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アヴァンギャルド・チャイナ@国立国際美術館


今年、経済関連でBRICsという言葉が頻繁に使われていた。
Brazil(ブラジル)、Russia(ロシア)、India(インド)、China(中国)の頭文字。
これにSouth Africa(南アフリカ)が加わる事もあるらしい。
これらは近年目覚ましい発展を遂げている国々である。
このBRICsは美術界においても近年賑わいを見せている。(ロシアを除いて・・・)
今回偶然にもこれらの国々の美術を紹介する展覧会を一気に見る機会を得た。

まずは、国立国際で開催中のアヴァンギャルド・チャイナ展。
東京の新国立でもやってたのでご覧になった方も多いのではないだろうか。
今最も美術界を騒がせてるのがこの国の美術だ。
もう、中国人の作品ってだけで買手がついちゃうほどの人気。
この秋リニューアルしたサーチギャラリーもオープニングに中国現代美術コレクションを披露している。
同時にこの世界恐慌で最も打撃を受けてるのもこの国だろう。
今までそうやって売れてきたものが、全く売れなくなってしまってるらしい。
個人的には正直ホッとしている。
はっきりいって、それらの売れてる中国作品は本当に醜悪としか言いようがない
自分たちの国家アイデンティティを切り売りしているだけの安っぽいものでしかない。
この世界恐慌でそれらがうまく淘汰されればと思っている。
そんな感じで、この展覧会もそういった美術が並ぶものだと思って、ちょっと油断していた。
前半は確かにそうだった。僕の描く中国の安っぽい美術たち。
しかし後半。ジャン・ホァン(漢字が出ない・・・)の作品からがらっと空気が変わる。
今まで馬鹿にしたにやけ笑いで回ってたのに、いきなり笑えなくなる。
彼のパフォーマンスの鬼気の迫り方は半端ではない。
蠅を体にたからせたり、宙づりにされて血を抜かれたり。
裸の男達が池に入って水位を少しだけ上げるパフォーマンスも美し過ぎる。
「あれ?おかしいな。なんやこれ?」
その異変に気づくやいなや飛び込んでくるのがヴェニスで見た楊振忠(ヤン・ジェンジョン)による「I will Die」である。
「やられたーーーー」
はい、やられてしまいました。
この作品改めて見てもいい。この不安感が今の世情を表し過ぎ。素晴らしい。
そして徐震(シュー・ジェン)による「フィットネス」
様々なトレーニングマシーンが組み合わされた彫刻で、黒服の監視員たちが無表情でリモコン操作で動かしてる様はおかしくて仕方なかった。なんでもこれ一時間に3分だけ動かしてるらしくて、たまたまそれに遭遇できたのはラッキーだった。
お次は最年少のツァオ・フェイの映像。
街の人々がいきなりヒップホップやってる笑
次の階に行くと、多分この展覧会の目玉、スン・ユァン&ポン・ユゥの「老人ホーム」。
本物そっくりな色んな国の服着た車椅子の老人達が衝突を繰り返しながらゆっくり辺りをさまよっている。なんとも奇妙な光景・・・。でもこれが世界の縮図なのかも。
彼らは「死体派」と呼ばれる美術家で、実際本物の死体を使うこともある。
実際前に写真で見た時、モノホン屍体が使われててどうなってるん?と思った。
中国では未だにこうした屍体が簡単に手に入るらしい。。。恐ろしい。
今回は偽物なんでご安心を。
次の部屋と隔てる壁に穴が開いてて覗くと・・・。ちょっとびっくりする。
その正体は次の部屋で明らかに。あれビンさんやんね?
奥では楊福中(ヤン・フードン)の映像インスタレーションが8面スクリーンで。
いつもこの人の作品は苦手なんやけど今回はとてもよかった。
ストーリーがあるのかないのか。8面の映像はつながってるのかつながってないのか。
この曖昧な感じ。そして意味ありげな音楽がいい感じやった。
8面スクリーンのスペクタクルも見物。
ってなわけで、終わる頃にはすっかり楽しんじゃってたわけです。
今回は「文化大革命」など、中国のアカデミックな部分も展覧会中に組み込んでたのが良かったし、後半の「中国」って枠にとらわれない作品をバンバン取り入れてたのは本当に良かったと思う。
いやー、してやられたー。来年3月22日まで。悔しいがおすすめ。
にしても名前が覚えられん・・・んー・・・
同時開催中の新国誠一もおすすめ。
漢字をこうも自由に記号化してみせる手腕はお見事。

