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skulptur projekte munster 07


10年に1度開催されるミュンスター彫刻プロジェクトに行ってきた!
70年代初頭、市がヘンリ・ムーアの彫刻寄贈を断ったのが事の発端。
これを機にパブリック彫刻を考え直そうと立ち上がったのがこのプロジェクト。
今回で4度目を迎え、今ではすっかり歴史ある国際展のひとつとなっている。

今回招かれた作家は33人(組)。それに過去のプロジェクトで恒久設置となった作品37作品を合わせて合計70作品が街のあちらこちらに点在している。それらを自転車を借りて地図を片手に探していくのがとても爽快。
ただ、本当に探しにくいのもあって、さすがに1日や2日ですべては無茶かも。
今回のグランドツアーで一番楽しく、また考えさせられることの多かったのはこのミュンスターかもしれない。
10年という区切りが、とてもシンプルで、時代の流れ、アートシーンの変貌が露になっている。
今回の新作郡に限っていえば、単純に残らないものが多いのが特徴的。
多分残るのはブルース・ナウマンの初回から40年越しに実現した逆ピラミッド(中央に行けば視界から周りの景色が消え、空だけになると聞いていたが、一切合切が見えてげんなりだった)や、ギョーム・ベイルの遺跡を発掘したような'A Sorry Installation'、ドミニク・ゴンザレス=フェルステルのこれまでのプロジェクト作品をすべてミニチュア化して公園に設置した作品群、そしてシュッテの噴水をガラス張りで囲った作品ぐらいだろうか。またはアンドレアス・ジークマンの巨大ゴミボールや、マーティン・ボイスの幾何学的な石板(間に真鍮が埋め込まれていてタイトルの’We are still and reflective'が浮かび上がる。言われなわからん)も残るか。市中央に建ってたマルコ・ハレンカのサーフボードを花に見立てた作品も残るかも知れない。
ざっと挙げてみたが、やはり33作品の中からこれだけというのは実に少ない気がする。
というのは、今回彫刻という域から逸脱した作品が特に目立っていたのが大きい。
スーザン・フィリップスの橋の下のサウンドインスタレーションはまだいいとしても、アネット・ヴェアマンの工事現場を見立てた作品や、スーチャン・キノシタの部屋のインスタレーション、またはトゥエ・グリーンフォルトの湖の水をひたすら噴射する作品、今回話題を集めていたマイク・ケリーの動物小屋など、恒久設置は不可能な作品たち。
そして映像作品なんかも多かったが、はっきりいって映像は彫刻ではない。
いくら彫刻の概念が広がったといっても、彫刻は「もの」である必要が最低条件のような気がする。
自転車を漕いで映像を見せるガイ・ベン=ナーの作品は自転車天国のミュンスターという街の特性と、じっと見てると疲れる映像に運動を取り入れたという点で個人的には好きだが美術館内で映像だけで切り離されて展示されてあったのはいかがなものか。
また、ドキュメンタリー系の作品を作るジェレミー・デラーは市内のガーデニング施設そのものを作品として見立て、そこの人々に今後10年の記録をとってもらい、次回のプロジェクトで発表するという他力本願的作品もあった。また観客に10年後に花を、という名目で種を販売していたらしいが、行った時間が遅かったのか、僕らが行った頃には売ってなかった。にしてもこれを彫刻と言ってよいのだろうか?

とにかく今回見ていて思ったのが、確実にアートがわかりにくくなっているということ。
それは過去の作品達と同時並行で見ていると如実に浮かび上がってくる。
例えば、87年の2度目の彫刻プロジェクトの作品が一番多く残されていたのだが、本当に良作が多く、20年が経った今でも色あせていない。公園にぽんと置かれたペノーネの作品や、暗闇の中で壁をコツコツ叩く装置を設置したレベッカ・ホーンなど。ダン・グラハムの緑の中に突如出現する鏡張りの建物も幻想的ですばらしかった。
97年のカバコフの作品もとても癒されるし、ホワイトリードの美術館内に設置されていた本棚のネガティブ彫刻は神の域に到達していた。
これらは恒久設置として市や美術館に買い上げられた作品達とあって、レベルが高いのは当然といえば当然なのだが、今回のプロジェクトにそれだけの価値がある作品があったかと問われると首を縦に振るのは難しいといわざるを得ない。
現代美術とクラシックな作品の大きな違いは「時間」である。
ダ・ヴィンチやフェルメールの作品が今でも残っているのはちゃんと「時のふるい」にかけられた結果である。
彫刻プロジェクトはたった40年だが、それでも「時のふるい」はしっかり存在していた気がする。
今回の作品達がちゃんと「時のふるい」にかけられ残るのか。
また10年後に確かめにきたいものである。

ところで、今回の新作で僕が一番好きだった作品はパヴェウ・アルトハメルの「路」。
野原や畑に作られた長い長いけもの道をひたすら自転車で走っていく。
麦畑の間を走っていく姿がメディアに載ってたのでそれを期待してたのに、僕らが行った時には刈られてた。。。会期終了まで待ってくれよ!それでもがたがた道をケツが痛くなりながらもチャリで跳ばすのはとても気持ちいい。
そして最後、トウモロコシ畑に到達すると道が途切れていて、すっかり疲れ果ててぼーっとしてると、近くで遊んでいた少年達が僕らに寄ってきて、拾っていたドングリを両手で抱えきれないくらいくれた。言葉は通じないけど、こういうコミュニケーションは本当にすばらしく、思わぬ副産物にここまで来た甲斐があったというもの。
この作品を彫刻と呼ぶには難しいし、多分残されることはないだろうけど、知らない街を色んな側面から見渡せるという点で、ミュンスター彫刻プロジェクトの真の目的が反映されているんじゃないか、と思った。
美術館ではこれまでの40年間に渡る彫刻プロジェクとのアーカイブが展示され、40年続けてきたんだ、という街の誇りが垣間みれて、ものすごく羨ましかった。日本にも直島のような所があるが、こうした街おこしの仕方はもっと日本も見習ってほしい。
体のあちこちが悲鳴をあげながら直走ったミュンスター。10年後もまた来たい!
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