Pritzker Prize 2008
中西信洋「Halation」@nomart project space
オープニングの日、バイトを終えて文字通り駆けつけたのだけど、ちょうど終わったとこだった。中西さんとその奥さんで小生の先輩に当たる北城さんが現れたので、本能的になぜか隠れた。面識が少しではあるがあるにはあるので、なんとなく気まずかったんです。
ってことで広島から帰ってきたその日にリベンジ。
今回は中西さんが昔から取り組んでいる「ストライプドローイング」の展示。「ストライプドローイング」とは、ペンでストライプを描き、その余白が形を成して行くというもの。
中西さんの作品は概してその余白に本質がある。
彼の作品にはしばしばボイドが見られる。
彫刻出自の作家なので、彼なりの彫刻論というのがそこにあるんだろう。
今回のストライプドローイングだって、描いている所と違う所に形ができるという矛盾がおもしろい。
日本画などに見られる「間」とはまた違う「空」の形なのだと思う。
ロフトスペースにはそれらの版画作品。キューブには壁に直接行ったウォールドローイング。
驚いたのはキューブの方。今までその余白は概して抽象的なフォルムを描いていたのが、それは「森」であった。まるで木漏れ日のように漏れ出るストライプ。ドアが設置され、閉めて入ると真っ白な空間に観客は取り残されることになる。この体験は人のごった返すオープニングでは味わえなかったであろうので、あの日間に合わなくてよかったなどと言ってみる。にしても1人で味わうのがこの作品の醍醐味だろう。
以前中西さんは青森のレジデンスプログラムに参加し、その森に囲まれた環境は彼に大きな影響を及ぼしたと見られる。今回のウォールドローイングはその森の反映だと思う。
おもしろいのが、奥さんの北城さんも同じく最近森の風景を描いている。彼女の場合は岡山でのレジデンスが影響しているだろうけど。夫婦そろって同じ様な主題に取り組んでるのはおもしろい。お互い影響し合える仲なんでしょうね。
ちなみにその北城さんは4月1日から26日まで銀座のINAXギャラリーで展示があります。
あとは、ロフト2階にレイヤードローイングの映像バージョンがあった。時間をずらして撮った映像を重ねて行くというもの。昨年ギャルソンの店頭でショーの映像を組み合わせた作品を発表したらしい。
でもこっちは微妙な感じでした。4月19日まで。
中比良真子「The world turns over」@neutron
先輩の中比良さんの2年ぶりの個展。
1度話したことがあるくらいの面識ですが、中比良さんの作品は、学生の頃から廊下に置かれていても一際光るものがあって、何度も個展には足を運ばせてもらってます。
特に水を描いた作品はとても力強くて、パッと見て中比良さんの作品とわかります。
独特な絵の具の質感も特徴で、色がとても綺麗。
今回の新作は、水に映る風景を切り取った作品たち。
元の風景である水の上の風景はすごくデフォルメされていて、水に映る像はとても鮮明。
そういう作品たちが何点か展示されていたけれど、正直前のような力が画面になかった。
事前にイメージをネットなどで見ていたのだけど、その画像を超える生の力が感じられなかった。
一番奥に飾られた作品はその点では一番力があったように思えたのだけど。
それでも、中比良さんが水にまた焦点を戻したのは興味深かった。
これからも執念深く絵筆を握っていて欲しいです。詳しくはコチラ。
田中真吾「ほどける距離」@アートスペース虹
同級生でアトリエも一緒に借りてる田中君の展覧会。
搬入をお手伝いさせていただきました。
いやー、もう作品が繊細すぎて困った。
展示してる側からハラハラ崩れて行くんですもの。
後半作家が壊れてしまって大変だったけど、まあなんとか搬入無事終了。
彼は2年の後半からずっと火を使い続けてて、もはや火の虜になりまくってる人です。
ちょっとモチーフに近づきすぎてる感があるので、側からみてて危険やなぁ、とか思ってしまうのですが、それはここで言わずとも本人に直接言えばいいので、ここでは敢えて多くを語りません。
明日までですんで、京都に寄る機会がある方は見てやってください。
編集者の小吹さんがサイトで書いてるレビューがあるので参考に。「勝手にリコメンド」。
このレビューイマイチ良く書いてるのかよくわからないけど、とりあえず「リコメンド」なんで。にしてもここの画廊主さんはとても良いキャラでした笑
作品の下に灰を散らす作者↓

シェルター×サバイバル@広島市現代美術館

さて、「MONEY TALK」に続き今年に入って早くも2度目の来訪広島現美。
その前が2004年の「オノヨーコ」展だってんだから異常なペースです。
それだけおもしろそうな展覧会をやっちゃってるんですね。どうしちゃったんでしょう。
しかも今年は確実にもう一度来ます。まだ日程は発表されてませんが、3年に1度表彰される「ヒロシマ賞」を蔡國強が受賞したことを受け、彼がこの冬にこの広島現美で展覧会をするのです。また青春18切符でがんばって行きますよ。
ちなみにこの広島現美にはスタンプカードがあって、7つスタンプを集めると展覧会が1つ無料になるんです。最初はそんなの集まっかよ!と思ってましたが、前回で3つ、今回で2つ、既に計5つも集まってるではありませんか!次で確実に7つ行きます。やっほーい。こういうの地味に好きです。
さて、今回の「シェルター×サバイバル」展に関して。
正直期待してたほどはおもしろくありませんでした。
決定的な要因は、テーマに対してゆるい作品が多すぎたこと。
具体的には会田誠、小沢剛、そしてヤノベケンジ。
特にヤノベケンジは、テーマ的には彼の作品コンセプトど真ん中なんやけど、もう彼の作品は個人的に食傷気味。最近ヤノベさんは、関西現代美術の長気取りで、村上隆よろしくみたいな感じでとても嫌。京都造形大の地下に謎のファクトリーを建てようとしてるし、気味が悪すぎです。昔国立国際がまだ万博公園内にあった頃に行われた「メガロマニア」展はすごく感動したのだけど、今では彼の作品「トラやん」を見ると、ヤノベさん本人に見えて仕方ないという感じでもう目も当てられない。
ヤノベさん以外にも、こういうテーマなら他にも良い作家はいっぱいいる。それこそこないだの川俣正もそうだし、塩田千春の東ベルリンの窓でできた家なんかもそうだ。もっとシリアスな作品が並べられていたら言うことなかったのに。
そんな中で坂茂の存在はとても貴重だった。
作品のプレゼン自体はあんまりだったけど、それでも本当にこのテーマを地でいってる作品としてこの展覧会をきゅっとしめてた気がした。にしても紙の教会とか見たかったわー。
そして、デザイナーの津村耕佑とルーシー・オルタの「纏う」という考え方はとても好きだった。
津村さんの「mother」は母親と子供を包んでしまう衣服でとてもかっこ良かった。
ルーシー・オルタの作品は手袋でできた服や、ネクタイでできた服、他にも傘やニット帽でできた服などが展示されてたんやけど、ちょっと待てよ、と思ったらこれマルジェラやないの!!となった。昨年だったかマルジェラのアーティザナルラインで手袋でできた服が発表されたが、まさにこのルーシー・オルタが本家本物なのかも。興奮して隠し撮りしまくってしまいました。ごめんなさい。そして載っけます。マルジェラ好きな方は必見です。



