アニエス・ワイルダー"Collider"@ARTCOURT GALLERY

いつの間にやら随分間が空いてしまいました。生きてます。
ここ数日で回った大阪の展覧会をまとめてご紹介。
まずはアートコートのアニエス・ワイルダー展。
彼の作品は、3年ほど前、なんとなしに立ち寄った同ギャラリーで開催されてた個展で初めて見た。
ギャラリーに入るとギャラリーの人より、くれぐれも作品に触れぬよう注意される。作品に触れないのは当然じゃないか、と思いつつ奥に進み、その真意がわかった。
彼の作品は、木の板を組み合わせた非常に建築的な作品だが、実はそのひとつひとつは釘も接着剤も使わずに絶妙なバランスで成り立っていたのである。しかもその大きさたるや、人が中に入れちゃうぐらいの大きさなのだ。
触れれば一気に崩れてしまうその危うさ。
地震なんて起こったら一発である。この地震大国日本でよくもまぁ・・・。
しかしその緊張感がなんともいえない心地よさを与える。
なんとなくサラ・ジーの作品にも通ずるところがあるけれど、幾何学的なフォルムや木の色のみという素っ気なさといい、なんとも日本人が好みそうな作品である。スコットランドの作家だそうだが、ヨーロッパの作家にしては希有な存在と言えよう。
そしてなんといってもこの作品のクライマックスが最終日。
作家がなんと蹴って倒すのである笑
それがまあ綺麗に崩れていくので気持ちいいのなんの。
そんな彼の作品がまた観られるというので、公開制作も観に行ってきた。
制作現場はこれまたすごい緊張感で満たされている。
なんかドミノを作ってる様な感覚。1つ失敗すればふりだしの世界。
異常な緊張感の中、ワイルダーと助手が気の遠くなる様な作業を非常に遅い速度で進めている。
10分ぐらい見てたんやけど、ほとんど進展がなく笑
仕方なくその日は帰ってまた後日完成品を観に行きました。
完成したそれは、天井に届かんばかりの高さの球体。
いやぁ、お見事。すばらしいです。
残念ながら今回は球体というそのフォルム故、ラストのキックはないそう。
確かに蹴り倒したら作家巻き込まれちゃうしね笑
その他にも過去作品の模型やらも展示されてて、十分に楽しめます。おすすめ。
同時開催でACG Eyesという若手のグループ展もやってます。
中でもヒットはおもちゃのアヒルが部屋から外に延々と延びた筒を流れて最後は湖まで到達する映像。これがクラシックの曲(有名なんやけど誰の曲かわからん)に乗せて繰り広げられる。この曲と映像がびっくりするぐらいマッチしてて笑えます。誰の作品だったのか謎。この展覧会、なぜかキャプションがないんです・・・。
神戸アートアニュアルなどにも出品していた金澤真由子さんの作品は、羊の群れのドローイングを使ったアニメーション。その原画となったドローイングも一緒に展示されてたんやけど、こっちのクオリティが半端なくて、もしかしたら映像よりいいんじゃないの?と。
アニエス・ワイルダー展は12月13日まで。ACG eyesは12月26日まで。日・月・祝日休み。
Black State @ StudioJ
名和晃平とその学生による展覧会。
なぜか、うちのアトリエメンバー田中真吾も紛れ込んでます笑
「黒」をテーマに名和さんはノマルでも見せたラインドローイングを。
田中氏は紙を幾重にも重ねて燃やした立体2点。
小宮太郎君は、鉛筆と羽、黒い絵の具が高速回転している作品。
スパイラルで先日優勝した藤井秀全君は、偏光板によって七色に見えるセロファンテープを。
それぞれ表現は異なるものの、互いに邪魔することなく全体として調和が保たれてました。
今回メインとなってる藤井君のは単純に綺麗でした。美術を字義通りやってる感じ。彼の作品は、堀江のアーバンリサーチでも展示されてるそうなので興味のある方は是非。
でもまあ、可もなく不可もなくって感じの展覧会です。今月29日まで。日・月曜休廊。
gallerism2008@大阪府立現代美術センター
大阪のギャラリーが一同に会して同じ場所で一押し作家の展示をする企画。
まあ、半分以上は観なくてもいい展示でしたが、その中でもwksの牛島光太郎さんの作品はよかった!
