塩田千春「精神の呼吸」@国立国際美術館

関西では、3年前の京都精華大学での展示以来、2度目の塩田千春の個展。
地元大阪での個展ということもあって、塩田さん自身感慨深いものがあるんじゃないでしょうか。
ドイツに10年以上住み、ヨーロッパを始め、中東、アフリカ、アジア、アメリカと、それこそ世界中を年に何本も展覧会を行ってきて、まるで旅芸人のようだと以前インタビューでも答えてらっしゃいました。
こんなエピソードがあります。
ドイツで初めて師事したパフォーマンス作家のアブラモヴィッチの授業で、お城に籠って断食のようなことを1週間続けるという過酷な体験があったそうです。
最終日の早朝、いきなりアブラモヴィッチが部屋に入ってきて
「千春!この紙に何か書いて!」
といきなり言われたそう。
断食の空腹と眠気で意識も朦朧とした中書いた言葉。
「日本」
海外で生活していると、どうしても故郷を忘れずにはいられないこともあります。
しかし、故郷というのは皮膚に染み付いて決してとれることのない記憶。
それから彼女は「Bathroom」という作品を制作します。
自宅の風呂で、泥をかぶる作者自身。
洗っても洗ってもぬぐいきれないもの。それが故郷の記憶なのではないでしょうか。
この後横浜でも発表した泥のドレスに発展していきます。
そんな故郷でのこの展覧会は、彼女自身今回の展覧会に寄せた文書にも書いているように、何かの転機になるような展覧会になるのではないでしょうか。(ちなみにこの文書にはこの展覧会が決まって3年以内に彼女の身に起こった壮絶な出来事がたくさん書かれています。詳しくは国立国際美術館ニュース166にて)
6月19日から27日までの間、この展覧会のお手伝いをさせていただきました。
一度で良いから是非手伝ってみたい!と思っていたので念願叶ってといった感じ。
この展覧会を知ったのは2年程前で、ずっと楽しみにしていたので、ボランティア募集がかかった瞬間から応募しました。
それまで塩田さんには5年前大学に講演しに来た時にお見かけしたくらいで、何の面識もなかったのですが、失礼ながら、改めて、ホントにこの人が作者なの?と思ってしまいました。
シャイで大人しくて穏やかな女性。
これだけ壮絶で強烈な作品を作る作家とは、多分誰も本人からは想像つかないんじゃないでしょうか。
しかし、やはり今回の展覧会に出品される作品はどれもすごい強烈。
そんな作品を10日間かけてお手伝いさせていただいて、ホントに光栄でした。
まずは今回のメインとなる日本初出品の靴の作品。
1年半かけて集められた靴の数はなんと2130足!!
初日に全てを箱から取り出して並べた時には呆然としました。
これはポーランドやベルリンで発表した時より遥かに多い数字。
それに1つ1つ赤い糸を結びつけていくんですが、靴にはそれぞれその靴にまつわる持ち主のエピソードが縫い付けられていて、読みながら結んでいくのは楽しかったです。
「孫に買ってやったけど履いてくれなかった」
といったものから、
「父が生前、戦後間もない頃から大事に履き続けていた形見です」
といったものまで。
2130人の記憶が分ち難く結ばれていく。
ちなみに僕も一足寄付しました。ロンドンで買ったプーマの96hours。
ちゃっかり先頭に置いてきたので注目です!
この作品は、ちょうどエスカレーターで展示室向かうまでにパッと現れるのでインパクトはかなりあります。その下のモディリアーニ展を目当ての客もびっくりするんじゃないでしょうか。
同じ空間には、「トラウマ/日常」と名付けられた立体作品。
鉄枠の中に糸で閉じ込められた服など。
この浮遊間が亡霊のような雰囲気。どうやって作られてるんやろ。
そしてもう1つの大作「眠っている間に」。
これはホントに大変でした。。。
空間の中にとにもかくにも糸を編んで編んで編みまくるッ!
その中に病院のベッドが20台ずらーっと並べられてます。
もちろんそれらのベッドにも編みまくるッ!
お手伝いの大半はこっちの作業に費やされました。
おかげで本当に異常な空間が出来上がりました。
オープニングでは、そこに20人のパフォーマーがひたすら眠り続けるというパフォーマンスも行われました。
会期中はベッドの中には誰もいないんですが、そこに誰かが眠っていたという確かな痕跡が残ってます。それは枕の凹みであったり、シーツの皺であったり。
不在の存在がはっきりと浮かび上がるのです。
そしてこれまた同じ空間に横浜で展示された13mのドレスが垂れ下がってます。
今回はさすがにシャワーまではないですが、これも圧巻。
天井から吊り下げられてもまだ下に垂れてる・・・でかすぎ。
次の部屋ではこれまでの写真と映像の展示。
といった感じです。
今年の最も注目されるべき展覧会の1つであることは間違いないので是非!!
ちなみに僕はなんとか頼み込んで内覧会に招待してもらいました。
ベッドのパフォーマンスもその時に行われたんです。
にしても美術館の内覧会ってすごいですね。
まず立食パーティーなんかあって、ワイン飲み放題ですよ。
そんでもってモディリアーニ展も無料で見れちゃうし。
モディリアーニは初期の方が断然いいね。
オーストリア系の影響バンバンにでちゃってるけれど。
後半のいわゆるモディリアーニ的な絵はほぼスルーでした。
今回塩田千春展の行われてるB2では、石内都と宮本隆司のコレクション展も開催されてます。
最初、塩田さんだけでええやん!と思ってたけど、実際見てみると、何の違和感もなく塩田さんの展覧会から流れられるのはさすがと思いました。
宮本さんのベルリンの廃墟を撮った作品や、石内さんの皺だらけの老人を撮った作品が醸し出す雰囲気は、塩田さんのそれととてもマッチして素敵でした。
石内さんの広島現美の展覧会観に行きたい。。。
帰りには塩田さんの図録もいただけて、内覧会最高!
国立国際の会員になっておこうかしら。。。
なにはともあれ、是非足をお運びくださいませ。
大人420円、学生130円で見れます!学生うらやましすぎ。
僕も会期中何度か訪れる予定。
塩田千春「精神の呼吸」
7月1日(火)~9月15日(月・祝)
国立国際美術館