あとは、もとみやかをるの壁のヒビを金継ぎしてるのや、ワークショップで色んな人が色んなものを持ち寄ってたのはおもしろかった。
ってことで、まあまあの展覧会でした。
そしてこの美術館の特色として、前回の「MONEY TALK」もそうですが、コレクションを館外の人にキュレーションしてもらうという企画があり、今回は、一般の普段展覧会を手伝っているボランティアさんたちの手による常設展が行われてました。
やっぱキュレーターは必要だな、というのが僕の身も蓋もない感想でした笑
もうあるもん全部飾っちゃえとばかりにきつきつに展示されてて、作品の雰囲気なんてあったもんじゃなかったです。すごいな、素人パワー。
まあその分いつもよりたくさん作品が見れたのですが、なんだかね。
これからもおもしろい企画期待してます。できるだけ18切符の時期で。
池田亮司「datematics」@山口情報芸術センター

只今広島市内のネットカフェにてこの記事を執筆中…。
数時間前まで山口県にいました。
明日は広島市現代美術館の展覧会を観にいきます。後日アップ予定。
さて、山口県への目的は池田亮司氏の新作展。
チラシを見て以来気になってはいたものの、まさか本気で山口までやってこようとは…しかも青春18切符で大阪から10時間もかけてッ!我ながら狂ってます。青春もへったくれもありません。
到着しまず訪れたのはスタジオA。
入ると暗闇に浮かぶ一本の光の水平線。
よーく見ると、それは一本の長いフィルムで、さらによーく見ると数字が無数にマトリックスを成している。
その裏では膨大な何かのデータがひたすら流れていく巨大映像と高周波の音の洪水。
ただただ圧倒されてしまいました。
続くスタジオBでは何台かのモニターが床に等間隔に並べられていて、これまた膨大なデータの波と高周波の洪水が押し寄せる。
正直良いのか悪いのかも判断がつかない作品で、鑑賞後すごく変な違和感が残りました。
映し出された映像は一体何のデータだったのでしょうか。
また数字を使った作品ということで、チラシを見ていた時点では、宮島達男のような作品をイメージしていたのですが、それとはまた違っていて、そういう意味では実際見に来てよかったです。
しかし、こうなったら先日大阪でも行われていたパフォーマンスを見ておけばよかったと悔やまれるばかり。ダムタイプのメンバーというだけあって、やはりパフォーマンスでこそ真価を問われるんじゃないでしょうか。また機会があれば観にいきたい。
ちなみにこの池田さんはダムタイプ以外にも様々な人々とコラボしている。
2年前森美術館で行われた杉本博司展の「海景」シリーズの展示において、低音の音が流れていたのだけど、あれも池田さんの仕事。正直あれはしんどかったけど、他にもこないだの東京現代美術館における「Space for your future」展にも出品していたカールステン・ニコライとのユニットや、2000年にデンマーク・コペンハーゲンにあるルイジアナ美術館で開催された「ビジョン&リアリティ」展においてはこのブログでもおなじみ伊東豊雄氏との合作も。どんなんやったんか非常に気になる。情報お持ちの方はぜひ教えてください。
そんなこんなで、作品を観てますます謎が残るという不思議体験でした。
にしてもあんな高周波のエッジの効いた音に何時間もいるであろう監視員さんの耳が非常に気になる…大丈夫なんやろか。展覧会は5月25日まで。気になる方は是非。
ところでここの施設はとてもカッティング・エッジ!
開館してまだ5年ほどしか経っておらず、建築は磯崎新によるもの。
今回池田さん以外にも、インタラクティブなメディア・アートや、パフォーマンス映像など、前衛表現をプッシュするとても心強い施設のよう。図書館もすばらしかった。
正直最寄り駅である山口駅に降りた時には、まさかこんな施設があるなんて想像もできない辺鄙な場所でしたが…。
せんだいメディアテークといい、地方がすごすぎる!
その点都市部はホントだめ。特に大阪。腐ってます。
子供たちの姿が多々見られたんやけど、ある種これは文化の英才教育ですよ。こんな施設に子供の頃から接してたら何人かはすごいのがでてくるやも。うらやましい!現代の「松下村塾」になるか!?これからが楽しみです。
The Unilever Series 2008

来月6日までヒビが入ったままのテートですが、早くも次のユニリバーシリーズを手がける作家がテートのサイトにていつの間にか発表されてました。
作家の名前はDominique Gonzalez-Foerster(ドミニク・ゴンザレス=フェルステル)。
昨年に引き続き、誰?ってなったんやけど、検索したら、昨年のミュンスター彫刻プロジェクトにて、今までの野外彫刻をミニチュア化した人だということがわかりました。
にしてもこれまたうまくあの大きな展示室と結びつかない・・・。
結局作品が公開される10月まで予想がつきません。
今回は多分行けないからしょうもないのでお願いします(死)
The Unilever Series: Dominique Gonzalez-Foerster
14 October 2008 - 13 April 2009
Turbin Hall in Tate Modern
photo by Shingo Tanaka
宮島達男「Art in You」@水戸芸術館

