。そんな彼が特別に語りにくいであろうことを語ってくれました。
まず、自分が作品を作るのはあくまで「人は誰かの助けになりたいという気持ちがある」というのを念頭に置いてほしいとのこと。
そこから彼の生い立ちに移ります。
彼はポーランドという、かつては民主主義ではない国に37年間過ごしました。
それから彼はカナダ、アメリカへと移住するのですが、実際3つのパスポートを持っていて、自分の国家的アイデンティティのゆらぎに対して思う所が大きいそうです。
そして彼の母親はユダヤ人であるということ。
広島のプロジェクションの証言をとっている際、在日の人々の中に母親と同じ目を見たそうです。彼はその目を作品を通してたくさん見ることになります。
やはり、あの鬼気迫ったような表現は彼の根っこから来るものだったのですね。
語りにくい内容を真摯に語ってくれたヴォディチコ氏に感謝です。

今回の彼の講演会ではとても得ることが大きかったように思います。
彼の作品があそこまで魅力的な理由。
それはやはり自分の根源から作品を作っているからなんでしょう。
近美の展示、とても楽しみです。
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