「チャロー!インディア」@森美術館

「チャロー」とはインドの口語的表現で「行こうよ!」って意味らしい。
ちょうどこの展覧会が開催される時にインドでテロがあって、誰が行くか!とつっこんだもんだ。
ってことで、こちらはインドの現代美術。
これもあまり期待してなかったけど、中々面白い展覧会やった。
出品作品数が半端ないのでひとつひとつ取り上げるわけにはいかないが、中々の質の揃った展示。
これだけリサーチして展示に漕ぎ着けるまでには中々大変やったろうなぁと。
お気に入りはシルバ・グプタのインタラクティブな映像作品。
自分の影に色んな物体が付着していって、最後にはわけわかんない塊になる。
逆に今もっとも注目されてる、金属鍋などを使った作品で知られるスポード・グプタがしょぼくてがっかり。
でもまあ、100点以上並んでいながら最後まで飽きさせることのないこの展覧会はすごい!
インドの現代美術を知る上でも中々面白い展覧会。来年3月15日まで。

「ネオ・トロピカリア」@東京都現代美術館

長谷川祐子のキュレーションで話題の「ネオ・トロピカリア」
こちらはブラジル現代アート。
正直今回3つの中で最も期待して、最もおもんなかった展覧会。
多分長谷川さんのエンターテイメント性に溢れたキュレーションとブラジルの底抜けに明るいイメージがシンクロし過ぎた結果やと思う。おかげで期待以上でも以下でもない至極収まりのよい展覧会になってしまってた。もっと冒険があってもよかったな
逆にアカデミックにお固くブラジルを語って見せた、数年前の「ブラジル・ノスタルジア」は良い意味での裏切りもあって、すごく面白い展覧会やった。
期待してたアトリウムにおけるネトも、やっぱパリで見たかったなーという思いが募るだけやったし。
リジア・パペの糸を張った展示と、リヴァーニ・ノイエンシュヴァンダーの蟻や魚を使った映像はおもしろかったけどね。あと途中でマンゴジュース出してくれるのもよかった。作品自体はどうしょうもないけど。
にしても前回の名和さんの展示室そのまま使ってるのどうかと思った。
この展覧会より、同時開催の森山大道とミゲル・リオ=ブランコの写真展や、藤原大とカンパナブラザーズのブラジルをテーマにした展示の方が断然おもしろい。
前者は日本人の森山がブラジルを撮り、ブラジル人のミゲルが日本を撮り、白黒の森山に対してカラフルなミゲル、人を撮る森山に対して物を撮るミゲル、といった風に両者の対比がとてもわかりやすい展示。壁も森山の壁は白く、ミゲルの壁は色がついてると言った風に。
後者の藤原の色とりどりの糸が織りなす衣服も美しかったし、カンパナブラザーズの葉っぱがスピーカーになって、耳を当てると音楽が聞こえるのはびっくりした。
これら全て1月12日まで。


今回ざっと話題のBRICsを観てみて、これで評価してしまうのは早合点やと思う。
やっぱ展覧会としての質ってのが大きいと思うし、今回面白いと感じた中国、インドにしても、1つの国をテーマにしながら、その国に縛られていない展示が功を奏した結果やと思うし、逆にブラジルは、そのイメージを素で行き過ぎたための失敗やと思う。
グローバル化が叫ばれてる昨今で、もうナショナリズムは単純に古い。
いかに国や民族に縛られずに仕事ができるかが大きな鍵となると思う。
アートバブルが弾けた今だからこそ、本当におもしろい作品こそが生き残ると期待している。
ちなみに先月のPENが「世界のアートシーン」を取り上げてた。
この内容が半端なくて、某美術専門誌B手帖の無能っぷりが証明される。
しかもPENは550円!かたやBは1600円。誰が買うねん。
にしてもPENってどこの層を目指してるんやろ・・・。今月の特集は「いちばん美味しい居酒屋はどこだ?」笑
節操ないというか、雑誌生き残り戦争に残るには固定層だけでは駄目ってことなんかな。
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