宮島達男の展覧会を見にはるばる水戸まで行ってきました。
水戸芸術館は2度目の訪問。東京から2時間・・・遠い。
ここは地方の美術館ながら、ホントに素晴らしい展覧会をコンスタントに行っていて、壁の状態とかもよくて、遠いことを除けば素晴らしい美術館です。
磯崎新による設計で、芸術館というだけあり、美術だけでなく、コンサートホールなんかも兼ね備えてて、この日はフルートの演奏会があったみたい。
そんなこんなで、チケットを買っていざ中へ。
まず最初に現れるのが「Death of Time」という過去に発表した広島をイメージして作られた作品。
彼の作品は、発光ダイオードによる数字カウンターが使われ、それが部屋に一列に並んでいて各々違う速度で数字を刻んでいる。彼のカウンターには0は存在しない。0は死を意味するらしく、その0が並んだ箇所があり、そこだけが暗闇に溶けてヴォイドになっている。
次からは新作がどんどん続くんだけど、正直どれもピンとこなかった、というか、宗教色が濃すぎて全然着いて行けませんでした。彼自身ある宗教に傾倒してらっしゃるってのもあるんやけど、それにしてもちょっと無茶な感じがありました。
「命の大切さ」とかいうのはわかるんやけどねー・・・。
特にドローイングは、、、言葉もありません。
今回最も注目の高さ5.5mにも及ぶ大作「HOTO」は、仏教に伝わる「宝塔」になぞらえた作品で、色んな種類のカウンターが鏡面のそれに埋め込まれている。にしてもこの形、僕にはそそり立つアレにしか見えないのは気のせいですかね(爆死)
あと、各地でワークショップを開いて制作された「Counter Skin」や「Death Clock」もなんかピンとこなかった。後者は2005年に熊本で実際やらせてもらって楽しかったけど、今回は参加型ではなくて残念。2年以上前になるけど、すでに死相感が僕の中でも変わってるので、アップデートしたかったのだけど。長生きがしたい!
そんなこんなで、特に感動もなく終了しました。
なんだか散々なレポートですが、それでもこれだけのキャリアで回顧展になってないのはやっぱすごいな、と思った。最初の作品以外全部新作ですからね。
彼の新作を一挙に見られるという点では要チェックの展覧会。5月11日まで。
サラ・ジー展@エルメス銀座

エルメスにてサラ・ジーの個展が開催されています。
過去には金沢21世紀美術館のオープニング展や東京都現代美術館でのカルティエ財団コレクション展などで発表されてますが、個展としてはこれが日本初。
サラ・ジーは、日常にある様々なものを絶妙なバランスで組み合わせていくインスタレーション作家。
エルメスのガラスファサードと、最上階の吹き抜け空間をいかに使うかがポイント。
ドアマンにドアを開けてもらい、香水の香り漂う1Fを通り抜けエレベーターで8Fへ。
エレベーターを降りた途端、彼女の「帝国」が目に飛び込んできて大興奮。
枕、雑誌、レシート、ネジ、毛糸、、、
日常世界の物たちが、完全に彼女の作品へと昇華されている。
実際に滞在して制作しただけあって、日本の素材もたくさん。
中には、制作中に食ったのか、いなり寿司の箱やらも取り込まれてた笑
ファサードから取り込まれる光と彼女の作品がとても合ってて、特に床に敷かれていた鏡はあの作品がファサードを映し出していたのは本当に美しかった。
現代美術において、作家が死んだ後再現できるのかしら、っていう作品はたくさんあるけれど、僕が知りうる中で彼女の作品が最も再現不可なのでは、と思うんですがどうなんでしょ。
なんにせよ今回も彼女の世界爆発の展覧会。5月11日までなので、機会があれば是非!
ちなみに芳名録の僕の前に来てたのは建築評論家の五十嵐太郎さんでした。
ところで、今エルメスのディスプレイをパラモデルが担当しています。
プラレールなどを使ったインスタレーションで知られる彼らですが、今回もエルメスの商品と絡んで楽しい世界が広がってます。こちらも是非チェックです。