オブジェと文章を刺繍で施された布がセットになってるんやけど、そのオブジェが笛だったり、砂利だったりホントに他愛のないもので、その刺繍がそれにまつわるエピソードになってる。
文字とオブジェのセットの作品って文字が強すぎてうまくいかない場合が多いんやけど、今回の展示はそれぞれがいい感じに補い合ってるというか、すごく見ていて心落ち着く感じやった。多分、刺繍っていうのが良かったんやと思う。それによって、文字もまたオブジェ化しているので、文字という具体的なものの強さを抑えられたんじゃないだろうか。なんにせよとてもよかったです。
期待してたギャラリー白からの増田敏也さんの作品はあんまりでした。
低画質のjpegイメージを立体にした陶の作品で、以前にもCG模型を立体化した陶の作品を展示しているのを見ていたので、写真で見る限り面白い展開だと思ったんですが、なんでかぐっと来ませんでした。
なんか写真になることによって、平面→立体→平面というプロセスを経ての面白さやったのかも。
増田さんの作品は来週24日から29日まで西天満のギャラリー白で展示されます。
あと知り合いの作家さん山岡さんもH.O.Tから出品されてた。
今回は現美センターまでせり出した「グチック」が床から現れたという設定。
つい立ての隙間を覗くと、黒い塊が床からニョキッと生えてるように見える。
でもこのつい立てが惜しかった。センターにあったやつなんやろうけど、単純に汚い。
やっぱ改めて作るべきやったんじゃないかな、と思う。
あと、矢印は要らなかったと思う。なんか恣意的すぎてどうにも・・・。
多分なくても気づくと思うし、気づかれなかったら気づかれなくて良いんやと思う。
もう少し観客に自由を与えるぐらいの余裕がないと、「見てくれ」という必死感が伝わってしまって、あまり純粋に観られなくなる危険性が高い。観客に発見させるささやかな喜びを残しておいてほしかったです。
そんな山岡さんと帰りばったり会って、4週連続搬入搬出という過酷さでボロボロになっておいででした笑 また期待してますよー。
そのギャラリズムに出ていた西天満のギャラリーを何個か今週回りました。
上村和夫@ギャラリーH.O.T
鉛筆で数字や文字を何度も上書きすることによって真っ黒になっていくドローイング。
白と黒のコントラストが美しかった。気の遠くなる様な作業の集積も力。
せかっく白と黒の世界なのに、花束を作品の下に置くのはどうかと思った。
大村大吾「time・point of view」@ギャラリーwks.
木が川のように流れている。
釣り針が垂れ下がっている。
鉄枠に麻糸を巻いたものが立てかけられている。
石が置かれている。
一見何の関連性もないこれらに、最後まで関連性を見いだす事ができなかった笑
オーナーさんともこれは一体なんだろうね?という会話に。
経歴を見るとやっぱり彼も彫刻畑出身。前の記事の大西伸明展の時に感じた、彫刻家とインスタレーションの関係がここでも。やっぱオブジェの集まりでしかないんですよね。
にしても最近成安大学出身の作家さんが気になる。
彼もそうだし、前述の牛島さんもそうやし。何かあるに違いない。
杉山卓郎「Hyper-Geometrism」@YODギャラリー
ギャラリズム出てないけどこれも西天満のギャラリー。初訪問。
今回の展覧会が何かと話題になってたので行ってみた。
タイトル通り、色とりどりの幾何学が組合わさった複雑な絵画。一見CGにも見えるんだけど、やはり気の遠くなる様な手仕事。この仕事量も見物だけれど、僕はこの色使いに惚れました。見ていてとても気持ちよくなる色使い。爽快な気分になれました。
ちょっとザハの所期のドローイングにも似て、建築好きな人は絶対好きな絵ですね。
定規を使わずフリーハンドで書いたドローイングの精密さもすごい・・・。
これらの展覧会は全部29日まで。
この辺のギャラリーに行くと同年代の作家の仕事が見れるから刺激になる。
寺田就子「窓ごしの空色」@itohen
こんなとこにギャラリーがあったのかという所。梅田と中津の間くらい?
