Doris Salcedo @ Tate Modern

今年もテートの目玉企画ユニリバーシリーズが始まりました!
今年の作家はコロンビア在住の彫刻家ドリス・サルセド。
彼女の作品に関しては先月のホワイトキューブでの展示をご覧下さい。
毎度今回はどうくるかと期待させられ、毎度期待を上回るものを拝めるこの企画。
テートのタービンホールという無二の世界最大室内展示室をどう料理するかがポイント。
そして今回もやられました。
前回の途中経過で床のセメントを削っていたので、それをどう使うのか疑問でしたが、まさかそれ自体が作品だったとは。してやられました。

そうなんです。このタービンホールの床176mを突っ切る亀裂こそ彼女の作品!
なるほどー、こうきたかーといった感じ。
髪の毛のような細い亀裂から段々大きな亀裂へ。

彼女独特の抑圧された者だけが奏でられる不協和音がタービンホールにこだましていました。
というのもこの作品。人種差別や移民問題など、様々な差別の境界線を意味しているのです。
この亀裂には境界を暗示するフェンスが埋め込まれている。

そして「SHIBBOLETH」という作品タイトルにも色んな意味が込められている。
辞書でこの言葉を引くと「しきたり」という言葉が出てくるが、この言葉には暗い歴史が隠されている。旧約聖書によると、戦に勝ったギデオン族が、「sh」の発音ができなかったエフライム族をあぶり出すのに使った言わば踏み絵のような言葉らしい。
RとLの発音の出来ない日本人にも何かできそうだな、とふっと思ったり。個人的にはBとVの発音の方が難しい気がするんだけどどうでもいいですね。

これを見ていてふっと阪神大震災のことを思い出した。
当時震源地にはいなかったものの、あの不気味な揺れは実感として覚えている。
その後父親に連れられ見た神戸の風景はこの世の終わりのような光景だった。
この作品とそれを比べるのには中々無理はあるが、理不尽な力によってねじ伏せられる負の空気は共通するものがあったのかもしれない。

またこれはドリスなりの西洋美術が作り上げてきた「美」の概念への挑戦でもあるらしい。
それをテートの床に亀裂を走らせることで表現したドリス。凄い人だ。
そしてそれを許したテートもすごい。
ロンドンのこういうところがすごいなーって毎度感心してしまう。
例えばこれをアメリカで実現する事ができただろうか?
誰が自分たちの悪を暴くような行為を進んで受け入れるだろう?
人種のサラダボール状態なロンドンだけど、ここに暮らしていてまだ明からさまな差別にあったことはない。それは差別が徹底して犯罪だと認識されているといことが大きい。
アメリカやフランスではまだまだ明からさまな差別があると聞く。
ロンドンはそういう点では進んでいる。(他の点では周回遅れも甚だしいが)
そうした土地だからこそこの作品ができたのかもしれない。
今回で8回目を迎えたユニリバーシリーズ。また新たな伝説が生まれた。
あー来年は多分見れないなー。いいのじゃないといいな(ぉ
ちなみに4月の会期終了後、この亀裂はまたセメントで埋められるが、テートの傷跡として残ることになる。



The Unilever Series: Doris Salcedo
Tate Modern
9 October 2007 - 6 April 2008