大西伸明「無明の輪郭」@INAXギャラリー2
どんどん凄みを増していく大西さんの「ニセモノのホンモノ」
岩、脚立、ドラム管、スツール、木、スコップ、傘。
大西さんの手によって作られるそれらは、もうホンモノにしか見えない。
多分昨年行われたノマルでの個展とあまり変わらないのだろうけど、それを逃した者としては、かなりうれしい展示でした。
写真で見てはいたものの、やっぱり実物は凄かった。
あれだけ塗装でホンモノに見えてしまうもんなんやろか?
特に傘はホンマにびっくりした。さすがにこれは無理やろと思ったけどやっぱ樹脂。
大西さんの作品には、それがニセモノだとわかる仕掛けがちゃんと隠されている。
脚立は足の部分が透明になっていたり、ドラム缶は覗き込むと樹脂素材がむき出し。
その傘も裏をのぞけばそれが樹脂だとわかるようになっている。
そしてそれらがちゃんと美しさを讃えてるのが素晴らしい。
人工物から自然物まで、もはや大西さんの手にかかれば皆作品になる。
初めて大西さんの作品を見た時は、食品サンプルとどう違うんやろ、と思ったけど、今やすごい領域まで来てしまった。留まることを知らない大西さんの活動がとても楽しみ。次はどんなものを見せてくれるんでしょうか。
この展覧会は今月29日まで。同じ銀座なので、サラ・ジーとセットで是非。
ところで今週この同じビルで、伊東豊雄の展覧会が開かれてるらしい・・・。
台湾の3大プロジェクトを取り上げたもので19日まで。
あと一週間早くやって欲しかった・・・涙
ついでに建築関連話。
今回の東京滞在中久々に美術のみの鑑賞でしたが、代官山にある小山登美男ギャラリーの西沢立衛による内装だけ見てきました。
ギャラリーの真ん中に透明アクリルの花の形のような物体が据えられていて、その中に机や椅子が置いてあるんですが、正直邪魔でしたね・・・。壁にかかってる作品引きで見れないし。あそこまで場を占領してるとは・・・。
本城直季「small planet」@Paul Smith SPACE GALLERY
表参道から少しはずれた所にあるポールスミスのブティックで行われている展覧会。
最初迷って、色んな人に助けられながら辿りつきました。東京の人は温かい。
このポールスミスのブティックがメチャクチャ良い場所でいっそ住みたかった。
近くに表参道の雑踏があるのに、少し外れただけでとても静か。
そして店内も落ち着いた雰囲気。最近のポールスミスのバッグはとてもよい。
それはともかく展覧会。
アオリという独特のピントによって生まれるミニチュアのような写真。
今回はロンドンの街並が映されていて、懐かしいと思いながら見てました。
やはり知ってる場所ってのは親近感わきますね。
にしても、彼の写真を初めて見た時は、そりゃもう驚いたけれども、トリックがわかれば感動ってのはないですね。中々難しいもんです。
展覧会よりもポール・スミスのブティック自体が楽しかった。
屋上とか素晴らしい。あそこでパーティとかやるんやろか。
展覧会は今月23日まで。お買い物がてらにどうぞ。
「BLACK,WHITE&GREY」@MA2ギャラリー
この時、原宿から代官山を通って恵比寿まで歩くという暴挙をやってしまい、このギャラリーに行くのちょっと迷ったのだけど、頑張って行ってきました。
僕の好きな作家山本基さんを含む3人のグループ展。
恵比寿から少し離れた所にあって、初めて聞くギャラリーやったけど、これがめちゃくちゃクオリティーの高いギャラリーでびっくりした。多分日本で僕が知ってる中でもかなり上位に殿堂入りです。まるでロンドンにあるギャラリーのようで、雰囲気で言えばParasol Unitに近い。や、そこまで広くないけど、2階もあって、ホント広ささえあれば完璧やった。
もう、この時点で来てよかったといった感じなんやけど、感動はここでは終わらない。
入ると、関根直子さんの鉛筆による、星空など、淡い黒がとても美しい作品や、藤井保さんの余白がたくさんの白黒写真、そしてお目当ての山本さんの迷宮ドローイングなどが並んでいた。
白・黒・灰色をテーマにした展覧会だけあって、とても落ち着いた雰囲気。
そして2階に上がると期待していなかった山本さんの塩のインスタレーション「迷宮」が広がっていてびっくり!まさか見れるとは思っていなかった。
ガラスの大窓まで塩の線が続いて行く様はとても美しかった。
そして、なんと、その側に山本基さん本人がいらっしゃるではないですか!!!!
いやぁ、もうびっくりしてかなり挙動不審になってました。
勇気を出して声をかけると、快くお話してくださって、めっちゃいい人!
6月にも展覧会があるので是非、と言われ、必ず行こうと決意しました。
いやぁ、しんどかったけど来てよかった・・・。
なんでも山本さんもホンマは来る予定じゃなかったんやけど、急に取材が入ったとかで。
なんかこういう運があるんですよね、僕。
最後には名刺までいただいちゃって、今回東京滞在最高の収穫でした。
ちなみに6月の展覧会というのは、まずラディウム - レントゲンヴェルケでの個展。こちらは6日から。そしてその次の日の7日からは足利市立美術館でのグループ展に参加されます。
今回の展覧会は終わっちゃいましたが、山本さんの実物の作品が見たい方は是非。
追記
今回ギャラリーを回っていて、東京のギャラリーマップが随分変わっていて驚く。
神楽坂にあった山本現代や児玉画廊は白金に移っているし、逆にそのビルには京都のmori yu galleryが入っているし、六本木のコンプレックスビルは取り壊されるし、やっぱり東京は忙しい。今度はこれらの移ったギャラリーも回ってみたい。
東京に行くと聖書のように、美術出版社の「TOKYO ART CRUISE!」という本を持って行ってるんやけど、森美術館が開館した頃、つまり約5年前の本なので、ギャラリーの位置とか変わりまくってて焦った。そりゃ5年もすりゃ変わるか・・・。
ちなみにこの本には既に建築やブティックの位置も書き加えられてて、僕のオリジナルとなってます。