寺田さんの仕事は何度か見ていて、もう何年も見てなかったので久々の再会。
ほとんどの作品サイズは手のひらサイズ。
使われる素材も鉛筆や分度器など身近なものばかり。
その小さな世界が魅力なのだけど、改めて見ると地味すぎました・・・。
なんだか、もうそれでは満たされなくなってる自分に気づいて悲しくなった。んー。
片桐功敦「凍土の星」@PANTALOON
笹倉さんの展示に続き2回目パンタロン。すっかりお気に入り。
片桐さんは華道家の方。
一ヶ月の展示ってことで、花は枯れてしまうので、違った展開を試みてた。
まずメイン展示空間には、縄文土器のようなでっかい器に脱穀されたカスが溢れんばかりに入れられ真ん中に鏡。その床はタイルで、赤い足跡が。天井には何かを燃やした跡。2階には中が空洞になった石。別展示室には寝転んで見られる落ち葉を貼付けたオブジェが。
なんかわけわかんないまま、オーナーさんに色々話を聞いたんだけど釈然としない。
本人は、これも華道の一環としてやってると仰ってるようだが本当にそうなんやろうか?普段美術作品が展示されるギャラリーでやるってことで、少しでも「アートっぽい」ことを目指してしまったのではないだろうか。どうにも地に足ついた表現には見れなかった。なんにせよ全体的に散漫過ぎるし。足跡に関してもパフォーマーにダンスしてもらってつけてもらったそうだが、てっきりオープニングとしてやったのかと思いきやさにあらず。展示中に客もいない時にやったのだとか。それってどうなんやろ。
オーナーとの話の中で片桐さんが堺の方でギャラリーもやってて、今左官職人さんの展覧会がやってると聞いたので、このもやもやが少しでも解消できるかと思って行ってきた。
久住有生「土の風貌」@主水書房
朝一で行ったら片桐さん本人が現れて焦った。彼の家も兼ねてるらしい。
なんかばたばたしてはったから、お構いなしに展示室へ。
畳の和室が大きく左官諸君の手に寄って変貌させられてた。
なんか土でできた大きな突起がいくつも展に向けて突き上げられてる作品をメインにいくつか展示されてた。
これもまた、前日パンタロンで感じた違和感を拭い去ることができなかった。
一体これはなんなのだろう?
アートといってしまってよいのだろうか?
この作者はこれを何だと思って作ったのだろう?
僕には到底理解できなかった。
最近「ジャンルの横断」というのが流行みたいやけど、僕はその考えにすごく否定的だ。
特に美術はもうその裾野を広げすぎて、わけわかんない領域まで来てしまってる感じがする。
アメーバーのように形を失ったそれは、いつか広げるだけ広げた結果、自分自身をアイデンティファイできなくなる日が来るんじゃないかとすごく心配している。そろそろ美術は改めて自己のアイデンティティを見つめ直す時なんじゃないだろうか。
華道家や左官職人の得体の知れない作品群を観て、改めて思った。
もちろんこれを了簡の狭い人間の意見だと聞き流してくれてもよいのだが、やはり僕にはあれを美術と呼んでしまえる自信がないのである。
得体のしれないといえば、この主水書房の近くに仁徳天皇陵があって、あのただただでかい全貌の捉える事が不可能な塊は、とても気持ちいい感覚だった。