川俣正「通路」@東京都現代美術館

注目の川俣正「通路」展に行ってきました。
ここのところMOTは話題の展覧会づくしですね。
さて、そもそも今回の注目の1つが、川俣さんがどう美術館という「アートフル」な場を使ってくるのか、ということ。彼はこれまで「アートレス」な場としての、公共空間を使ったインスタレーションを展開してきました。アートが社会の一部であるという彼の一貫したマニフェストです。
「アートフル」な場で行った展示としては、かつて水戸芸術館で行われた「デイリーニュース」という展覧会において、膨大な量の新聞を館内に積んでいったこともありましたが、今回は美術館を「通路」に見立てるという試みが行われました。
美術館というのは美術作品があるだけで、単なる通路にすぎないという川俣さんのシニカルな視線が読み取れます。
まず入り口からさっそく川俣さんの素材であるパネルなどが登場。
野外にもたくさん置かれていて、雨とか大丈夫なんやろか。
館内に入っても延々とパネルの壁が続く。上の写真のように普通は見せない土嚢などもどんどん見せちゃう。
会場に入っても延々と続く。
会場が木の独特のにおいと湿度で満たされている。
今回の展覧会は彼の30年の活動を振り返る回顧展的な要素もあって、それらの写真なども展示されていた。けれど、それらがまたパネルの裏にあったりして、美術館の裏側をのぞいているような感じがする。パネルが作品なのか、写真が作品なのかわからなくなる。
他にも作業中の場所なんかも普通に公開されている。
川俣さんのコンセプトのひとつ「work in progress」である。
作品に完成なんてものはなく、常に作業中だということ。
よく川俣さんはクリストと比べられる。同じ公共の場所を使って大掛かりなインスタレーションをするから。しかし大きな違いは、クリストの作品にはちゃんと「完成」があるということ。川俣さんの作品はいつまでも続いていけるのである。
普通展覧会というのは、展覧会が始まってしまえば、作品は変わることがない。
しかしこの展覧会は変わる。中には観客参加型のスペースも少なくない。
彼の哲学がぎゅっと凝縮されたような展示。
ちょっとわくわくしたのが、普段は入れない美術館の裏側まで「通路」が続く。
そして、カフェまで登場し、普通にビールなんかも飲めちゃう。
最初から最後までとにかく不思議な展覧会だった。
ここでふと、そういや川俣さんの生の仕事を見るのは初めてやな、と気づく。
今までマケットのようなものは見たことがあるけど、こういったインスタレーションは見たことがなかった。日本で発表される機会が少ないってのもあるけれど。
今回実際見て思ったのが、川俣さんの作品に日本人としてのコードが読み取れないということ。たとえ日本人的な、たとえば漫画とか日本画とか、そういった要素が含まれていない作家の作品でも、日本人やな、って部分が必ずどこかに存在する。しかし川俣さんの場合、それが見受けられないのである。この人はどういう背景で生まれてきた人なんやろ、と不思議だった。
この展覧会は、「よかった?」と聞かれてもよくわからない展覧会です。でも観に行く価値はあり。4月13日まで。
また、銀座のコバヤシ画廊でも、ドローイングやマケットの回顧展が先週土曜までやってました。
MOTの展示を見た後だったので、頭が飽和状態で、ふーんって感じでしたが、やっぱ川俣さんのマケットはかっこいい。普通の建築のマケットとは違ってます。
同館で同時開催されているMOTアニュアル2008。
毎年若手の作家に注目し、MOT独特の視点から紹介する企画です。
今年は「解きほぐすとき」と題し、制作過程において「解体」の要素を含む作家が5人選ばれました。
入ってまず飛び込んでくる鮮やかな赤い平面作品たちは、彦坂敏明の作品。
写真をもとにして、どんどん像を解体していくという手法で描かれているらしい。
「描かれている」といっても、版の手法で制作されていて、その上から鉛筆や水彩などで施されているので、版画とも絵画とも判別つきにくい。
描かれている像うんぬんというよりは、その色がびっくりするぐらい綺麗。
赤といっても、朱色のような赤から、紅色のような赤まで、さまざまな赤が入り乱れている。
そして、次の部屋では一変して黒。これもまたはっとするぐらい美しい。
「綺麗なだけな作品」というのは、うすっぺらになりがちだけれど、彼の作品の場合、その綺麗さだけで十分コンセプトとか飛び越えているような感じがして気持ちよかった。
同い年でこの表現は中々考えさせられる・・・。
続いて、高橋万里子の写真作品。
女の子の人形や、色鮮やかな映像、初老の女性(作家の母親)など、最初ちょっとフェミニズムっぽいな、と思ったんやけど、どの図像もはっきりしていないのがミソ。被写体があるのかないのかわからない不思議な写真だった。
金氏徹平の作品は、何度か画像では見たことがあるんやけど、「苦手やな」と思っていた。児玉画廊系の作家はちょっと苦手。
今回は初めて本物を見て、その苦手意識はふっとんだ。
まあ、めっちゃ好きってわけでもなかったけれど、それでも何かひっかかるものがあった。
彫刻もドローイングも「何が伝えたいんやろう?」って感覚が不快ではなく爽快やったのが印象的。
全体のトーンが茶色っていうのも、あまり他では見られない色味でした。
そして、今回のMOTアニュアルの特徴として、一人一人に与えられたスペースが広い!
ホント5人の個展と言った感じで、一人一人の世界にどっぷり浸かれるのが気持ちよかった。
今回の一番のお目当てが手塚愛子さんの展示。
初めて彼女の作品を見たのはアートコートギャラリーで毎年行われている、若手発掘プログラム「アートコートフロンティア」の第1回展。この展覧会は名和さんや澤田知子など、今や世界をもまたにかける作家が出品しているとても刺激的なショーだった。
そんな中で、彼女の作品は、とても力強かったのを今でも憶えている。
織物から、例えば縦糸だけを抜き出したり、赤い糸だけを抜き出したりする作品。
今回もそれらの作品が、これでもかとばかりに展示されていて気持ちよかった。
なんといっても、それがまた美しいのである。
最大の見所は幅11mにも及ぶ大作。
今回は、抜き取るのではなく、実際企業と協力して、織物自体を作って、その制作段階の状態で、端から色とりどりの糸が出ていて、その糸たちによって吊るされていた。
今まで既製の織物を使っていたのが、その織物自体を作るようになったのはおもしろいけど、今後どうそれが発展していくのかが気になる所。
また、油画出身ということもあり、本人も最近油画制作を始めている。
正直こちらは魅力的というのは難しいかも・・・。
ちょうど、第一生命ビルの南ギャラリーでも個展がやってて、こちらでも油彩が発表されていましたが、どうなっていくのでしょうか。
ちなみに第一生命は、平面の登竜門と言われるVOCA展の協賛で、ビル内に、今までの出品者の作品が展示されていてとても素敵でした。
あと1人立花文穂に関してはよくわからないので省略。
こちらも4月13日まで。川俣正とセットで是非!!
「わたしいまめまいしたわ 現代美術にみる自己と他者」@東京国立近代美術館
同じ美術館の展覧会としてもうひとつご紹介。もう終わっちゃいましたが。
この不思議なタイトルの展覧会は、「自己と他者」の問題に注目して、様々な作品を集めたもの。
出品作家がやたら豪華で、草間弥生、ゲオルグ・バザリッツ、ビル・ヴィオラ、宮島達男、河原温、澤田知子、高嶺格、フランシス・ベーコン、舟越桂、などなど。
この出品者リストに魅かれ観に行ったわけですが、キュレーションが・・・。
昔京都近代美術館で行われていた「痕跡」展同様、そもそもテーマが広すぎます。
「自己と他者」なんて、言ってしまえばすべての作品に当てはまりますからね。
もっと趣旨を絞り込まなければ散漫な展覧会になることは当然です。
この展覧会がまさにそれでした。
作品は豪華なのに、どうも集中できない。
どこかのコレクション展を見ているのとあまり変わりない感じでげんなりでした。
そもそも新作がないっていうのが痛い。
やはりちゃんと企画展をやろうと思えば、新作を出させないと駄目ですよね。
まあ、入場料420円ってのはよかったけど、それだけでしたね。
大阪・アート・カレイドスコープ2008
2004年からスタートした大阪・アート・カレイドスコープ。当初はインディペンデント・キュレーターの加藤義夫氏による、アートの多様性を見せる様な展覧会でした。第1回は見てませんが、2回目の2005年に観に行った時には、「ああ、これは見んでええな」というほどのしょぼさでした。蔡國強やオラファー・エリアソンなど、錚々たる顔ぶれが並んでいたにも関わらず、出品されていたのは小品ばかりのオンパレード。現代美術センターの小さな会場に所狭しと並べられていただけでした。
しかしこの企画が激変したのが昨年2007年。
北川フラム氏がディレクターに就任したのです。
北川さんといえば、新潟の里山の風景を利用した越後妻有トリエンナーレを企画したり、かつては「アパルトヘイト否!国際美術展」という全国194カ所を巡る展覧会を企画するなど、僕が知りうるクリスト以外の美術関係者でこれほどの「行動家」は知りません。口でものを言うだけの人ならいくらでもいるんですけどね。
彼のこの一貫した姿勢はただただ「アートを社会に還元する」ということだと思います。
美術館やギャラリーに収まらないという姿勢は、今回の企画でも同様です。
北川さんは、まず大阪という街自体に注目しました。
そして着目したのが、大阪には古いビルが多いということ。
確かに、明治から昭和初期に建てられたような「西洋チック」な建物が未だに壊されずに雑居ビルとして使われているケースが多いんですよね。スクラップ&ビルドが激しい日本としては確かに珍しい街と言えるかも知れない。マルジェラもそこに目を付け、大阪農林会館という雑居ビルにブティックを構えてますね。
そうして出来上がった企画が、これらのビルを使って展示をするということ。
これによって、「大阪でしかできない展示」が実現したのです。
前回はロンドンにいたので見れませんでしたが、今回はばっちし見てきました。
「大阪時間」をテーマに、難波宮から現在の芸術センターまで、大阪という歴史を巡る旅。
マップ片手に歩き回って、最後には足がちぎれそうになりましたが楽しかった!
そして恥を恐れず断言します。
「大阪・アート・カレイドスコープはミュンスター彫刻プロジェクトにも匹敵する」
マップ片手に歩いていて、彫刻プロジェクトを回っていた時の気持ちが蘇ったんです。
今回出品されていたのは日本人ばかりでしたが、例えばこれをヴィエンナーレやトリエンナーレ形式にして、会場をもっと増やして、会期も長くして、海外からも作家を招くなどしたら立派な国際展になる。集客力は十分にあるように思います。
大阪って日本第二の都市でありながら、国際的にはパッとしない存在なんですよね。
外人さんが日本を訪れるのは、やはり東京か京都ですよね。
その動線を大阪に引き込むのにアートを利用するっていう手もあると思うんですよ。
京都のような神社仏閣は少ないけど、こういうビルっていうのは、かつては西洋の模倣だったのに、今じゃこんな建物たち海外では見られません。回り回ってオリジナルになっちゃってるんですよ。多分外人さんから見ても面白い風景だと思う。
財政難で暗い大阪を明るくするのにアートも一躍かえると僕はこの展示を通して確信しました。
さて、肝心の内容です。
僕が上のように感動したのも、やはり作品がどれも素晴らしかったからです。
こういう外に出て行く美術展というのは諸刃の剣のようなところがあって、場所と相乗効果で素晴らしく見える場合もあれば、下手すると場所に負けてしまう作品が出てきてしまうこともある。
そんな中今回はほぼ後者のような作品は見受けられませんでした。
僕がまず行ったのは芝川ビル。
1927年に建てられ、今や国登録有形文化財。独特の雰囲気の階段を上って屋上に着くと、かなもりゆうこさんの作品が展示されている。映像では、不思議なダンスを踊る作家自身の映像。その不思議さと、このビル独特の雰囲気が合わさっていた。また野外には色とりどりの様々な形に切り取られた折り紙のようなものがばらまかれていた。会期中は屋上にカフェも出現している。

続いて大阪ガスビルディングにて瓜生昭太の作品。
彼は僕の後輩に当たりますが、とても勢力的に活動している。
現代の風景を切り取ったような、ブロンズ彫刻と背景画を組み合わせたインスタレーションが得意な彼ですが、今回も同様、ビル内にある食堂の風景を切り取っていました。真後ろがその食堂かと思ったらそうでもなかったみたい。

続いてその近くにある北野家住宅へ。
1928年に建てられ、大阪の焼夷弾の雨からも免れ、「奇跡の家」と呼ばれた、こちらも国登録有形文化財。
今は誰も住んでいないけれど、オーナーさんが時々来てメンテナンスをしているとか。普通のうちにあがる感覚でお邪魔して、2階へ。
石塚沙矢香さんの作品は、この家にある様々な道具がまるで重力を失ったように宙に浮いているというもの。この家に眠る記憶が再び蘇ったようなとても素晴らしいインスタレーションだった。写真は撮れませんでした。
続いて船場ビルディングへ。
1925年に建てられたこのビルは、入ると吹き抜けになっていて、屋上からの光が降り注ぎとても気持ちのよい空間が広がっている。エレベーターで屋上まで登ると、行武治美さんの作品。丸い鏡が無数に置かれ、置くの鳥居がまるで水面に映る影のような美しい光景が広がっていた。こういう鳥居が屋上に置かれたビルもたくさん見られますね。

「水の都」と言われる大阪を称えて作られたのが、原田明夫さんと国府理さんの作品。
原田さんの作品は川のそばで海の音が流れるというサウンドインスタレーション。
最初作品がどこにあるのかわからなくて焦って、ぼーっと近くにある川を見下ろしてたら海の音が聞こえてきたのでこれか!と。
国府さんの作品は、橋桁の下から鯨の遺跡が発見されましたといった感じの作品。
車など工業製品で作られているのが面白かった。

北浜駅にある大阪証券取引所ビルでは、松井紫郎さんの大きなバルーンの作品が、アトリウムのを貫いていてびっくりした。写真に写っている人は壁の電光掲示板で株の値動きをチェックしていてとてもシュールだった笑

大阪府立現代美術芸術センターでは三島喜美代さんと土屋公雄さんが展示していた。
まず展示室Aの三島さんは、新聞記事がプリントされた、新聞の束の陶器が天井いっぱいまでうず高く積まれて、迷路のようなインスタレーションを展開していた。いつものセンターとは全然ちがった雰囲気で、とてもおもしろかった。新聞という事件の体積が異様な空気感を放っている。展示室Bでは土屋さんの展示。百個以上はある古時計が天井から楕円状に吊るされ、ひとつひとつが時を刻むチクタクが会場に充満していて、時間というものを体感できる。

最後は難波宮へ。
恥ずかしながら、大化の改心以降、都が飛鳥から難波に移っていたことを今回始めて知りました。
大阪はかつて日本の首都だった時代があったのですね。
その宮廷跡で展示を行ったのは、平丸陽子さん、遠藤利克氏、そして日本工業大学小川研究室。平丸さんは、生い茂った藤棚を使って、天井から色とりどりの布を垂らし、そこに1000個もの鈴を巻き付けることで、風が吹く度に鈴の音が鳴り響くというインスタレーション。とても神秘的でした。遠藤さんは火や水という自然物を使いながら作品を作る作家。今回は神殿と呼応するような儀式的な場を、焼けた木を使って表現されてました。小川研究所は、様々な棒のようなものを組み合わせたオブジェを制作。暗くなると光るとかで、その瞬間を見たかった。


20世紀が生み出したホワイトキューブという白い均質な空間は、場所性を排除し、作品がどこでも同じように見せられるという効果を生み出した。しかし、それは、作品と場所との関係を完全に無視したもの。今回の展示はこれらの作品を通して大阪という街を再発見することができた。僕は今は兵庫県に住んでいるものの、大阪で生まれ15歳まで育った環境だけに、なんだか自分のルーツを見る様な気分で回ってました。今月20日まで行われているので、お時間があれば是非回ってみてください。まずは芸術センターでマップを手に入れるのがベター。
同じく、ホワイトキューブを使わず公共の場で展示を行っている、「うちゅうのたまご」展へ。
こちらは、pia NPOというNPOばかりが入っているビル。
NPOってこんなにあるのか!とびっくりしました。大阪は特に多いらしいですね。
さて、中に入ってまずはまぐちさくらこさんの作品が展示されていました。
が、その展示があまりに「とってつけた」ような感じでのっけから引いてしまいました。
不安を憶えつつ、エレベーターで最上階まで。
非常階段に展示されていたのは梅田哲也さんの作品。こちらも残念ながら微妙。
また、窓に不思議なシートを貼付けた作品を出品されていた仙石彬人さんの作品は、外の景色が、まるで昆虫の複眼のように増殖していて楽しかったんだけど、素材に頼っている感が否めない。
そして今回お目当ての山岡敏明さんの展示。
写真作品のクオリティの高さに山岡さんらしさを感じてとてもよかった。すごい自然な感じで展示されているのも中々。ただモチーフというか、山岡さんが作り続けている「グチック」という物体が、ちょっと観客との距離を離しているような感もあった。特に「グチック玉」が空に飛んでいる写真も、純粋にその世界に入れたらいいんだけど、僕は入れませんでした。暗闇の中に現れる顔もこれまでの「グチック」ではなくて、改めて「グチック」とは一体何なのかを提示する必要がある気がします。特に始めて山岡さんの作品を見た方などは僕よりもっと戸惑われるのではないかしら。地下の展示は、プラセボ効果で出していた時よりバリエーションがなかったのも残念でした。
全体としては、「ここでなければならない」展示、つまりサイトスペシフィックな展示があまり見受けられなかったのが残念でした。山岡さんの写真作品が唯一この建物をテーマに作られていたのみ。まあ、制約は多々あったでしょうが。
こちらは今月23日まで。

追記
先ほど録画しておいた新・日曜美術館を見ました。
大阪ミナミの戎橋にあったKPO。昨年閉館し、その20年を振り返る内容。
改めて大阪のアートの殿堂がひとつ姿を消したんやな、としみじみしてしまいました。
大阪は功利主義な街なので、金になりにくいアートは育ちにくい環境です。
それでも今回のカレイドスコープのような活動を通して、大阪から発信できるアートがどんどん生まれていければと、日々思うのであります。
しかしこの企画が激変したのが昨年2007年。
北川フラム氏がディレクターに就任したのです。
北川さんといえば、新潟の里山の風景を利用した越後妻有トリエンナーレを企画したり、かつては「アパルトヘイト否!国際美術展」という全国194カ所を巡る展覧会を企画するなど、僕が知りうるクリスト以外の美術関係者でこれほどの「行動家」は知りません。口でものを言うだけの人ならいくらでもいるんですけどね。
彼のこの一貫した姿勢はただただ「アートを社会に還元する」ということだと思います。
美術館やギャラリーに収まらないという姿勢は、今回の企画でも同様です。
北川さんは、まず大阪という街自体に注目しました。
そして着目したのが、大阪には古いビルが多いということ。
確かに、明治から昭和初期に建てられたような「西洋チック」な建物が未だに壊されずに雑居ビルとして使われているケースが多いんですよね。スクラップ&ビルドが激しい日本としては確かに珍しい街と言えるかも知れない。マルジェラもそこに目を付け、大阪農林会館という雑居ビルにブティックを構えてますね。
そうして出来上がった企画が、これらのビルを使って展示をするということ。
これによって、「大阪でしかできない展示」が実現したのです。
前回はロンドンにいたので見れませんでしたが、今回はばっちし見てきました。
「大阪時間」をテーマに、難波宮から現在の芸術センターまで、大阪という歴史を巡る旅。
マップ片手に歩き回って、最後には足がちぎれそうになりましたが楽しかった!
そして恥を恐れず断言します。
「大阪・アート・カレイドスコープはミュンスター彫刻プロジェクトにも匹敵する」
マップ片手に歩いていて、彫刻プロジェクトを回っていた時の気持ちが蘇ったんです。
今回出品されていたのは日本人ばかりでしたが、例えばこれをヴィエンナーレやトリエンナーレ形式にして、会場をもっと増やして、会期も長くして、海外からも作家を招くなどしたら立派な国際展になる。集客力は十分にあるように思います。
大阪って日本第二の都市でありながら、国際的にはパッとしない存在なんですよね。
外人さんが日本を訪れるのは、やはり東京か京都ですよね。
その動線を大阪に引き込むのにアートを利用するっていう手もあると思うんですよ。
京都のような神社仏閣は少ないけど、こういうビルっていうのは、かつては西洋の模倣だったのに、今じゃこんな建物たち海外では見られません。回り回ってオリジナルになっちゃってるんですよ。多分外人さんから見ても面白い風景だと思う。
財政難で暗い大阪を明るくするのにアートも一躍かえると僕はこの展示を通して確信しました。
さて、肝心の内容です。
僕が上のように感動したのも、やはり作品がどれも素晴らしかったからです。
こういう外に出て行く美術展というのは諸刃の剣のようなところがあって、場所と相乗効果で素晴らしく見える場合もあれば、下手すると場所に負けてしまう作品が出てきてしまうこともある。
そんな中今回はほぼ後者のような作品は見受けられませんでした。
僕がまず行ったのは芝川ビル。
1927年に建てられ、今や国登録有形文化財。独特の雰囲気の階段を上って屋上に着くと、かなもりゆうこさんの作品が展示されている。映像では、不思議なダンスを踊る作家自身の映像。その不思議さと、このビル独特の雰囲気が合わさっていた。また野外には色とりどりの様々な形に切り取られた折り紙のようなものがばらまかれていた。会期中は屋上にカフェも出現している。

続いて大阪ガスビルディングにて瓜生昭太の作品。
彼は僕の後輩に当たりますが、とても勢力的に活動している。
現代の風景を切り取ったような、ブロンズ彫刻と背景画を組み合わせたインスタレーションが得意な彼ですが、今回も同様、ビル内にある食堂の風景を切り取っていました。真後ろがその食堂かと思ったらそうでもなかったみたい。

続いてその近くにある北野家住宅へ。
1928年に建てられ、大阪の焼夷弾の雨からも免れ、「奇跡の家」と呼ばれた、こちらも国登録有形文化財。
今は誰も住んでいないけれど、オーナーさんが時々来てメンテナンスをしているとか。普通のうちにあがる感覚でお邪魔して、2階へ。
石塚沙矢香さんの作品は、この家にある様々な道具がまるで重力を失ったように宙に浮いているというもの。この家に眠る記憶が再び蘇ったようなとても素晴らしいインスタレーションだった。写真は撮れませんでした。
続いて船場ビルディングへ。
1925年に建てられたこのビルは、入ると吹き抜けになっていて、屋上からの光が降り注ぎとても気持ちのよい空間が広がっている。エレベーターで屋上まで登ると、行武治美さんの作品。丸い鏡が無数に置かれ、置くの鳥居がまるで水面に映る影のような美しい光景が広がっていた。こういう鳥居が屋上に置かれたビルもたくさん見られますね。

「水の都」と言われる大阪を称えて作られたのが、原田明夫さんと国府理さんの作品。
原田さんの作品は川のそばで海の音が流れるというサウンドインスタレーション。
最初作品がどこにあるのかわからなくて焦って、ぼーっと近くにある川を見下ろしてたら海の音が聞こえてきたのでこれか!と。
国府さんの作品は、橋桁の下から鯨の遺跡が発見されましたといった感じの作品。
車など工業製品で作られているのが面白かった。

北浜駅にある大阪証券取引所ビルでは、松井紫郎さんの大きなバルーンの作品が、アトリウムのを貫いていてびっくりした。写真に写っている人は壁の電光掲示板で株の値動きをチェックしていてとてもシュールだった笑

大阪府立現代美術芸術センターでは三島喜美代さんと土屋公雄さんが展示していた。
まず展示室Aの三島さんは、新聞記事がプリントされた、新聞の束の陶器が天井いっぱいまでうず高く積まれて、迷路のようなインスタレーションを展開していた。いつものセンターとは全然ちがった雰囲気で、とてもおもしろかった。新聞という事件の体積が異様な空気感を放っている。展示室Bでは土屋さんの展示。百個以上はある古時計が天井から楕円状に吊るされ、ひとつひとつが時を刻むチクタクが会場に充満していて、時間というものを体感できる。

最後は難波宮へ。
恥ずかしながら、大化の改心以降、都が飛鳥から難波に移っていたことを今回始めて知りました。
大阪はかつて日本の首都だった時代があったのですね。
その宮廷跡で展示を行ったのは、平丸陽子さん、遠藤利克氏、そして日本工業大学小川研究室。平丸さんは、生い茂った藤棚を使って、天井から色とりどりの布を垂らし、そこに1000個もの鈴を巻き付けることで、風が吹く度に鈴の音が鳴り響くというインスタレーション。とても神秘的でした。遠藤さんは火や水という自然物を使いながら作品を作る作家。今回は神殿と呼応するような儀式的な場を、焼けた木を使って表現されてました。小川研究所は、様々な棒のようなものを組み合わせたオブジェを制作。暗くなると光るとかで、その瞬間を見たかった。


20世紀が生み出したホワイトキューブという白い均質な空間は、場所性を排除し、作品がどこでも同じように見せられるという効果を生み出した。しかし、それは、作品と場所との関係を完全に無視したもの。今回の展示はこれらの作品を通して大阪という街を再発見することができた。僕は今は兵庫県に住んでいるものの、大阪で生まれ15歳まで育った環境だけに、なんだか自分のルーツを見る様な気分で回ってました。今月20日まで行われているので、お時間があれば是非回ってみてください。まずは芸術センターでマップを手に入れるのがベター。
同じく、ホワイトキューブを使わず公共の場で展示を行っている、「うちゅうのたまご」展へ。
こちらは、pia NPOというNPOばかりが入っているビル。
NPOってこんなにあるのか!とびっくりしました。大阪は特に多いらしいですね。
さて、中に入ってまずはまぐちさくらこさんの作品が展示されていました。
が、その展示があまりに「とってつけた」ような感じでのっけから引いてしまいました。
不安を憶えつつ、エレベーターで最上階まで。
非常階段に展示されていたのは梅田哲也さんの作品。こちらも残念ながら微妙。
また、窓に不思議なシートを貼付けた作品を出品されていた仙石彬人さんの作品は、外の景色が、まるで昆虫の複眼のように増殖していて楽しかったんだけど、素材に頼っている感が否めない。
そして今回お目当ての山岡敏明さんの展示。
写真作品のクオリティの高さに山岡さんらしさを感じてとてもよかった。すごい自然な感じで展示されているのも中々。ただモチーフというか、山岡さんが作り続けている「グチック」という物体が、ちょっと観客との距離を離しているような感もあった。特に「グチック玉」が空に飛んでいる写真も、純粋にその世界に入れたらいいんだけど、僕は入れませんでした。暗闇の中に現れる顔もこれまでの「グチック」ではなくて、改めて「グチック」とは一体何なのかを提示する必要がある気がします。特に始めて山岡さんの作品を見た方などは僕よりもっと戸惑われるのではないかしら。地下の展示は、プラセボ効果で出していた時よりバリエーションがなかったのも残念でした。
全体としては、「ここでなければならない」展示、つまりサイトスペシフィックな展示があまり見受けられなかったのが残念でした。山岡さんの写真作品が唯一この建物をテーマに作られていたのみ。まあ、制約は多々あったでしょうが。
こちらは今月23日まで。

追記
先ほど録画しておいた新・日曜美術館を見ました。
大阪ミナミの戎橋にあったKPO。昨年閉館し、その20年を振り返る内容。
改めて大阪のアートの殿堂がひとつ姿を消したんやな、としみじみしてしまいました。
大阪は功利主義な街なので、金になりにくいアートは育ちにくい環境です。
それでも今回のカレイドスコープのような活動を通して、大阪から発信できるアートがどんどん生まれていければと、日々思うのであります。